進まぬワクチン3回目接種。遅れの「3つの原因」とは?
政府が進める新型コロナワクチンの3回目接種。接種前倒しが発表されたものの、3回目接種が完了した人は、全体の2%台にとどまっている。政府内などで指摘される、接種が遅れる「3つの原因」とは。
■3回目のワクチン接種…いまだに2%台
「昨日から少ししか増えていないじゃないか」
ワクチン3回目接種の回数について報告を受けた岸田首相は、こう不満を口にしたという。
政府は2回目からの接種間隔を、高齢者は6か月、64歳以下は7か月に前倒ししたが、1月26日時点で3回目接種が完了した人は、全体のわずか2.3%だ。なぜ接種が進まないのか。関係者を取材すると、3つの原因が浮上してきた。
■接種間隔「8か月」か「6か月」か 判断の遅れ
1つめの原因は、2回目からの接種間隔を6か月に前倒しする政府の判断が遅れたことだ。去年11月時点で、厚生労働省は接種間隔を、製薬会社の治験などに基づき「原則8か月」としていた。専門家からは「第6波は必ず来る。高齢者の感染予防効果が落ちているので、高齢者施設の入所者らだけでも、早く3回目接種を始めるべきだ」と接種の前倒しを求める声も出ていたが、厚労省は動かなかったという。
12月になり、厚労省は、接種を前倒しする対象について検討を始めた。高齢者全員なのか。高齢者施設の入所者に絞るのか。なかなか方針が決められず、時間が経過する。ワクチン輸入の前倒しが難しい中、高齢者が殺到してワクチンが不足し、自治体や高齢者らから批判が出ることを恐れたとみられる。
結局、政府は12月17日に、高齢者施設の入所者などの接種前倒しを発表。さらに、オミクロン株の感染急拡大を受け、今月に入って一般の高齢者や64歳以下の人の接種、そして職域接種の前倒しを決断することとなった。
ワクチン接種の推進に携わる政府関係者は「厚労省が接種間隔を8か月と言い続けたので、多くの自治体が3回目接種の開始を3月と想定して準備をしていた。政府が急に接種間隔を早めることにしたため、自治体も医療機関も準備が間に合っていない。しかも、モデルナのワクチンの在庫を国が抱えたまま、自治体に送っていなかった。今月になり、ようやく大量に自治体に送った」と解説する。
別の政府関係者は「薬事承認の接種間隔は最短で6か月。欧米はすぐに6か月で対応していた。なぜ、厚労省は8か月にこだわったのか。6か月にする判断が遅かった」と話す。
■「ワクチン担当なのに会議に呼ばれない」
2つ目の原因としては、堀内ワクチン担当相の発信力、調整力不足との指摘があがる。政府は、21日、医療従事者らと高齢者の3回目接種を、2月末までに終えられる見通しの市区町村が、全国で8割以上にのぼるとする調査結果を発表した。政府関係者は「自治体を切磋琢磨させるためだ」と狙いを明かす。
調査結果を発表する前、岸田首相は松野官房長官や金子総務相と協議をしたが、そこに堀内ワクチン担当相の姿はなかった。政府関係者は「まさにワクチン接種の協議だったのに堀内担当相は呼ばれなかった」と話す。当選3回でワクチン担当相に抜擢された堀内氏だが、去年の臨時国会で、不安定な答弁が問題になり、政府内では、後藤厚労相がワクチン接種に関する主な発信を担うようになった。政府与党内からは堀内担当相の発信力や調整力、そしてリーダーシップに疑問の声が上がっている。
河野前ワクチン担当相は周辺に対し「厚労省と日本医師会の言うことを聞いていたら接種のペースアップなんかできない」とワクチン担当相が接種の推進を主導する必要性を語ったという。自民党の厚労族議員は「堀内担当相がリーダーシップを発揮して接種を進める必要があるが、それは無理だろう。かなり厳しい状況だ」と嘆く。
■"不人気"モデルナ製ワクチン…安全性をアピールするには
そして、3つめの原因が、モデルナの“不人気”だ。2回目までファイザーを接種した人のうち、3回目にモデルナを打つ「交互接種」をためらう人や、モデルナに副反応の事例が多いことを気にする人がいることから、ファイザーに希望が集中する懸念が指摘されている。3回目接種を始めたものの、予約枠がなかなか埋まらない自治体があることについて、首相周辺は「モデルナを打てるのに打ちにこない高齢者がいる」と分析している。
「交互接種」の方が、抗体が増えるとの研究結果もある中、岸田首相は、自身の3回目の接種は、モデルナを使用することを発表した。政府は、モデルナの接種を呼びかけるテレビCMも放映する予定で、首相周辺は「モデルナの有効性や副反応は少ないということをアピールし、接種を推進したい」と強調する。
■「接種遅れが命取りに」
政府与党内には「3回目接種の遅れが岸田政権の命取りになるかもしれない」という危機感が広がっている。岸田政権は正念場を迎えている。