【解説】ポスト“安倍政治”の構築 突然の死の影響は…
27日、安倍晋三元総理大臣の国葬が東京・千代田区の日本武道館で行われました。歴代最長の通算8年8か月にわたって政権運営を担った安倍元総理。その突然の死の影響は? そして評価が交錯する“安倍政治”の功罪と、ポスト“安倍政治”の構築は。日本テレビの粕谷賢之解説委員長が解説します。
■安倍元総理の「政治的資源」…選挙に勝ち抜き、“やらなくてはならない政策”をやり抜く
──安倍元総理といえば、選挙に強かったというイメージがありますが、どのような政治家だったのでしょうか。
ひとつ政治手法の特徴としては、常に選挙のことを考えていたということがあると思います。これは頭のど真ん中で常に考えているわけですね。いつやったら選挙に勝てるだろうか、自分が支持を得られるだろうかということです。
それがうまくはまってと言いますか、計算通りに6回の国政選挙を勝ち抜いた。衆議院3回、参議院3回ですね。そして選挙に勝ち抜きますと、これを「自分は政治的資源を得た」という見方をします。つまり、国民の支持をもって政権の推進力にするという意味です。それを活用して、支持率を下げても、人気がない政策でも、やらなくてはならない政策にそれを振り向けるということをしてきました。
例を挙げるとひとつは2015年の安保法制、これは集団的自衛権の行使に道を開いた法制です。それから消費税の引き上げも2回やりました。14年には8%に上げ、19年には10%に上げた。こういった政策は、世論の反発があってもやり抜くという強い信念のもとにやったということです。
■安倍元総理の突然の死は「国家的損失」
──安倍元総理の死というのは、日本の今後の政治にはどのような影響があるのでしょうか。
9年近く政権を担当したリーダーが、政権から退いて、たった2年で亡くなってしまったというのは、私は国家的損失であると思います。
これはなにも安倍さんを神格化しようとして言っているのではありません。総理大臣というのは、その地位でしか知り得ない知見、あるいは経験というものがある。これがこの後、国家的な災難、災害であったり、主権に関わるようなことであったり、そういう時に、日本中の知見を総合的に集めて判断をしなければならない局面というのは必ずあると思う。そういう時に、こういうものが生かされない。
しかも、今回は安倍さんは、この段階で亡くなると思っていませんから、そういう知見を書物に残す、あるいは誰か後継の政治家に託すという時間もありませんでした。従って、これが大きなロスと私は認識しています。
■ポスト“安倍政治”の構築
──「ポスト“安倍政治”の構築」というポイントを挙げていますが、この意味は。
安倍さん亡き後、“安倍政治”の後の政治をどういうふうに構築するかということが真っ先に求められることになります。具体的には2つの側面があると思います。
ひとつは政治面で、安全保障の面で、安倍さんは亡くなる直前には「抑止力を高めなければならない」、つまり軍事的なパワーバランスを、日本の軍事力を抑止力として高めるということが必要だと。具体的には防衛費をGDPの2%程度にまで引き上げて、日本の防衛力を充実させなければならないということを言っていました。いわばその論の旗振り役が安倍さんだったわけです。
それに代わる人はいなくなりました。それを誰がやるのかということが、ひとつの問題だと思います。
さらに、それを受け止めた岸田政権が、この問題についてどういうふうに着地させるのかということは喫緊の課題であると思います。
一方で、経済。アベノミクスについては、批判が伴ってきました。ただ、最悪の経済の状況を脱して、円安の誘導、あるいは株価を引き上げるということについては、一定の成果を収めたと思います。しかし、第一の矢の金融政策、第二の矢の財政政策に続く、第三の矢、成長戦略という意味においては、なかなか良い方向には向かわなかった。それは、安倍政権のあとを引き継いだ菅政権、岸田政権になってもそうです。
この成長路線をいかにきちんとしたものに仕上げていくのかという時に、アベノミクスの修正ということが、おそらくテーマになるんだろうと思います。
これは安倍さんの生前には実は、安倍さん自身はアベノミクスを批判されることを一番嫌った。ただ、良きにしろ悪しきにしろ、そういう形の局面はこれで終わります。その段階で、どういうふうにアベノミクスの路線を修正していくかは、まさに岸田政権がどういう、自らの新しい資本主義を肉付けしていくかという具体論に入っていきます。ここが大きなポイントになると思います。
当面、一番大きな課題とみられるのが、来年の4月には日銀総裁の任期が切れます。黒田総裁のあとの人事に誰を据えるかということを、金融界では見つめております。