岸田首相がお土産に“必勝しゃもじ”……地元観光協会も「微妙」と苦言
■“必勝しゃもじ”めぐり野党は「不適切」と批判
岸田首相は3月21日、ウクライナの首都、キーウを電撃訪問。
ゼレンスキー大統領と初めて対面で会談し、殺傷能力のない装備品などを支援する考えを伝えた。
その際、岸田首相はお土産として「必勝」と書かれた自身の地元・広島の特産品である「しゃもじ」も贈っていたのだ。
3月24日の参議院予算委員会で立憲民主党の石垣のりこ議員が、岸田首相に「しゃもじ」を贈った理由について質問すると、岸田首相は「外交の慣例として、地元(広島)の名産の土産を持っていくことをよくやる。今回、地元(広島)の名産である『しゃもじ』をお土産として使った」と説明した。
これに対し石垣議員は「日本がやるべきは、和平をどう行うかで、必勝というのは不適切だ」と批判した。
■宮島観光協会に聞く「しゃもじ」の意味
そもそもなぜ「広島の名産がしゃもじ」なのか。
広島県の「宮島観光協会」によると、「しゃもじ」は正式には「杓子(しゃくし)」と呼ばれ、その発祥の地こそが世界遺産の厳島神社などで知られる、広島県の「宮島」だという。
それでは「必勝」と「しゃもじ」にはどういった関係があるのか聞いてみると、起源は日露戦争に遡るという。
日露戦争の時代、広島湾に位置する宮島は、軍人たちの出征地の一つとなっていたため、軍人たちは出征前、宮島の厳島神社を訪れ、無事に帰ってくることを祈念し、お守り代わりとして、しゃもじを奉納していたという。
宮島観光協会の担当者によると「しゃもじは『飯(めし)をすくう」もの。つまり、『飯(めし)とる』もの。それが転じて、『敵を召し捕る』という意味で、『勝つための縁起物』として世に知られるようになった」ということだが、現在では、勝ち負けだけでなく、「家内安全」「夫婦円満」など“一般的なお願い”を祈念する文字が書かれているものも多いという。
今回の岸田首相の行動について、宮島観光協会の担当者も、「杓子(しゃくし(しゃもじ))が世に広まることは大変喜ばしいことだが、『必勝』という文字が適切だったかは微妙なところ。ウクライナの人たちは、本当に命をかけて戦っている。『愛』や『平和』などと書かれたしゃもじを贈っても、“平和ボケ”と言われてしまうだろう」と複雑な心情を打ち明けた。
■岸田首相は「総裁選」でも“必勝しゃもじ”使用
実は岸田首相は2021年に勝利した自民党総裁選挙の際に、地元後援会から贈られた“必勝しゃもじ”を飾っていた。
立憲民主党の蓮舫参院議員はSNSで、「選挙と戦争の区別がつかないとしか思えない。本人も躊躇(ちゅうちょ)しなかったのだろうか」と批判。
同党の小沢一郎議員も「多くの命が犠牲となる戦争というものの本質を全く理解していないからこそ、このような無神経なことができる。言葉も無い」と批判した。
各党幹部からも、批判が相次いでいる。
立憲民主党の泉代表は、「戦争中の緊迫した国家の元首に対し贈るのは違和感がぬぐえない。本来必要なのは、発電機やカイロなど、実際にウクライナの民生に役に立つものだ」と述べた。
さらに日本維新の会の馬場代表も、「生きるか死ぬかという戦いの場に、地元の名産品を持って行くのはお気楽すぎる」と批判した。
一方、自民党の世耕参院幹事長は「気持ちとしては健闘を祈るということではないか」と、岸田首相を擁護。また、ある首相周辺は「しゃもじに反応する理由が分からない。平和を守る戦いだと首相は言っている」と反論している。