【発足半年】「安倍政権なら支持率は半分」岸田政権“異例の決断”の背景
岸田政権が発足して4日で半年を迎えた。新型コロナ対応、ロシアによるウクライナ武力侵攻など、課題が山積する中、内閣支持率は発足以来50%を維持している。首相は政権運営にあたり、どう決断してきたのか。
■「聞く力」で“朝令暮改”も…高い支持率に
「課題山積であり、気の抜くことのできない半年であったと振り返っています。大変難しい判断、決断の連続でありました」政権発足から半年の朝、首相官邸で記者団の取材に答えた岸田首相。周囲の秘書官たちが笑みを浮かべる中、岸田首相の表情は、今後の政権運営を見据え厳しいものだった。
歴代政権を見てきた官僚の1人は「この半年は新型コロナとウクライナ対応だったと言っても過言ではない。岸田政権は安倍・菅政権よりも世論を重視している」と話す。
岸田首相が「聞く力」を発揮し、政策の方針転換を行った例は枚挙にいとまがない。
18歳以下への10万円相当の「一括給付」を容認、オミクロン株への対策として行った日本に到着する国際線の一律の新規予約停止要請の取りやめ、オミクロン株の濃厚接触者となった受験生は受験を認めない方針から別室での受験を認めたことなどだ。岸田首相の周辺は、支持率を維持している理由について「首相の聞く力。世論を大事にしていて修正すべきことはすぐ修正する点だ」と分析する。
一方、新型コロナウイルスワクチンの3回目接種の「100万回目標」など、菅政権をなぞる形の政策も多い。ある政府関係者は「菅政権のレールに乗って進んでいるだけで、首相が独自に打ち出したものは何もない。第6波が経口薬やワクチン接種で収まってきたのも運がいい」と話す。別の政権幹部は「首相は目標を大きくぶち上げてそこに向かって突き進むというよりも、やるべきことを着々とやっていくスタイルだ」と分析する。
■ウクライナへの“異例の対応”ナゼ
そして今年2月に突然始まった、ロシアによるウクライナ侵攻。ここでも岸田政権の思い切った“柔軟さ”が見られた。
岸田首相は侵攻から1週間もたたずに、プーチン大統領らの資産凍結などの制裁措置を決定した。首相は「暴挙には高い代償を伴うことを示していく」と強調したが、この決断について、ある外務省幹部は「プーチン大統領自身に制裁を課すというのは極めて厳しい判断だった」と明かした。
岸田首相周辺も「首相は『政治決断としてロシアと対決することを選んだ』と言っていた。エネルギーと北方領土の問題もあり、うまく立ち回る必要がある相当なプレッシャーのかかる決断だった。中途半端な決断では、国民の支持を得られなかった」と振り返る。
さらに、異例の決断だったのが、ウクライナへの防弾チョッキ提供だ。
3月8日夜、自衛隊が保有する防弾チョッキとヘルメットを乗せた自衛隊機が愛知県の小牧基地からウクライナの隣国ポーランドに向けて出発した。日本政府は、防弾チョッキなどの防衛装備品を他国に提供することにはこれまで慎重で、ウクライナのような交戦中の国に提供するのは異例のことだったが、ウクライナ支援を進める欧米各国と足並みをそろえることを重視した形だ。
ある政府関係者は「安倍政権だったらマスコミと野党にたたかれて、支持率が半分になっていた。世論の賛成が多いとみて踏み切ったが、岸田首相は世論を利用してうまく政策を進めている」と話す。政権幹部の1人は「首相は何事でもメリット、デメリットを現実的に考える。理想論ではなく、極めて現実的だ」と解説する。
■新型コロナ“リバウンド”や物価高対策…どう対応?
永田町界隈では、この夏の参議院選挙で勝利すれば“安定政権”が視野に入ると言われている。
首相側近は「首相はよく『ボトムアップとトップダウンのバランスで決めていく』と話しているが、それが今のところうまくいっている」と胸を張る。しかし、自民党内からは「半年たっても何も印象に残るものがない」「首相のビジョンが見えない」といった厳しい指摘もある。
まん延防止等重点措置を解除して、2週間。専門家からはリバウンドを懸念する声があがっている。さらには、原油高・物価高対策を進める必要もある。こうした政策を打ち出すにあたり、自民党内や与党内で政策の意思疎通がとれていないといった“不協和音”も聞こえてくる。
相次ぐ問題を岸田首相は「聞く力」で乗り越えることができるのか。今後も手腕が問われることになる。