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終末期の患者の「願い」叶える“ラストドライブ” 小学校の卒業式へ…涙と笑顔の再会で伝えた「ありがとう」『every.特集』

2024年4月13日 16:04
終末期の患者の「願い」叶える“ラストドライブ” 小学校の卒業式へ…涙と笑顔の再会で伝えた「ありがとう」『every.特集』

延命治療が難しい終末期の患者さんが訪れたい場所。そこに連れて行ってあげようとするボランティア団体があります。今回、末期がんを宣告された“狩野ちゃん”の「ラストドライブ」に密着。行き先は、卒業式が行われる小学校でした。

■「願いのくるま」で行きたい場所へ

神奈川・相模原市に住む、狩野輝二郎(かの・てるじろう)さん(70)。半年前に末期のがんと診断されました。完治は難しく、痛みを取り除く治療を行いながら、家族と残された時間を過ごしています。

そんな狩野さんのもとを訪れていたのは、ボランティア団体のスタッフです。

スタッフの鈴木蓮さん
「『願いのくるま』といいまして、余命宣告やターミナルケア(終末医療)を受けられている方の“ラストドライブ”をサポートさせていただいております」

「願いのくるま」は、事故などで壊れた車の買い取りや販売を行う会社「タウ」が運営するボランティア団体です。終末期医療を受けている人が行きたいと望む場所へ、車で連れて行くサポートを実施。この6年で、約70件の願いを叶えてきました。

■病気になる前は小学校で勤務

訪問診療の医師からこの団体を知った狩野さん。行きたい場所がありました。

狩野さん
「町田市立町田第五小学校。そこの卒業式」

学校用務員として、病気になる前まで勤めていた小学校の卒業式です。そこには理由がありました。

狩野さんが赴任したのは6年前。娘の咲苗さんは「運動会とかも出てたり、スキー教室に一緒について行ったこともあるじゃん」と振り返ります。狩野さんも「親しい子は“輝ちゃん”って呼んでくれた」と目を細めます。

明るい性格で、子どもたちからも人気だったという狩野さん。しかし去年10月、背中の痛みに突如襲われました。診断は末期の大腸がん。骨や肺などにも転移していて、仕事も辞めざるを得なくなりました。

■闘病生活の励みに…児童からの手紙

そんな入院中の狩野さんのもとに届いたのが、全校児童500人以上からの手紙でした。

咲苗さん
「うれしかったよね」

狩野さん
「うれしかった。自分(狩野さん)を力づけるように書いてるんだよね」

手紙には「狩野さんにもまた放送を聞かせたいです」「応えんしています」「病気とたたかってください」などと綴られていました。

狩野さんを力づけたい―。その思いで書かれた子どもたちの言葉が、闘病生活を続ける励みになりました。そんな子どもたちに、卒業式で伝えたいことがあるといいます。

狩野さん
「子どもたちが自分に声かけてくれた時とか、自分から子どもに声かけた時の話とか思い出すけどね。もう卒業式で最後だから。子どもたちと会うのも。やっぱり『ありがとう』だね」

■本人や医師の情報から注意点を共有

卒業式の4日前。「願いのくるま」では、担当者たちが話し合っていました。

「狩野さん、70代の方で大腸がんなんですけど」「背骨もともと…」「骨転移か…」「車の移動中も気にして、体勢変更とか、こまめに声かけてあげないと」。本人や主治医からの情報をもとに、注意点などを細かく共有していきます。

当日は看護師のスタッフが同行し、体調に変化があれば主治医の指示を仰ぐことになっています。

鈴木さん
「子どもたちにとっても狩野さんにとってもすごく大切な一日だと思うので、それを少しでもサポートできたらなと思ってます」

■「すぐ涙になっちゃうんじゃない?」

卒業式の日。出発直前に、娘の咲苗さんから渡されたのは、卒業生が書いてくれた手紙です。「これ、膝に置いて『ありがとう』って言ったら?」と咲苗さん。いよいよ再会の時です。

狩野さん
「うれしいよ。やっぱり。(式では)すぐ涙になっちゃうんじゃない? あっ、大きめのハンカチ入れた?」

そして、「願いのくるま」のスタッフが到着しました。

狩野さんは、車いすで長時間過ごすのは初めてだといいます。「少し揺れるので、お痛み出たりしたら教えてください」と、車内では看護師がこまめに体調を気遣います。狩野さんは再会が待ちきれない様子です。「どんな顔してるかな、みんな」

■門出を最後まで見届けた狩野さん

出発から約1時間。半年前まで毎日通った小学校に到着すると、「狩野ちゃーん!」という声が教室から聞こえてきました。5年生たちからの熱烈な出迎えです。

看護師に車いすを押してもらい、体育館へ入ります。卒業式が始まりました。視線の先には、6年間ともに過ごした子どもたちの晴れ姿がありました。狩野さんは、しっかりとその目に焼き付けます。

式が始まって約50分。「背中にタオル入れますか?」。長時間同じ姿勢が続いたことで首や腰に負担がかかり、疲れが出ていました。

「頑張ろうね」と声をかけられる狩野さん。体勢を工夫しながら子どもたちを見守ります。子どもたちの門出を最後まで見届けることができました。大きめのハンカチで、目元をぬぐいます。

■“狩野ちゃん”に集まる卒業生たち

式典後、校門に集まる卒業生たち。狩野さんも子どもたちのもとへ向かうと、「狩野ちゃーん、久しぶり、久しぶり」と卒業生が駆け寄りました。

「アルバムに名前を書いてほしい」と、子どもたちが集まってきました。ずっと伝えたかった感謝の言葉を伝える狩野さん。「6年生の手紙。…ありがとうね。中学行っても頑張るんだよ」。卒業生は「頑張るね。ありがとうございました」と頭を下げます。

隣にいた別の卒業生は、堪えきれず声を詰まらせました。そして涙をぬぐいながら、「(狩野さんが)いつも楽しくしてくれて、学校が好きになったから、ありがとうございました」と気持ちを届けました。

■ずっと願った瞬間 「病気と闘う糧に」

「お世話になったって忘れないように」

「卒業式より狩野ちゃんと会うのが(うれしい)」

「狩野ちゃんの笑顔が見たかった」

何人もの子どもたちが、狩野さんとお互いの気持ちを伝え合いました。狩野さんがずっと願っていた、この瞬間。

狩野さん
「病気と闘っていく糧になるよね。みんなのおかげで来られたことがすごくうれしい。ありがとうございました」

(4月9日『news every.』より)

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