堤防決壊から2か月 “広域避難”を考える
キーワードでニュースを読み解く「every.キーワード」。10日は、「教訓を生かす」をテーマに日本テレビ・小栗泉解説委員が解説する。
鬼怒川の堤防が決壊し、茨城・常総市を中心に大きな被害をもたらした関東・東北豪雨から10日で2か月がたった。現在も、常総市の避難所では241人の住民が避難生活を続けている。今回の水害の教訓について考える。
■日頃から警戒も避難間に合わず
鬼怒川が決壊した上三坂地区の住民の方たちに話を聞くと、日頃から川や堤防に対して警戒していたという。しかし、結果的に事前の避難が間に合わず、多くの人が自衛隊などに救助されることになった。“避難のあり方”について大きな教訓を残した水害だった。
鬼怒川の決壊当時、常総市から出された情報を見てみると、上三坂で決壊したのは午後0時50分。しかし、上三坂を含む三妻地区に避難指示が出されたのは午後1時8分、決壊してから18分後の事だった。つまり決壊前に避難指示は出ていなかった。
決壊から25分後に出された情報を見ると、「鬼怒川東側の市民の方は早急に鬼怒川西側に避難して下さい」とある。堤防が決壊して水が流れ込んでいるにもかかわらず、西側、つまり“川のある方”へ避難して下さい、と危険な方向へ住民を誘導していた。
■課題は“広域避難”
水害からの避難に詳しい群馬大学大学院の片田教授は、自治体が「その地区の住民を地区の中で避難させる“自治体完結型”の避難態勢を取っているために、混乱を生じさせている」「大きな水害に対しては、自治体の枠を超えた広域避難を考えなければ住民の命は守れない」と話している。
たしかに常総市では、避難所となった市役所も浸水して孤立してしまったし、市役所からさらに避難しなければならない状況になった。
■東京でも“広域避難”検討
この常総市の水害を受けて、“広域避難”について東京でも動きがあった。東京で“広域避難”が想定されるうちのひとつに、荒川の決壊がある。足立区にある鉄橋は堤防よりも低い所に設置されているのだが、ここで決壊した場合、水は地下鉄網を通じてわずかな時間で銀座など都心にも到達し、死者3700人以上、20万戸以上が浸水すると想定されている。荒川が決壊した場合、区単位では対応しきれないほど、広い範囲での避難が必要になると考えられている。
このため、常総市での教訓を受けて荒川流域の5つの区は、広域避難を連携して行うことができるよう動き始めた。5つの区とは足立区、葛飾区などで、この地域は江戸川と荒川、隅田川などに囲まれている。また、東京湾の海面よりも低い土地が広がっているため、いったん堤防が決壊すると一気に浸水し、数週間水がひかない地域もあるとされている。
先月行われた5つの区の協議会では、あわせて約256万人の住民の避難計画について、まずは区を超えた“広域避難”、そして5区よりさらに外への避難を行うためにどうやって連携していくか来年の夏頃までに具体的な計画をまとめる方針を決めた。
■きょうのポイント
きょうのポイントは、「枠を超えた避難」。先ほどの群馬大学大学院の片田教授は、大規模な水害が起きたとき、「自宅の近くの避難所に行けばいいということではなく、この地域から脱出しなければならないという避難の可能性があるんだ、と住民も自覚を持つことが大切」だと話している。
大規模な災害はいつ襲ってくるかわからない。避難を指示する行政はもちろん、避難する私たち住民側も、枠を超えた避難という発想をもって、普段からいざという時のために備えておくことが大切だ。