ドラマ「セクシー田中さん」調査報告書を公表 日本テレビ
日本テレビ系列で去年10月から放送されたドラマ「セクシー田中さん」の原作者で、漫画家の芦原妃名子さんが今年1月、亡くなりました。
芦原さんの大切な作品をドラマ化するにあたりどんな問題点があったのか、日本テレビはドラマ制作過程などを調査し、31日、報告書を公表しました。
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芦原さんは、9話・10話の脚本を脚本家に代わり自ら担当した経緯をSNSで明かすなどした後、亡くなりました。
今年2月、日本テレビは外部の弁護士も加えた社内特別調査チームを設置。
この調査は、ドラマ制作関係者がより一層安心して制作に臨める体制をつくることを目的として、事実関係や問題点などを調べました。
調査では、ドラマ制作サイドの日本テレビと原作サイドの小学館との間で、大きな認識の齟齬(そご)やミスコミュニケーションが積み重なったことで信頼関係が損なわれていたことがわかりました。
その結果、原作者や脚本家が不満や不信感を蓄積していった経緯が明らかになりました。
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まず、ドラマ化にあたって原作から内容を変更する「改変の程度」について日本テレビ側と小学館側に認識の違い、齟齬がありました。
原作者は今年1月、ブログなどで、ドラマ化するなら「必ず漫画に忠実に」「漫画に忠実でない場合は、原作者がしっかりと加筆修正」することがドラマ化の条件だったとつづっています。
しかし、日本テレビ側は、小学館側からドラマ化の条件として明確に伝えられたという認識はなかったということです。
こうした認識の齟齬があったため、ドラマ制作サイドから、原作とは内容やエピソードの順番が異なる脚本などが送られてくるたびに、原作者の不信感が高まったとしています。
なお、日本テレビ側は、制作初期の段階で原作者と面会しておらず、直接、意思疎通する機会を設けることができていませんでした。
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また、ドラマ制作の過程では、原作者の不信感がさらに高まるできごとがありました。
去年10月、あるシーンについて、原作者から小学館を通じて問い合わせがありました。このシーンの撮影は5日後の予定でしたが、日本テレビ側はすでに撮影済みと回答しました。
こう回答した理由について、日本テレビ側は、出演者とスタッフが2か月かけて入念に準備を重ねてきたため、内容の変更を求められると撮影現場に多大な迷惑がかかると思い、とっさに事実と異なる回答をしたということです。
その後、原作者がこの経緯を知り、制作サイドから何を言われても信用できないという思いを抱いたといいます。
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そして、日本テレビ側と小学館側には、原作にないドラマのオリジナル展開について、大きな認識の齟齬がありました。
放送当時、「セクシー田中さん」は原作の連載が続いていたため、ドラマとして完結させるためには「オリジナルの展開」が必要でした。
このオリジナル部分については去年6月、小学館側から日本テレビ側に対しメールで、「原作者から、脚本の形か、(構成やあらすじ、セリフなどが書かれた)詳細プロットの体裁で提案したい」「許諾の条件というほどではありませんがはっきりとした要望として検討してほしい」と伝えられていました。
このメールについて、日本テレビ側は「ドラマ化の条件」だとは認識せず、あくまで今後に向けた「お願い」として捉えた可能性が高いと調査報告書では結論づけています。
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去年8月には、原作者から小学館を通じて、オリジナル部分の9話・10話の詳細なプロットが日本テレビ側に送られました。その際、アレンジやエピソードの入れ替え、セリフの変更はしないでほしいと伝えられていました。
これに対し、日本テレビ側は、脚本家が脚本を書く上で、セリフの変更などは発生すると伝えています。
さらに、脚本を誰が書くかの認識について、10月には原作者から小学館を通じて日本テレビ側に対し、「オリジナル部分は原作者があらすじからセリフまで全て書くと約束した上でドラマ化を許諾した」という認識が伝えられました。
つまり、原作者が脚本を書くこともあり得るという立場でした。
一方、日本テレビ側は原作者が書くものは「あらすじからセリフまで」のプロットであり、それをもとに脚本家が脚本を書くという認識だったとしています。
この認識の齟齬は解消されず、9話・10話は原作者が書いた脚本を使用し、1話~8話を担当した脚本家は降板する形となりました。
脚本家はヒアリングに対し、日本テレビから、降板を受け入れないと本編放送や二次利用についてもすべて差し止めると小学館が言っているので受け入れてほしいと懇願され、制作サイドに迷惑を掛けてはいけないという思いで、やむを得ず降板することを受け入れたと説明しています。
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原作者の脚本を使用した9話・10話について、日本テレビは、これまでドラマを共に作ってきた脚本家の名前を字幕でクレジット表記する方法を模索しましたが、原作者の理解を得ることはできませんでした。
その結果、9話は脚本家の名前を表記せずに放送しました。
10話については、1話から8話を担当した脚本家として入れる形で原作サイドの了解を得て、放送しました。
こうした状況について、脚本家は、ヒアリングに対し「クレジットに関しては日本テレビに決定権があるはずなのに、日本テレビは最後まで自分を守ってくれなかった」と述べています。
こうした強い不満に加え、ここで自分が折れてしまうとすべての脚本家の尊厳にかかわるという危機感を持ち、ドラマの最終話が放送された後、脚本家は自らの立場をSNSで投稿したということです。
日本テレビは、脚本家から事前にSNSに投稿することを示唆されていましたが、社内で対応を検討した結果、個人の表現の自由もあり、投稿をやめるよう依頼したり、削除要請をしたりすることはありませんでした。
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こうした問題が明らかになったことを受け、調査チームは今後へ向けた提言をしています。
まず、漫画や小説が原作のドラマを制作するにあたり、関係者との信頼関係を構築する方策です。
なるべく早いタイミングで構成案・演出などが書かれた「相談書」を作成し、原作者本人を含めた原作サイドとすみやかに打ち合わせをすること。「相談書」を提示する際は、映像化において少なからず改変が生じることや、その内容や理由を丁寧に説明することを提案しています。
また、出版社の理解と協力を得ながら、できるだけ早い段階で原作者に直接面会を求めることを提言しています。
重要な局面では、そのつど、原作者と直接面会する機会を作る努力をしつつも、原作者が面会を望まない場合には強要せず、出版社の意向も尊重し、最善の方法を協議するとしています。
また、日本テレビは、原作者とも脚本家とも放送前に契約書を締結していませんでした。
調査チームは、今回、契約書だけで問題を回避できたとは言い切れないとした上で、原作者や脚本家と可能な限り早期に契約を締結することが望ましいと提言しています。
SNSについては、関係者間での無用なあつれきや投稿内容をきっかけとした誹謗中傷などを避けるため、日本テレビとしての指針を関係者に周知し、理解を得ることも必要だと提案しています。
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調査チームは漫画家や脚本家からも話を聞きました。
多くの作品が映像化されている漫画家の東村アキコさんは、「漫画家とテレビ局が直接やりとりしてはいけないというルールはありません。繊細な作家もいますので、会って話をすることすら断られることもありますが、まずは交渉してみてください」「全ての関係者間で丁寧にやりとりができるクリエイティブな世界にしていきたいと思います」とコメントしています。
また、複数の脚本家からは、「安心して脚本作りができる環境を整えてほしい」「漫画が持っている良さを映像にうまく生かしたいという思いで脚色をしている」「映像化する際は、こういう方向にすると映像作品として面白くなる、と理由と共に丁寧に原作者に伝えれば理解してもらえると思う」とコメントしています。
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日本テレビの石澤顕社長は今回の調査結果についてコメントを発表しました。
「原作者である芦原妃名子さんに対し心より哀悼の意を表するとともにご遺族の皆様にお悔やみ申し上げます」
「芦原さんがまさに心血を注いで原作『セクシー田中さん』を作り上げ、そして、ドラマ制作に向き合っていただいたことを実感いたしました。また脚本家の方は素晴らしいドラマを作るため、力を尽くしていただきました」
「一方で、ドラマの制作に携わる関係者や視聴者の皆様を不安な気持ちにさせてしまったことについてお詫び申し上げます」
「調査報告からドラマ制作者側と原作者側のお互いの認識の違い、そこから生じているミスコミュニケーション、ドラマの制作スケジュールや制作体制、契約書の締結時期など、今後日本テレビとして、さらに厳しく取り組まなければならない点が見つかりました」
「指摘された課題について、テレビドラマに関わる全ての方が、より安心して制作できるよう責任をもって取り組んでまいります」
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報告書の全文は、日本テレビのホームページで公開しています。