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空爆音の中で手術…国境なき医師団のリアル

2019年12月2日 17:21
空爆音の中で手術…国境なき医師団のリアル

吉野美幸さんは、医局に属さない“フリーの外科医”として1年の半分を日本の病院で勤務。残りの半年を国境なき医師団のメンバーとして海外で治療にあたってきた。現状や課題について聞いた。


――イラクなど、紛争地の医療の現状というのはどうなっているんでしょうか?

インフラが破壊されたままなかなか復旧していないので、ガス爆発ですとか、家庭内で調理中の事故などが結構多くて、やけどの患者さんたちばかりでした。


――日常の中でケガをされることが多いんですね?

家の中で料理していてケガをしてしまったり、仕事中にガス管が爆発したりとかっていうのが多くて、しかもそのイラクの地域が、なかなか大きい病院がないんですよね。やけどの治療をしてくれる病院がなかなかないということで、その地域全体のやけどの患者さんを全部私たちの病院が引き受けているような感じでした。


――そうした中で「大変だな」と感じることはどんなことですか?

やはり紛争地に派遣されることが多いので非常にセキュリティーが悪いんですよね。例えばパレスチナのガザ地区に派遣された時は、ずっと空爆の音の中、爆撃音が鳴り響く中で手術を続けないといけない。やはりすごく怖いなっていうのがあったりしますし、精神的なものだけじゃなくて肉体的にも、例えば外科医だと本当に24時間365日という感じでずっとオンコールで、夜中に患者さんがたくさん運び込まれてきたら寝ないで手術しなきゃいけないこともあります。体力的にもやっぱりすごくきつい現場ではありますね。


――一気に患者さんが運ばれてくるなんてこともやはりあるんですか?

例えば自爆テロみたいなものがあって、1回の爆発でたくさんの負傷者が運ばれてくると、何十人という人がたくさん来て、何人もが手術を待ってるっていう状態になったりします。


――吉野さんは外科医ですが、専門以外のこともされることもあるでしょうか?

日本ではお腹の手術しかしないんですが、「国境なき医師団」のミッションで現地に行くと、本当に何でもやらないといけなくなるので、例えば骨の整形外科の手術をしたりとか、帝王切開の手術をしたり、場所によっては頭の脳外科の手術もやらなきゃいけないってこともありました。


――日々勉強しているっていう形になるんでしょうか?

そうですね。日本にいる間に、例えば普通のトレーニングだとそういうトレーニングを受けないので、知り合いの整形外科とか産婦人科の先生に頼み込んでそういう技術を教えてもらって、向こうに行って。また、実際それが一番いい判断だったのかどうかっていうのを日本に帰ってきて、またフィードバックしてもらってなんていうふうにやっています。


――そうした医療従事者の皆さんの命の危険すら、本当に危ぶまれるような現状もありますね?

アフガニスタンのクンドゥズという場所…私も働いたところなんですが、まさにその同じ病院が誤爆という形ですけど、爆撃されてしまって、病院の閉鎖をしないといけなかったっていうことがありました。そこで私も一緒に働いていた同僚のすごく優秀な医師がいたんですけれど、その人も爆撃で命を落とさざるを得なくなった。本当に彼は優秀で、そこにとどまってくれていた心ある人だったので、彼が亡くなったっていうだけじゃなくて、彼が今後救うはずだったたくさんの命も失ったということになると思います。


――それだけ過酷な環境の中でも「国境なき医師団」に参加する理由はどこにあるのでしょうか?

やはり、自分で手術をして目の前にいた死にかけていた患者さんが助かって元気になって、特に子供なんてすごく正直なので、ばくばくご飯を食べて走り回って元気にバイバイって言ってくれるとすごくうれしいです。そうした積み重ねが、また次も頑張ろうっていうふうにつながるのかなと思っています。


――一方で、活動をされている中での課題というのも当然見えてきますか?

低いお給料でも何とかやろうって言ってみんなモチベーションを持って参加してくれるんですが、それでもなかなか日本の社会の中に、ボランティアで行く人たちとか、人道援助をすることに対するまだまだ心の距離があるような感じがするんですね。そういう人たちが身近にいて、もっと例えば病院で仕事をすることとか、社会の中で受け入れられるような形で、この文化が育っていくといいんじゃないかなというふうに考えています。

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