×

“異次元”の少子化対策 京都大学柴田悠准教授「2025年頃までがラストチャンス」

2023年2月22日 8:30
“異次元”の少子化対策 京都大学柴田悠准教授「2025年頃までがラストチャンス」
こども政策強化関係府省会議で話す柴田准教授

政府は「こども・子育て予算倍増」「次元の異なる政策」を行うと掲げ、3月中に政策パッケージをまとめる予定です。今こそ実現すべき政策は何なのか? 子育て支援策の効果分析などを続けてきた京都大学准教授の柴田悠さんに聞きました。

 ◇◇◇

■2025年頃がタイムリミット

柴田さんは、少子化対策は「2025年頃までがタイムリミットだ」と強調します。そして、即時実行すべき対策には、少なくとも年間6.1兆円程度の追加予算が必要で、かつ、社会全体で働き方改革や雇用の安定などに取り組むことも大切だと提案しています。

なぜ2025年がリミットなのかというと、柴田さんは、内閣府の統計で、日本で生まれる子どもの数が減り続けた結果、2025年頃からは20代の人口が急激に少なくなるとわかっていることを挙げました。

つまり、結婚や出産する年代の人数がますます減る中、低い出生率のままだとさらに急激に人口減少が進むということです。2021年の出生率は1.3ですが、内閣府は、出生率が2030年に1.8に、2040年に2.07になると、人口は9000万人弱で維持でき、高齢化率(人口のうち高齢者が占める割合)も今に近い水準で維持できるという試算を2019年に出しています。

■即時策と長期策

柴田さんは、少子化対策には、結婚支援や子育て世帯の経済的負担を軽くする制度など比較的すぐにできる「即時策」と、賃金上昇や働き方改革など抜本的な「長期策」があり、それらを同時並行で早急に行う必要があると説明しました。

そして、柴田さんの試算では、出生率を1.8程度にするためには様々な「即時策」を行う必要があり、追加で必要な予算は、少子化対策の4.4兆円と少子化対策の前提としての保育の質改善1.7兆円、あわせて年間約6.1兆円だということです。

では、どういった政策でどの程度、出生率を引き上げる効果があるか、柴田さんの試算では…。

■即時策・児童手当は?

まず、「即時策」の候補の一つに児童手当があります。柴田さんの試算では、「所得制限を撤廃」かつ「対象世帯すべてに月3万円を上乗せ」と仮定すると、追加で年間約5.2兆円必要だということで、出生率は0.31上昇することが見込まれるということです。

一方、「多子加算」の仕組みを取り入れる場合、自民党案では、第1子は現状維持、第2子には最大で月3万円に増額、第3子以降は最大で月6万円に増額となっていて、必要な追加予算を約2.5兆円と仮定します。

柴田さんによると、カナダやイスラエルでの研究をもとに児童手当の予算の増加割合から計算すると、自民党案の「多子加算」により、出生率は0.24上昇すると推計されるということです。

柴田さんは、「仮に児童手当を拡充する場合、制度をくるくると変えないことが大切。追加予算がかかること含め、広く国民の納得を得て実施する必要がある。納得がないと反対の声があがって、制度を変えることになり、そうなると、人々の制度への信頼が薄れ、子どもを持ちたい気持ちにはつながりにくい。」と指摘しています。

■即時策・大学の学費軽減は効果的とみられる

柴田さんは、ほかの「即時策」として、高等教育の負担軽減と保育園にすべての1,2歳が通うための「定員増」と「保育士の賃金引き上げ」「保育の配置基準(保育士1人が担当するこどもの数)の改善」を挙げました。

特に、日本では学費軽減は最も効果が大きいと考えられると柴田さんは指摘しています。

高等教育の負担軽減策で、仮に大学や専門学校などの学費を、国立大学の授業料に相当する年間53万円まで無償とした場合、追加予算を約1.5兆円とすると、柴田さんの試算では出生率は0.08上昇が見込まれるといいます。

■即時策・保育をすべての1、2歳児に

柴田さんは、即時策として、保育の定員増も提案しています。親の就労にかかわらず、3歳未満のこどもを保育園に通わせることができると、親に余裕ができて、育児ストレスが減り、虐待予防効果があるとか、子どもの言語発達が良くなるといった研究結果がすでに出ていると説明しています。共働きであるなど条件なしに、すべての1歳児と2歳児が保育園に入れることを目指すとすると、追加予算は4000億円必要だということです。

そして、少子化対策の前提として、「こどもの育ち」を保障するためには、保育の質も重要だと言います。

質を高めるための方策としては、政府が2014年「子ども・子育て支援新制度」でまとめた試算をもとにすると、保育士の給与を全産業の平均にまで引き上げて、かつ、保育士1人が何人の子どもを保育するかという「配置基準」を先進諸国平均並みにすると、追加で、年間約1.7兆円必要になるということです。

つまり、保育分野で必要な追加予算は、少子化対策とその前提となる保育の質確保あわせて2.1兆円で、柴田さんの試算では、出生率は0.13上昇が見込まれるということです。

■即時策の試算で出生率は1.75に

まとめると、柴田さんの試算では、

「児童手当の多子加算」(追加予算2.5兆円:出生率0.24上昇)

「高等教育負担軽減」(追加予算1.5兆円:出生率0.08上昇)

「保育定員増と質確保」(追加予算2.1兆円:出生率0.13上昇)

を実施すると、追加予算6.1兆円で、出生率は合計で0.45上がるとされ、現在の1.30+0.45で、1.75になる可能性がある、としました。

このほか、充実が必要な政策としては、結婚支援(婚活支援、選択的夫婦別姓、同性婚合法化など)、私生活と仕事との両立支援(デジタル化、テレワーク、有給休暇など)、居住支援(住宅手当拡充、転勤を規制するなど)、出産支援(不妊治療助成など)を挙げましたが、これらの予算規模と出生率への効果は研究や分析がないと柴田さんは説明しています。

■前提として必要なのは「伴走型支援」と「保育の質確保」

柴田さんは、子どもを育てるために必要な前提として、さきほど出てきた「保育の質確保」のほかには、妊娠期からの「伴走型支援」を挙げました。

「伴走型支援」とは、マラソン選手に「伴走」するように、市区町村の保健師などが、地域に住む親子を定期的に訪ねるなどして、個別に相談に乗り、支援を続けるものです。

柴田さんは、すでにある「乳児家庭全戸訪問事業」などは「訪問回数や訪問員の専門性などに課題がある」と指摘し、「アメリカの研究では、看護師が社会経済的に不利な女性を、妊娠中期から生後2年まで、継続的に(平均32回)家庭訪問をすることで虐待の確率が46%減ったという研究結果がある」と話しますが、必要な予算額は推計できていないということです。

■長期策…長時間労働を変えないと

「短期策」だけではなく、2040年に出生率を2.06にするためには、根本的な対策に「長期的」に取り組む必要があるとして、柴田さんは、働き方改革や賃金上昇などを訴えています。デジタル化や働き方の柔軟化・労働移動などによって、労働生産性があがって、雇用の安定、賃金上昇を実現する、その結果、年収は減らさずに、労働時間を週に約6時間減らし、平均労働時間を年間約278時間減らすと、出生率は0.52上がるというのが柴田さんの試算です。

柴田さんは、お金と時間にゆとりができ、それが将来も続くと思えてはじめて結婚や出産ができるのではないか、と分析しています。

まとめると、今の出生率1.3+即時策効果で0.45+長期策で0.52、それに価値観の多様化で出産が減るなど0.21低下を加味すると、2040年頃の出生率は2.06になると推計されるということです。

■財源をどう確保するのか

柴田さんは、6.1兆円の財源としては、給与所得や価格への負担がない資産課税を少しずつ増やし、当面足りない分は、「こども国債」でまかなう案が考えられるとしています。

しかし、国債発行は、過度なインフレなどを招くリスクもあるため、国債発行による調達には限界もある、とも述べています。

そして「2025年までに改善することが優先なので、予算を順次獲得でき次第、まずは児童手当拡充、つぎに学費軽減と保育の質改善を行い、保育士確保に時間を要するので、そのあとで、保育の定員拡大をすべきだ」と提言しています。

  • 日テレNEWS NNN
  • 社会
  • “異次元”の少子化対策 京都大学柴田悠准教授「2025年頃までがラストチャンス」