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婚姻届は“不受理”だった……熊本の同性カップルの願い 「愛する人と結婚したい」“僕らは家族”と言える日へ『every.特集』

2024年5月24日 18:47
婚姻届は“不受理”だった……熊本の同性カップルの願い 「愛する人と結婚したい」“僕らは家族”と言える日へ『every.特集』

現行法では「結婚は男女だけ」となっている日本。パートナーシップ制度が導入されている熊本市で、人生のパートナーとして一緒に暮らす2人の男性がいます。「愛する人と結婚できる」。そんな“当たり前”を願う2人や支える人たちの、過去と今を追いました。

■約5年前から同棲し、結婚を意識

熊本市で一緒に暮らす、会社員のこうぞうさん(41)と、ゆうたさん(40)。一生共に生きていこうと決めました。「愛する人と結婚したい」。それが、ささやかな願いです。

22年前。10代後半で出会い、付き合い始めました。進学や就職で別れた時期もありましたが、5年ほど前から一緒に暮らすようになり、自然と結婚を意識するようになったといいます。

こうぞうさん
「特別な感じでは日々過ごしていないけど、自分らしくいまが一番いられるのかな」

■全国で広がるパートナーシップ制度

そして2020年、2人は婚姻届を提出しました。しかし、「男性同士を当事者とする本件婚姻届は、不適法であるため…」とされ、不受理に。婚姻届は、受け取ってもらえませんでした。いまの日本の法制度では、結婚は男女だけのもの。

日本では2015年、東京・渋谷区と世田谷区でパートナーシップ制度が始まりました。公益社団法人 Marriage For All Japan によると、4月1日時点では450を超える自治体が導入しています。

2人も、熊本市の制度を利用しています。市のパートナーシップ宣誓書受領証を手にし、「お互いの名前が載っているのはこれしかないから…」と言うこうぞうさん。しかしこの制度に法的効力はなく、相続や税金の控除など結婚と同じような権利は得られません。

■上司にカミングアウトしたゆうたさん

ゆうたさんは、自分の「普通」と周りの「普通」の間に違和感を抱いていました。職場の上司に「同性パートナーと結婚したい」と打ち明けたときの心の内を、地元の文芸誌『アルテリ』に投稿しています。

「上司にカミングアウトしたとき、彼は私を褒めながら『自分の意志を貫くってことですよね。僕にはできるか分からないな』と言って話を締めた。いえ、そういうことではないんですよとはその場では言えなかった」

「ただ『おめでとう』と言える世界の方が私を含め多くの人にとって住みやすい世界なんじゃないか」

■動物園を楽しみ、並んで歩く2人

ある日、2人は熊本市動植物園にやってきました。動き回るサルを見て、言葉を交わします。

ゆうたさん
「上手ね」

こうぞうさん
「すごいね、しっぽが手みたい」

ゆうたさん
「じゃないと、木の上では暮らせないよね」

こうぞうさん
「運動できないサルはいるかな」

ゆうたさん
「いるよそりゃ」

こうぞうさんは、「(出かけるのは)本当に休みが合ったときに、気が向いたらみたいな感じで。あまり外に出るのが好きじゃないから」と話します。

並んで歩くゆうたさんは「お買い物くらいかね、普段の…」と言葉をつなぎます。こうぞうさんは「日用品のね。特別どこかに行ったり、ウインドーショッピングみたいなのはほとんどないですね」と呼吸を合わせます。

■2人を受け入れた、ゆうたさんの母

ここは、2人にとって思い出の場所です。

こうぞうさんはゾウを見ながら、「ゆうたの亡くなったお母さんがゾウが好きだったから」と言います。

ゆうたさん
「このゾウ」

こうぞうさん
「このゾウだね」

ゆうたさんの母は、5年前に亡くなりました。こうぞうさんとの関係を、20年以上前から受け入れてくれたといいます。こうぞうさんを紹介したとき、「息子がひとり増えた気分」と喜んでくれました。折に触れ、2人の写真を撮ってくれたといいます。

こうぞうさん
「応援の声や味方でいてくれる声がなかったりする中で、僕らの存在をそれだけ受け入れてくれていたんだと、こういう写真を通じて思うと、とてもありがたいし、うれしいですね」

■息子を応援…こうぞうさんの母の思い

こうぞうさんの母(80代)が息子を応援したいと、取材に応じてくれました。ただ、こうぞうさんの「誹謗中傷に遭ってほしくない」という要望で、顔は出さないことになりました。

ゆうたさんと初めて会った時の印象を聞きました。

こうぞうさんの母
「かわいいなと思ったんですよ。2人が幸せなら同性でも何も問題はないと思うんですよね。国で認めてさえくれれば。そうしたら幸せになる人が、もっとたくさん声を上げて出てこられると思うんですよね」

「だからそういう家族の人も、(同性愛者の)子どもを持っても何も恥ずかしがることも卑下することもないから、もっと表に出て応援してもいいなと思うんですけどね」

互いの家族は性別を気にせず、2人を受け入れてくれました。

■5地裁で6判決が出た同性婚訴訟

しかし、国は今も同性どうしの結婚を認めていません。こうぞうさんは、「『僕らは家族なんです』と言えるのはとてもまぶしいし、手が届かないものだなとは考えています」と胸の内を明かします。

こうぞうさんとゆうたさんも加わっている、いわゆる同性婚訴訟。これまでに5つの地裁で言い渡されたのは、6つの判決です。

札幌と名古屋では同性どうしの結婚が認められていないことは「憲法違反」と判断。一方、東京の2件と福岡は「憲法に違反する状態」。大阪は憲法違反ではなく「合憲」と、判断が分かれています。

■札幌高裁の判決に 2人は「よかった」

そして、今年の3月14日。全国初の控訴審判決で札幌高裁は、婚姻の自由を保障する憲法は「同性どうしの婚姻も保障している」という初めての判断をしました。

そして、同性婚ができないことは社会生活上の不利益を受けるだけでなく人格が損なわれる事態になっているとして、「憲法に違反している」という判決を言い渡したのです。その判決を聞いた2人は「いいね」「よかった」と声をそろえました。

こうぞうさん
「いままでで一番踏み込んだ判決です」

ゆうたさん
「やったね。そう、当たり前のことなんだけどね」

公益社団法人 Marriage For All Japan によると、世界では3月末時点で、37の国と地域で同性婚が法制化されています。

■2人を見守る店主と語る…大切な居場所

2人にとって大切な居場所が、熊本市内にあります。ゆうたさんが学生時代にアルバイトをしていた「橙書店」です。店主の田尻久子さんは長い間、2人を見守ってきました。

田尻さん
「親戚のおばちゃんみたいなものだと思いますけど…」

ゆうたさん
「いまとなってはね」

田尻さん
「もう22年たっているけど、まだあまり変わってないね。世の中はね」

ゆうたさん
「あの当時に比べたらね」

田尻さん
「亀の歩みではあるけど、前に進んではいる。社会はね」

ゆうたさん
「社会はね。国は、ね…」

亡くなったゆうたさんの母も、一緒にこの店に通っていました。

ゆうたさん
「いま生きている、私の父とこうぞうさんのお母さん。長生きはしてほしいけど、生きているうちに(ふうふに)なりたいよね」

こうぞうさん
「そうね、うん…」

2人の願いは、誰もが愛する人と結婚できる、そんな当たり前の日が来ることです。

(5月22日『news every.』より)