【#みんなのギモン】「間違いなく殺される…」改正入管法が成立 外国人と入管それぞれの思いは?
難民認定の申請中でも外国人の強制送還を可能とする改正入管法が成立しました。それをさまざまな思いで見る人たちがいます。認定を求める外国人からは「母国に戻れば殺される」と懸命の訴えがあがっていますが、入管の現場はどう見ているのでしょうか。(報道局 調査報道班 小野高弘)
■デスクの上に書類の山
改正法が成立した日の夕方、国会近くの飲食店。
「入管職員の全員が溜飲を下げたんじゃないかと思います」
記者にそう話したのは、7年ほど前、実際に難民申請の調査に関わった元入管職員です。
「今も変わらないと思います」と言って振り返ったのは入管職員らの業務量の多さでした。
東京・港区の東京出入国在留管理局。提出された難民申請の書類と向き合うのは、審査部門の職員たち。その実務にあたる職員の各々のデスクには、常に100件近い申請書類が積まれていたと元職員は話します。
「当時、難民認定の実務にあたる人は20人にも満たなかったように思います。なので1人あたりの業務量があまりに多いんです。処理しても処理しても追いつかず、土日も仕事をしていることが ありました」
その仕事は、難民申請者が本当に母国で迫害される恐れがあるのかを調査することです。本人から提出された書類を読むだけでなく、本人との面接を繰り返します。
「当時はクルド人の申請が多かったです。今はバングラデシュやカンボジア、南アフリカからの人が多いようですが、金銭トラブルや借金を抱え、稼ぐために日本へ来る人も多いようです」
当時、月に1度は職員らが申請者本人の暮らす家に行き、張り込みや周辺への聞き込みまでして生活の実態を確認することもあったといいます。その目的は、本人の主張に嘘がないかを見抜くためでした。
「入管の目の届かないところで同じ民族の人たちが集まり日本に拠点を作るようなことがないか、たとえばフランス、オランダ、ス ウェーデンなどヨーロッパの国ではクルド系難民がコミュニティ ーを作っていますよね。そうしたことにも留意します。特定の思想を持った組織との接触がないかなども警戒します。まるで刑事の仕事ですよね」
■心に深い傷
「今はそうした実態調査もほとんど行われなくなっているようです。外に出る余裕もないほど職員らが疲弊しているからです」「入国審査官は公務員の事務職として入ってきます。空港でパスポートに判を押す仕事のイメージで入ってきた若い職員達が、突然、心に傷を抱えた外国人などと毎日向き合うことになるんです。毎日です、 職員達の心だって深い傷を負います」「先輩からアドバイスをもらい心をリセットする機会もありません。 それぞれが自分のことで精一杯だからです」
審査の結果、難民として認定されるのはごくわずか。送還されるのを拒み、何回も申請を繰り返すケースが指摘されています。
「本人に出頭を求めて難民認定の不許可を伝えると、その翌日、すぐにまた申請してくるんですから」「不毛というか…職員の中には精神的に困憊して長期休暇を取る人もいますし、辞めていく人も多いです」
改正入管法では、3回目以降の申請者は「相当の理由」が示されなければ送還の対象となることを柱としていますが、送還されれば命がないと訴える人もいます。
ミャンマー出身でロヒンギャのミョーチョーチョーさん(37)はこう話します。「私は3回目の難民申請中です。過去2回は理由も示されずただ不許可だと告げられました。この先は強制送還されるのではないかと不安でいっぱいです。クーデターで軍事政権になっているさなかに送還されれば、民主化運動を行ってきた私は間違いなく殺されます」
■見えない認定のプロセス
日本では難民申請の認定要件が厳しく、認定のプロセスも不透明だとの指摘は根強くあり、入管庁は透明化をはかっています。
また、難民申請の審査官には、長年の経験や知識、申請者本人とやりとりをする高いスキルが求められるのに必ずしも伴っていないとの指摘もあります。
難民認定が、十分な水準を持った審査官らによって行われることも求められています。