“トー横”に広がる「青い舌」 薬のオーバードーズ…命の危険も
新宿・歌舞伎町の“トー横”と呼ばれるエリアで、今、広がっている“ある現象”があります。それは「青く染まった舌」。zeroは薬の過剰摂取、オーバードーズをする若者を取材。なぜ命に関わる危険な行為をするのか。そして、その背景にある”薬の手に入りやすさ”に専門家は警鐘を鳴らします。
新宿・歌舞伎町のアーチをくぐった先にある新宿東宝ビル。その周り、”トー横”と呼ばれるエリアで、10月7日土曜日の深夜、警視庁による一斉補導が行われました。10代の若い世代が犯罪に巻き込まれるケースも多く、警視庁は警戒を強化しています。
“トー横”は、悩みや生きづらさを抱えた若者たちが全国から集まる場所。そこで今、広がっているのが、青く染まった”舌”です。
―――舌が青いのはなんで?
“トー横”に通う15歳の少女
「なんか薬、睡眠薬」
「(本当は)もっと青い!キマッた後はもっと青い!」
“青い舌”は薬の過剰摂取、いわゆる「オーバードーズ」によるもの。精神的な苦痛からのがれる感覚を得られるという一方で、命に関わる危険な行為です。
少女が見せてくれたのは、スマホ画面の「青い舌」の写真。睡眠薬を“キメた時”のものだといい、少女は「やばいね、めっちゃ青だよね」と話しました。
一部の睡眠薬は飲むと舌が青くなるため、それを見せ合う若者が増えているといいます。
睡眠薬でオーバードーズするこの15歳は「危ない、飲んだ時、立てないんだよね」と話した後、「ちょっとマネしていい?」として、床をはうような“オーバードーズした時の様子”を再現してくれました。
親から「帰ってくるな」と言われたことがきっかけで、”トー横”に通い始めた少女。生きるのがつらく、現実から逃げるためオーバードーズをするようになったといいます。
かぜ薬でオーバードーズをするという17歳の別の少女にきっかけを聞くと―――。
“トー横”に通う17歳の少女
「ここ(トー横)に来てから」
「人間関係とか、家のこととか、自分の進路のこととか...。しんどいからパキったり」
夜が深まると、”トー横”には口元が青い若者の姿が増え、飲み物に睡眠薬を混ぜて飲む人も。薬の色か、少し青みがかっているように見えました。”トー横”で流行しているオーバードーズを、専門家はどう見ているのか。
オーバードーズを調査する国立精神・神経医療研究センター 松本俊彦氏
「非常に危惧するというか、危機感を感じていますね」
「生きづらさを抱える子たちが死にたい気持ちを紛らわすツールを購入するため、ドラッグストアに集まってきている」
(松本氏が)警鐘を鳴らすのは、薬の手に入りやすさについてです。「普通に薬局で買ったり」と話すのは、かぜ薬でオーバードーズをするという17歳。バッグの中には、大量の市販の風邪薬がありました。
さらに、大阪から来た19歳は「(処方薬を)買わせてもらいました」といい、若者に処方薬を売る"売人"のような存在があるといいます。違法行為にあたる薬の転売。news zeroは実際に”トー横”で処方薬を売っているという少女に話を聞くことができました。
売人の少女(10代)
「市販薬もそうだし、病院とかの薬を売ってる人いますね。自分も売ってます」
―――いつもどこでもらうんですか?
売人の少女(10代)
「自分は内科です」
「『なんか寝られないです』みたいに言って。もらいたい薬を言って、そしたら出してくれる。緩いところ(病院)は緩くて、すぐもらえちゃいます」
この少女は、何カ所か病院などを回ったりして、薬を入手するといいます。
売人の少女(10代)
「処方(薬)だから、みんな手に入るわけじゃないから、ちょっと高めに売ってる」
「(売った金で)服とかたくさん買えますね」
この少女に「罪悪感はあるか?」と聞くと、「いや、別にそんなことはないです」としたうえで、「『ありがとう』みたいな感じで楽しんでいる子が結構多いので」と話しました。
命を失う危険性もあるオーバードーズ。松本俊彦氏によると、市販薬の場合、大量に飲むと幻覚や意識障害、臓器障害が起こる可能性があります。また、処方される睡眠薬などでは、意識障害の後に窒息や呼吸停止などを引き起こし、どちらの薬も最悪の場合、死に至る危険性があるといいます。
さらに、オーバードーズには、別のリスクも。取材した15歳の少女には、どこかにぶつけたのか、足のいたるところにアザがありました。意識がもうろうとしているうちに、自傷行為をすることもあるといいます。
取材中に出会った18歳の女性は「フラフラする」と言いながら、「40、40…」と口にしていました。
―――40錠、一気に飲んだっていうこと?
かぜ薬でオーバードーズ(18)
「うん。パキってると…。宇宙いく」
まっすぐ立つことさえできなくなっていましたが、具合を尋ねても「大丈夫」と応えていました。
国立精神・神経医療研究センター 松本俊彦氏
「市販薬に関しては薬局が注意しなければいけない問題ですし、処方薬に関しては一人ひとりの医師が、きちんと問題意識をもって処方するということをやっていかなければいけないなと」
厚労省のルールでは、濫用の恐れがある薬を中高生などの若者が購入する場合、売る側は氏名、年齢を確認する必要があり、原則“ひとりひとつ”までしか売らないこと、などが定められています。
しかし専門家は、これを守っていない薬局も多くあると指摘します。
東京・板橋区のヒルマ薬局・小豆沢店では、ルールに従い、オーバードーズ対策をしているといいます。しかし、それでもある“懸念”を持っていました。
ヒルマ薬局 薬剤師 比留間康二郎・取締役
「うちの薬局で1箱買えるじゃないですか。でも、別の薬局行っても1箱買えちゃうんですよね」
「OTC(市販薬)を販売する時にも、(購入履歴を)きちんと確認できる機能ができれば、(薬の)買い込みも防げていくのではないか」
オーバードーズは命に関わる危険な行為です。厚労省は、自分や周りの人がオーバードーズで悩んでいたら、医師や薬剤師に相談するよう呼びかけています。
また、「厚労省 薬物 相談」などで検索すると、厚労省のサイトからそれぞれの自治体にある「精神保健福祉センター」など相談先の電話一覧を見ることができます。
一方で、国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦氏は、次のように訴えています。
「オーバードーズを繰り返すのは家庭や学校で過酷な状況にある子どもたち」
「オーバードーズ自体危険ですが、せざるを得なくなった子どもたちの話を聞いてあげられる場所、心の支援につながる場所をどう作るか、大人がもっと議論をしなければいけない」
(10月18日『news zero』より)