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戦地から学ぶ「差別」を考えるヒント

2020年6月17日 18:37

アメリカで黒人男性が白人警官に押さえつけられた後に死亡した事件の影響が広がっています。人種差別への抗議デモは全米に拡大し、一部が暴徒化するなど緊迫した事態に。戦場ジャーナリストの佐藤和孝氏が長年取材を続けたアフガニスタンでの民族差別を例に、差別という複雑なテーマを語ります。

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■黒人男性死亡を受けて気づく“自己矛盾”
僕自身にこの差別という感情が存在しないといったら嘘になります。大なり小なり異質なものに対する違和感というものはあります。だからといって肯定できるものではないのはよく分かっています。

だけども「差別をしてはいけない」ということは「差別があることを認めていること」なのだという自己矛盾から抜け出せないのです。ただし、主義者。差別主義者になってはなりません。

1968年、公民権運動のリーダーであったキング牧師の暗殺事件を思い出しました。事件に抗議し大規模なデモが行われましたが、今回のデモの広がりはそれ以上です。

白人警察官が黒人男性の首を膝で押さえつけ圧迫し殺害するという衝撃的な事件。この人種差別に対する怒りの抗議が世界各地で広がっているのが救いなのかなと思いますが、これほどまでにあからさまで残虐な行為に、自由と平等を標榜する民主主義とはいかなるものなのか考えさせられました。

■世界各地に残る「人種差別」
人種差別はアメリカのみならず世界各地にあります。そして、日本にも民族差別、性差説や学歴差別など様々な「差別」が存在することは多くの人が知るところだと思います。

長い間取材してきたアフガニスタンにも人種差別は存在します。アフガニスタンは多民族国家で、最大民族で人口の4割ほどを占めるコーカソイド系のパシュトゥーン人、そしてペルシャ系のタジク人、モンゴル系のハザラ人のほか、いくつかの民族が混在しています。

アフガニスタンは、イスラム国家で、スンニ派とシーア派と2つの宗派が敵対する関係にあり、少数民族であるハザラ人の多くはシーア派を信仰していることから、その民族の違いと相まって、差別の対象となってきました。

ハザラ人の歴史を辿ると13世紀にアフガニスタンに侵入したチンギス・ハーンの末裔ではないかといわれています。主要民族であるパシュトゥーン人からアフガニスタンのバーミヤンを中心とする中央山岳地帯に封じ込められるように不毛地帯での生活を余儀なくされ、1920年代まで奴隷として市場で売り買いされていたという、苦難の歴史を生きてきた民族なのです。
 
1979年、ソ連軍がアフガニスタンに侵攻するとハザラ人もイスラムを守るためムジャヒディーン(聖戦士)として立ち上がり、1992年、親ソ連のナジブラ政権が倒れ、ムジャヒディーン政権が出来ました。ところが、ハザラ人の統一党は政権への参加を拒否され、首都カブールは東と西に分断され、政権の主体となったタジク族を中心とする政権との内戦に発展してしまったのです。
その当時のカブールは銃弾、砲弾が毎日のように飛び交い街のあちこちに各派閥の検問が設けられ市民は怯えながら息を詰めて身を潜めて生活していました。
取材するなかで、アフガニスタンで名の知れた民謡楽士に会いました。話を聞くなかで家族の話になり、奥さんはいるのかとか、子供は何人なのというような他愛もない会話をしていると、「嫁は何年も前に貰ったんだが、その事で今でも命を狙われているんだよ」。さらっと言った彼に理由を聞くと「嫁さんは、パシュトゥーン人なんだ」。

楽士はハザラ人で結婚を快く思わなかった妻の親族から付け狙われているというのです。親族側からすれば、奴隷に娘を取られたという思いなのかもしれませんが、彼らとしてもそんなことは、百も承知なのです。男女の情熱は人種も宗派も越えていく。ただ彼のようなケースはまれで、アフガニスタンでは今でも人種差別、宗教差別、性差別など様々な差別が解消されていないのが実情です。

本当に差別という意識は無くなるのでしょうか。

ここに、キング牧師が残した言葉の一節を記したい。

「私には夢がある。
いつの日か、私の4人の幼い子供たちが、肌の色でなく、人格の中身によって評価される国で暮らすという夢が」

キング牧師の投げ掛けた言葉を決して夢で終わらせてはならない。差別とは人間の心の底に潜む邪悪なものの一つであり、未来に向かって人間が闘うべき永遠のテーマなのです。

【連載:「戦場を歩いてきた」】
数々の紛争地を取材してきたジャーナリストの佐藤和孝氏が「戦場の最前線」での経験をもとに、現代のあらゆる事象について語ります。

佐藤和孝(さとう・かずたか)
1956年北海道生まれ。横浜育ち。1980年旧ソ連軍のアフガニスタン侵攻を取材。ほぼ毎年現地を訪れている。他に、ボスニア、コソボなどの旧ユーゴスラビア紛争、フィリピン、チェチェン、アルジェリア、ウガンダ、インドネシア、中央アジア、シリアなど20カ国以上の紛争地を取材。2003年度ボーン・上田記念国際記者賞特別賞受賞(イラク戦争報道)。主な作品に「サラエボの冬~戦禍の群像を記録する」「アフガニスタン果てなき内戦」(NHKBS日曜スペシャル)著書「戦場でメシを食う」(新潮社)「戦場を歩いてきた」(ポプラ新書)

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