異次元の少子化対策、医療保険に上乗せ徴収「支援金」とは?
政府は「異次元の少子化対策」実現のため、2026年度から医療保険料に上乗せして集める「支援金」制度の素案を公表しました。支援金は1兆円を見込んでいて、高齢者含む全世代の人や企業などから集めるのが特徴。気になる負担は?
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政府は、異次元の少子化対策を実行するのに必要な3兆6000億円の財源のうち、1兆円を担う「こども・子育て支援金」の制度を創設するとして、詳細を盛り込んだ素案を、11日、こども家庭庁の会議で公表しました。
素案では「少子化が我が国の直面する最大の危機」だとして、これをくいとめるために、政府は2024年度から26年度までを集中取り組み期間として少子化対策の「加速化プラン」を行うとしています。
関係者によりますと、財源は3兆6000億円で、内訳は、既定予算活用で1兆5000億円、医療や介護などの歳出改革で1兆1000億円、さらに1兆円を「こども・子育て支援金」でまかなうということです。
この支援金について、今日公表された政府の素案では、2026年度から、医療保険料に「上乗せ」する形で、高齢者を含む全ての世代の人と企業などから集めるとしています。ただ、1人1人が納める支援金の額は、まだ示されていません。
支援金の額は医療保険料と同じく、所得に連動して決められ、さらに、会社員と自営業、高齢者など属性によって異なる見込みです。低所得者は軽減されるなど、負担能力に応じた仕組みになると、政府は説明しています。
■なぜすべての世代から支援金を集めるのか
なぜ、こども・子育て支援金を医療保険料を集めるルートを使って集めるのか?医療保険であれば、75歳以上の後期高齢者含め広い世代の人から保険料を集めることが可能だからです。
仮に現役世代のみから、支援金を集めるとすると、現状でも医療や介護、年金の保険料を納めなくてはならないため、手取り額が伸びず、「結婚や出産は難しい」「二人目、三人目はとても産めない」と考える人たちにさらなる負担を強いることになり、子育て支援策だと言いながら、若い世代を苦しめることになるからです。
こうしたことから、支援金は、高齢者も含めたすべての世代の人や企業からも集めるという考え方になっています。それぞれの世代で、所得が多い人には、より多く担ってもらい、所得が少ない人の負担は少なくするとみられますが、高齢者よりは現役世代の納付額が多くなる可能性はあります。
■人口減少を食い止める
全世代に支援金を納めてもらう仕組みは、「社会全体でこどもや子育てを支える」という理念に基づくものでもあります。政府の素案は、支援金制度について「全世代が子育て世帯を支える、新しい分かち合い・連帯の仕組み」だと説明しています。
わかりやすくいえば、有効な少子化対策を行って、子どもを希望する人が子どもを産み育て、結果として人口減少を食い止めることができれは、社会全体のためにもなるという考え方です。バス運転手や介護ヘルパーなど、様々な分野で労働力不足が深刻な中、将来の働き手を少しでも増やすことは必要です。
また税金のほか、年金や医療、介護の保険料を納める人がいないと制度は立ちゆかなくなり、物を買う人がいないと経済が回らない、住民がいない町は消滅の恐れがあります。つまり社会を支える若い世代を増やすことは、こどもがいない人や高齢者を含むすべての人や日本経済全体にとって重要だということです。
■支援金の具体額はまだ示されず…負担増は?
負担増となる場合、抵抗が根強いのも現実です。政府は、医療や介護などの「歳出改革」で保険料の伸びを抑え、その抑えた範囲内で、支援金制度を構築するため、追加の負担はないと説明していますが、実際のところ、支援金分として、医療保険料にいくら上乗せになるかなどは示されておらず、個人レベルで見た場合、負担増となる人がいないのかどうか、はっきりしません。
そもそも、高齢者の増加や価格が高い新薬の登場などにより、必要な医療費は増え続けていて、それをまかなうために、医療保険料は今後も上がる可能性があります。
政府は、医療保険料の増加幅を「歳出改革」で抑えるといいますが、その「歳出改革」とはどういうことか?いわゆる「無駄」を省くと同時に、一部の高齢者の自己負担増が含まれる可能性があります。政府の会議で12月5日に示された歳出改革の工程案では、高齢者のうち、医療や介護制度で自己負担3割の人を増やすよう検討することが盛り込まれています。また、12月7日、厚生労働省の審議会では、今後、介護分野で自己負担2割の高齢者を増やす方針がおおむね了承されました。
■こども・子育て予算の特別会計を創設
政府は2025年度、こどもや子育てに関する特別会計(こども金庫)を作って、支援金、税金、事業主拠出金などを繰り入れ、使い道との関係を明確化する方針です。
支援金の徴収は2026年度に開始され、2028年度までに段階的に制度を作っていくとし、先行して子育て支援策を行うために、特例公債を発行するということです。
そして、支援金は歳出改革の範囲内で構築すると法律に明記するとしていて、歳出改革ができず、財源が捻出できないから、その分支援金を増やすということはないと政府は説明しています。
こども・子育て特別会計の財源を使って様々な政策が行われる予定ですが、このうち支援金の使い道はあらかじめ決められ、これまで支援が薄かった0歳から2歳の子どもへの支援拡充などに使われる見込みです。
*児童手当
*育児休業給付や育休中の手取り収入を実質10割にする新制度
*時短勤務者に一定の賃金を給付する新制度
*出産・子育て応援給付金
*こども誰でも通園制度 など
支援金の額は所得に応じて決められる見込みですが、特に自営業の人や75歳以上の高齢者の場合、給与や年金が少なくても、多額の貯金や株式を持っている場合もあり、今回の素案には「金融所得を勘案することについて、引き続き検討」と明記されました。
政府は、来年の通常国会に関連法案の提出を目指す考えです。