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うったづぞ ~陸前高田 人情仮設の鮨~

2021年3月12日 13:58
うったづぞ ~陸前高田 人情仮設の鮨~

東日本大震災の津波で甚大な被害を受けた岩手県陸前高田市。かさ上げ工事の進む中、プレハブの仮設商店街で、将来に不安を抱きながらも再建を模索する寿司店の親子を追いました。

津波に負けず、三陸の新鮮な鮨とのれんを親子で守る。『さあ、やるべ』っていう、「『うったづぞ、うったづべえ』って。「ひとつの鶴亀の合言葉みたいな…」

30年近く、この町で営業してきた鶴亀鮨。大将の阿部和明は、病気で亡くなった妻とこの店を立ち上げました。

あの日、使い込んだ包丁も。すし桶も…津波で流されました。

和明さん「その、空から地震の音が、『バリバリバリバリバリバリ』ってすごい音なんだ。で、これが、もう、ホントに、ホントにすごい。5~6分続いた」

「『これが最後か』っていう感じですね」

大将の語りと、お見送りの愛のナイアガラはこの店の名物。

和明さん「ストップ。ストップ。ストップ。あ、ごめん。あれ全部集めて来て。あはは」

その大将を、無口な息子、真一郎さんが丁寧な仕事で支えます。

和明さん「なんか、すごいのやってる。『忙しいのに、そんなのやってんな』って。カボチャつくってる。おみやげ用」

津波が届かなかった場所に建てた仮設の「未来商店街」で、いまは営業しています。

和明さん「もう復活したんだがら、『陸前高田をこれで、まだまだ盛り上げるぞ』って、がんばってやってます」

アイデアマンの大将。震災後こんなメニューを考えました。ワサビてんこ盛りのなみだ巻。「辛い時は泣いていいんだよ」と…。陸前高田では、4階建てのビルと同じ高さに新しい町をつくろうとしています。

そこにまた借金をして店を建てるか。それとも当面、仮設で営業続けるか。親子は意見が分かれていました。

和明さん「家、建てれるぐれえの余裕あるんだれば、何も苦労しねえんだ」

ひとり暮らしの仮設に戻ると、飲んでいるのは睡眠薬。

和明さん「半分だな」「『明日、大丈夫かな』とかっていう心配」「蓄え出来るぐらいの、まわし方が出来ない。今、なんとか、まわってるだげだがらね」

震災後、将来への不安で眠れなくなりました。でも大将…

和明さん「お客さん見ると幸せなの。急にスイッチが入るんだ、なんだが」

親子は悩み抜いた末に借金をして、かさ上げ地に新しく店を建てる道を選びました。

和明さん「きのう、息子言っでだっけが、『やっぱり接待するどごは建てだどごの方にいぐんでねぇが』と。オラ『これ(仮設)でもいいが』って言ったんだげど」

息子・真一郎さん「楽しみなところもありますけど、本当にそれで人が来るかどうかは分からないので、やってみなくちゃ分からない」

新しい店は希望どおり、この大型商業施設の向かいに建てました。親子にとってこれからが正念場です。

和明さん「今日から開店しますので宜しくお願いします」「この日を待ってはいたんですけど、『さあやるぞ!』っていうのど、やっぱり不安の方も…」

この味を待っている町の人たちがいます。

大将、うれしい時も、泣いていいんだよ。さあ、ここから、うったつぞ。

テレビ岩手制作 NNNドキュメント
「うったづぞ ~陸前高田 人情仮設の鮨~」
2017年6月放送