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“ジャニーズだけじゃない”当事者が伝えたい性被害 ~後編~

2023年12月28日 8:31
“ジャニーズだけじゃない”当事者が伝えたい性被害 ~後編~
写真:アフロ

■家出中に大人の男性から性被害を受けた

つじゆうさくさんは、性暴力被害ワンストップセンター専門相談員などを務めるほか、加害者が責任を問われ、被害者の回復が権利として保障される社会を目指す活動をしている。

つじさんは、16歳の時に性被害を受けたという。「LGBTQ+」の当事者であるつじさんは、中学生の頃、恋愛は男性・女性のどちらも対象になるもの、もしくは、いずれ成長した後に、どちらかの考えに定まり、恋人ができたり結婚したりすると思っていたという。

ある日、化粧に興味を持ち、学校に化粧して行ったことがきっかけで両親とケンカをし、家出をした。「親や学校が敵」「存在を否定されたような気持ち」になったという。

家出して向かった先は、朝までやっていたという新宿のカフェ。そこで見ず知らずの大人の男性が声をかけてきたという。不信感があったものの、つじさんが当時好きだった音楽の話などをするうちに、食事に誘われ、なかなか手に入らなかった「レコードを貸してあげる」と言われ、家までついていった。

男性は自宅に着くと、当時16歳のつじさんにウイスキーを飲むよう勧めたという。体が思うように動かない状態になったつじさんに、男性は「もう寝よう」と声をかけ就寝。その後、苦しさを感じ、気がつくと、男性がつじさんの上にのっていた。「肌すべすべだね」「こういうことは経験しておいた方がいいよ」などと話しかけられた。

つじさんは、当時を振り返ると、まるで心と体が切り離されたかのような、自分自身を上から眺めているかのような不思議な感覚だったという。嫌だ、痛いと思うものの、体が動かず、「自分は木だ、痛くない」。そう自分に言い聞かせ、「早く終われ」と、ひたすら時が過ぎるのを待ったという。

■人生が暗転…「自分はバカだ、自分は汚いんだ」

不同意性交(同意のない性行為)だった。つじさんは、その後の人生が暗転したと語った。「自分はバカだ、自分はバカだ」という思いが押し寄せ、同級生や親、教師にも会いたくないと思うようになった。さらに、お風呂に入っても拭うことができない「自分は汚い」という認識があり、つらかったという。

1991年、つじさんは、性暴力被害について泣きながら訴える女性をテレビで見たことがきっかけで、自身の経験は性被害だったと認めることができたという。

それまで、過去について周囲の人に打ち明けたこともあったものの、「そんなこと言って、うそだろう」という人々の反応を受け、「冗談だよ」と開き直ることで、自分の気持ちにふたをしてきたという。そうしたことから、自身が性被害を受けたという事実を最終的に認めるまでに時間を要したのではないかと話す。

■性被害を話すと“うそつき”と言われた過去

前編・後編と性被害を受けた2人の当事者の声をつづってきた。2人が共通して話していたのは、自身の性被害体験をなかなか理解してもらえない過去があったということ。

トークイベントを主催した安西さんは“男性からの性被害を受けたこと”を理解されず、うそつき扱いされたという。カウンセラーや精神科医といった被害者に寄り添う立場の人からも、うそつき扱いを受けたという。

つじさんも、「女性とは違うんだから、そこまで深く傷つかないだろう」と言われたり、女性の性被害者からも「絶対、女性と男性の被害は違う」と言われたりし、つらい思いをしてきたという。

被害を打ち明けることは、容易ではないにもかかわらず、せっかく上げた声を信じてもらえず、苦しかったと当時の心境を話した。そうした状況に変化があったのは、2017年以降、刑法が改正されたことがきっかけではないかという。

■性犯罪の時効をなくす方向で考えてほしい

日本では、2017年の刑法改正で強制性交等罪と名称が変わり、女性に限られていた被害者は性別を問わないことになった上、男性以外も加害者になり得ると定義された。しかし、加害者を罪に問うには、被害者が暴行や脅迫を受けるなどして抵抗できない状態であることが要件で、その証明が非常に難しい現実があった。

今年7月、強制性交等罪が不同意性交等罪に変わった。アルコールや薬物の影響、地位を利用するなどして、「同意しない」意思を表すことなどが難しい状態にして性的行為が行われた場合には、加害者を罰することが可能になった。

こうした改正はあったものの、つじさんはイギリスやカナダなどと違い、日本では性犯罪に時効があることについて触れ、今後日本でも時効をなくす方向で考えていかなければと話した。トークイベントでは、自身も性被害の当事者である司会者が「なぜ訴えないの?」という趣旨のことを言われることはよくあると話し、被害に遭った直後に人に話したり訴えたりすることの難しさや加害者との関係性を壊したくないと考える場合もあるなどと説明した。

そして、時間の経過とともに、そうした思いを超えてようやく警察などに通報しようと思っても、時効が過ぎていたり、加害者がすでに亡くなっていたりと様々な課題があると話した。

■性被害をなくすために

トークイベントを主催した安西さんの言葉通り、今年はジャニーズ性加害問題が大きく報じられ、多くの人にも“男性の性被害”が認知されるようになったのは事実だ。女性の性被害者が「#MeToo運動」などをきっかけに声を上げ始め、今年は男性の性被害もようやく語られるようになった。

しかし、男性、女性、子どもが被害者となる性犯罪は起き続けている。塾講師や教員が教え子の性的な姿を盗撮したり、写真などを保有したり、体を触るなどして逮捕されるなど、立場を悪用した性被害も防ぐことができていない。

政府は、子どもと接する一部の職業に就く際、性犯罪歴がないことを確認する新たな仕組み、日本版DBSの導入に向けて議論してきたが、今年、国会に法案が提出されなかった。

性犯罪を防ぐ取り組みはもちろんのこと、性被害者支援の充実、相談しやすい環境や被害者への偏見をなくすことなども求められている。

また、性犯罪の加害者は、心理的な問題を抱えていることもしばしばあり、再犯を防ぐためには、罰するだけでなく、治療などを担う医療機関や施設を増やすことも必要だ。