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視覚障害者を取り残さない結婚式

2021年10月17日 12:00
視覚障害者を取り残さない結婚式

新たな道を歩き始める2人への祝いの舞台、結婚式。しかし、視覚障害者にとっては健常者と同じように楽しむことが難しいイベントだといいます。当事者でもある新郎が筑波大学の落合陽一研究室のサポートを得て実現した「インクルーシブな結婚式」の試みを取材しました。視覚障害のある出席者からは「結婚式で初めて泣いた」という感想も。

◆スマホ画面に視線 インクルーシブな結婚式

9月上旬、都内の結婚式場。司会の「新郎新婦の入場です」との声で、大きな拍手とともに迎えられた岩田朋之さんと美晴さん。普段なら、出席者たちの視線が一斉に2人に注がれる場面ですが、何人かのゲストは手元のスマートフォンをじっと見ていました。

実はこの結婚式、視覚障害のある出席者にも楽しんでもらえるよう、音響や映像の最新技術が導入された「インクルーシブな結婚式」なのです。どんな工夫があったのでしょうか。

◆結婚式で「取り残される」視覚障害者の思い

岩田朋之さんは26歳でレーベル病を発症した視覚障害者。完全に見えない全盲ではなく、視界全体がぼやける“ロービジョン”の当事者です。これまで出席した結婚式では「せつない思い」をしてきたといいます。

岩田朋之さん「26歳で視覚障害になってから10回近く結婚式に出席しましたが、いつも“少し取り残されている感じ”がありました。目が見えにくいことでわからないことが多く、なんでみんな泣いてるんだろう、とか、なんでみんな笑っているんだろうってわからないままその場をやり過ごしてきていた。お祝いしたい気持ちはあるけれど気持ちの面で入りきれないこともあった」

◆筑波大・落合陽一研究室が開発 音響と映像の新システム

自分が結婚するにあたり視覚障害のある友人たちにも楽しんでもらえる結婚式を作りたいと相談したのが、もともと視覚障害とスポーツの研究をしていて交流のあった筑波大学デジタルネイチャー研究室の貞末真明さんでした。貞末さんが指導教官の落合陽一准教授に相談したところ、研究として音響と映像のシステムを開発する形で協力することになりました。

◆新郎へのサプライズは手元のタブレットで

貞末さんたちのチームが当事者へのヒアリングを経て導入した新しい試みは2つあります。

1つ目は、目が見えにくい人が新郎新婦が歩いている場所や、スピーチをしている人の方向がわかるように、複数のスピーカーを使って“音を移動させる”こと。

2つ目は、ビデオ通話アプリ「Zoom」を使って、出席者が手元のスマホで、上映されている映像やスピーチをしている人などのアップの映像を選んで見ることができるようにしたことです。

結婚式の間、朋之さん自身も手元のタブレットでこのシステムを利用しました。サプライズで朋之さんの憧れの人・本田圭佑選手からのビデオメッセージが流れ、朋之さんが涙する場面もありました。

朋之さん「自分の知らないサプライズ動画も、自分がわからないと感動もできない。こういうシステムがあったことで思う存分感動できて、本当にありがたかったなと思います」

◆「結婚式で初めて泣いた」視覚障害ある出席者たちの反応

システムを利用した視覚障害のある出席者たちからは、これまでに出席した結婚式とは違うという喜びの声が聞かれました。

「今まで参加した結婚式では、映像が流れている時は僕は“もぐもぐタイム”で。みんな感動している時に僕はひたすら食べてて、どこに感動していいのかわからないことがあった。今日は、みんなと一緒に同じ時間を共有できた」

「これまで結婚式で新郎新婦の表情などを自分は見たことがなかったので、率直にすごく感動して、結婚式で初めて泣きました。テクノロジーを活用して、障害のある人が一緒に感動できるのは素晴らしい」

◆「できなかったことができるように」インクルーシブな社会の広がりへ

開発者の貞末さんは、今回のプロジェクトにあたって特別な仕組みを作るのではなく、誰でも使えるZoomのアプリを活用するなどして、これから他の視覚障害者の結婚式でも自由に使ってもらえるように工夫したといいます。

貞末さん「いろんな方に結婚式に限らずいろんなところで使っていただいて、自分のこれまでできなかったと思っていたことが実はできると考えてもらえたら嬉しい」

今回の結婚式のノウハウは、今後インターネット上で公開される予定だということです。

研究をサポートした筑波大学デジタルネイチャー開発研究センター・落合陽一准教授「今は現実的な生活に落とし込んだ人とコンピューターの関わりの“生きた研究”が大事だと思っています。人の生活とテクノロジーの関係を若い人が追究していくことをこれからも応援したいです」