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定置網の中で「寒ブリ」が……地震で水揚げできず“大量死” 能登島のダイバーが撮影、赤く染まる海 漁再開も被害なお

2024年1月19日 8:52
定置網の中で「寒ブリ」が……地震で水揚げできず“大量死” 能登島のダイバーが撮影、赤く染まる海 漁再開も被害なお
能登半島地震で、石川県内の多くの漁港や設備が被害を受けています。寒ブリ漁が盛んな今、漁師やその関係者にも大きな影響が及んでいます。七尾市の能登島で、水揚げできずにブリが大量死した様子を動画や写真に収めた人に、被害や現状について聞きました。

■魚が入り過ぎて網が揚がらない状況に

藤井貴彦アナウンサー
「石川・七尾市の能登島にある鰀目(えのめ)漁港の沖合で、地震の後の海の中を撮影された方がいます。定置網漁に使う網のメンテナンスをしている鎌村実さんです」

「鎌村さんは、鰀目漁港の漁師から震災で壊れた網の修理を頼まれているということですが、現在の港はどのような状況ですか?」

鎌村さん
「今回、震災によって魚が入り過ぎて揚げられなくなった網があります。(入るのは)うれしい話なのですが、入り過ぎて揚がらない。それを回避するために、現状は潜って別のロープをかけて、なんとか揚げている格好です」

■地震から2週間後、海に潜って撮影

藤井アナウンサー
「鰀目漁港でも、旬であるブリの水揚げができない状態が続いたということですが、ダイビングショップも営んでいる鎌村さんは地震後、海に潜って撮影されました」

「撮影は地震から約2週間後の15日。網の中で大量のブリがたまっている様子が確認できます。本来なら4日からこの網を引き揚げる予定でしたが、断水と停電の影響で、水揚げの際に必要な水や氷を確保できず、16日まで水揚げできなかったということです」

「この撮影をした時は、網の中のブリはどんな状況でしたか?」

鎌村さん
「ブリがすし詰め状態で、身動きがとれず、腐敗してしまっている感じです」

藤井アナウンサー
「生きているブリは1匹もいなかったのでしょうか?」

鎌村さん
「若干隙間があるところでは、小さいブリは生きていました。ただ漁師さんの商品になるような大きな10キロ超えのようなブリは全滅という感じです」

■海上からの写真に…白と赤の濁り

藤井アナウンサー
「15日に海の上から(鎌村さんが)撮影した写真もあります。海面が白く濁り、部分的に赤くなっているところもあります。これはどういう状況なのでしょうか?」

鎌村さん
「海中の動画の状態は『袋網』と言い、最終的に漁師が魚を揚げるところです。一方(海上からの)写真は通常(の方法)では揚がらないので水深32メートルまで潜り、普段と違う箇所にロープをかけてクレーンで引き上げ、なんとか水面まで揚げてきたところです」

藤井アナウンサー
「赤い部分はブリの血が流れているところでしょうか?」

鎌村さん
「そうです。(海は)赤かったり、白かったり。食べると本当においしい、脂ののった状態のブリですが、海の中で脂と血と、腐敗した身で白濁りをして、まるでゼリー状で膜を張ったような感じです」

■1つの網で1000万円ほどの被害額か

藤井アナウンサー
「鎌村さんに網の修理を依頼した漁師の皆さんのところでは、どれくらいの数のブリが死に、どれくらいの被害額が出たのでしょうか?」

鎌村さん
「今回の網だけを考えると、本来はお正月が明けた4日に揚げるはずが、揚げられませんでした。揚げられずどんどんたまっていき、見た感じで1000匹くらい。漁師の売り値で1匹1万円と考えると、それだけでも1000万円です」

藤井アナウンサー
「今の水揚げの状況は少しは改善されているのでしょうか?」

鎌村さん
「15日の午前中に、この網の死んだブリを全部出し、網を使える状態にしたので、16日の朝はこの網でブリを400本出荷できたと聞いています」

藤井アナウンサー
「漁師の方の状況から考えると、ブリを揚げられてひとまず良かった、という心境かもしれませんが、今漁師の皆さんはどんなことを話していますか?」

鎌村さん
「能登島の鰀目の漁師さんたちは比較的若い方が多く、『ここで後ろ向いて沈んでいても仕方がない』『頑張って一歩ずつ進むしかないな』と、気合を入れて頑張っています」

■ダイビング店も被災、空気製造できず

藤井アナウンサー
「鎌村さんご自身も、自宅やダイビングショップが被災したと思いますが、どのような状況でしょうか?」

鎌村さん
「自宅は七尾市の一本杉通りという、市内で家屋倒壊が最もひどい場所にあります。なんとか家は(損壊を)免れて生活はできていますが、まず水がありません」

「ダイビングショップはぐちゃぐちゃの状態です。建物自体は鉄骨の平屋で倒壊はしていませんが、中と地面、敷地内がそこらじゅうひび割れして、営業ができるような状態ではありません」

「かつ、潜るために空気が必要ですが、潜水用のボンベの空気を製造する設備が倒壊してしまっています」

■出航できず…所有する船には穴が

藤井アナウンサー
「船も所有されているということで、影響はどうでしたか?」

鎌村さん
「一見して『浮いていて大丈夫だ、良かった』と思いましたが、側面と船底に穴が開いてしまっていました。使えない状態で、2隻ともそうでした」

藤井アナウンサー
「揺れによって穴が開いたのでしょうか?」

鎌村さん
「おそらく、停めている岸壁にぶつかったのだろうなと。津波でひどいところは、陸に揚がってしまったりひっくり返ったりしています。そうならなかったのは幸いでしたが、結局は使えない状態になっています」

■ダイビングの受け入れに影響なお

藤井アナウンサー
「新型コロナウイルスの状況が落ち着いて、観光業は少し光が見えていた中での地震だったと思います。予約への影響は続いているのでしょうか?」

鎌村さん
「そうですね。(能登半島に囲まれた)富山湾は深くて1100メートルあり、深海魚が冬場に浅いところに産卵に上がってきます。そういったものを、レジャーダイバーの方々が写真を撮ったり見たりして楽しむというのでお受けしていましたが、全てお断りしています」

藤井アナウンサー
「『こうしてくれたらうれしいな』という願いはありますか?」

鎌村さん
「総務省から日々いろいろなことが発表されて拝見していますが、観光業全体で言えば、近くには和倉温泉があり、宿泊業の(旅館や)民宿なども多いので、そういった(ところへの)支援は十分ではないですが頑張って出していただいているなと」

「またブリ漁など水産業に関しても、別枠でいろいろ出していただいていますが、水産業をお手伝いしている我々、観光業を担っているダイビングショップという位置付けで今見る限り、我々がプラスに頑張っていけるような施策がちょっと見えません」

「定置網のメンテナンスをするにも空気のタンクが必要です。船も必要です。こういった物が使えない状態になっているので、大きな部分ではないですが、ぜひとも(支援していただきたいです)」

「能登半島のダイビングショップは私どもだけです。1軒しかないので(見えにくいですが)、サポートの充実をもう少し考えていただけたらありがたいなというところです」

藤井アナウンサー
「もう一歩踏み込んだ、観光業の支援の幅が必要だということですね」

(1月18日『news every.』より)