手作りの「漬物」が消える? 悩める生産者「許可まで取ってやらない」 伝統の味と文化を守るには【#みんなのギモン】
そこで今回の#みんなのギモンでは、「手作りの漬物が街から消える?」をテーマに、次の2つのポイントを中心に解説します。
●売り場が半減? 厳しい衛生基準
●○○さんの味 存続するには
「皆さん、漬物は好きですか?」
忽滑谷こころアナウンサー
「好きです」
森圭介アナウンサー
「私もお酒のアテとして楽しませていただいております」
近野解説委員
「どの漬物も、白いご飯とお酒によく合いますよね。ご当地の漬物を見てみましょう。秋田は『いぶりがっこ』、長野は『野沢菜漬け』、奈良伝統の『奈良漬け』、京都の『千枚漬け』、東京は『べったら漬け』。東京・新大久保には『キムチ』もあります」
「こうしたご当地の漬物はもちろん工場で生産されるものもありますが、農家の方が地元の野菜で手作りしたものなども売られています。道の駅などで見かけたことありますよね」
鈴江奈々アナウンサー
「道の駅に行くとその場所でしか出合えないものがあるので、お土産や自分の家用に買うのが楽しみの1つになっています」
近野解説委員
「そうですよね。生産者の顔も見えますしね。このうち、手作りの方が姿を消してしまうかもしれないピンチを迎えているんです。ピンチの理由は、ルールが変わったからです」
「きっかけは2012年、札幌市などで8人が亡くなったO-157集団食中毒事件です。原因は食品会社が製造した白菜の浅漬けで、これを機に食品衛生法が改正されました。大きく変わったのは、手作りの漬物の製造・販売が許可制になったことです」
「決められた製造工程や設備を満たした上で、保健所から許可をもらわないといけなくなりました」
森アナウンサー
「改正前は許可がなくても販売することができたんですか?」
近野解説委員
「手作りの漬物を売るためのルールは自治体によってバラツキがありました。届け出が必要な地域もあれば、何も縛りがないところもありました。それに対し、国が一律の基準を設けたという形です」
近野解説委員
「この改正で生産者の皆さんを悩ませているのが『設備を満たす』という点です。自宅の台所と分けて専用の調理場が必要で、手洗い設備の水道の栓はハンドル式はダメ。手や指の汚れがつかないようなレバー式や、ひじや足で押せるもの、センサー式が求められます」
「温度計が付いた冷蔵庫も必要で、床面や内壁は不浸透性、つまり水洗いが容易にできて排水溝もしっかり床に備えてあることが求められます」
忽滑谷アナウンサー
「例えば農家さんなど、これまでこぢんまり作っていた方にとっては結構ハードルが高いですし、全部そろえるとなるとお金もかかりますよね」
近野解説委員
「そうですよね。家の台所や納屋の片隅などで細々とやっていた方にとっては、新たにお金をかける必要が出てきました。これらが義務とされたのが2021年6月で、3年間の猶予期間が設けられました。その期限が5月31日に迫っています」
近野解説委員
「いよいよ、ということで影響が広がっています。青森・藤崎町の産直施設『ふじさき食彩テラス』では、地元の生産者それぞれの味が楽しめる手作りの漬物が並んでいます。ただ、6月以降に売り場の面積は半分ほどになる見通しです」
◇
ふじさきファーマーズLABO 松丸良平代表取締役
「年齢の高い方も多いので、ある意味これをきっかけに、もう(出荷を)やめようかなという人も…」
福岡・糸島市。80代の樗木(ちしゃき)タツエさんは40年以上、高菜漬けやたくあんなどの漬物を作り続けています。
樗木さん
「どうして許可まで取らなくてはいけないのか。もう(漬物販売を)やめる人もいる。『許可まで取ってやらない』と言って。“手作り”という伝統ですよね、みそにしても漬物にしても。いろんな知恵で加工してきたことを一部だけど引き継いできている」
「どうにかして(許可を)取りにいかなければいけないと思っている」
刈川キャスター
「私も福岡出身なので、故郷の味をつないできてくださった方がやめるか葛藤しているのはすごく心細いです。期限は5月31日ということで、どれくらいの方が(許可申請に)進んでいるんですか?」
近野解説委員
「実際に許可を申請している方はどれくらいなのか。例えば福岡県が管轄する地域なら、漬物の製造業として届け出がある3652件のうち、4月15日時点で許可を取得したのは、たった412件です。今までと比べれば、10分の1ほどになる可能性があります」
鈴江アナウンサー
「それは、基準を満たしていなくて許可がなかなか下りないということですかね?」
近野解説委員
「そもそも許可を求めるのにハードルが高いんじゃないかという見方が強いですね。お金もかかりますし」
近野解説委員
「実際に設備を新しくするのにどれだけ費用がかかるのでしょうか」
「青森で手作りの漬物を出荷する米村幸弘さんは、3槽のシンクを新調しました。改修にかかる費用は合計で約150万円だそうです。米村さんの場合は自分で設備工事と改修をしたそうですが、それができる人ばかりではもちろんありません」
近野解説委員
「では、どうしたらいいのか。自治体が支援に乗り出した事例があります」
「秋田のいぶりがっこは、伝統の味が法改正によって消えてしまうのではないかと危ぶまれていました。そこで秋田県は法改正翌年の2022年から、生産者1人につき最大1000万円の補助を実施。いぶりがっこ以外の漬物も対象で、これまで134件の申請がありました」
森アナウンサー
「こういった漬物はもちろん食品の1つではありますが、食文化でもあって、海外からも評価されている部分もあるわけじゃないですか。こういった補助があるというのは本当にありがたいでしょうね」
近野解説委員
「食文化はすごく大事なワードです。補助を始めた理由について秋田県は、農家の所得を維持することも挙げていますが、秋田の文化を守ることも挙げています」
「高菜漬けが有名な福岡県では、4月末からの開始を予定しているのが、共同設備への補助金です。農家が数人でグループを作り、共同で使える施設を用意。その整備にかかる費用を1グループあたり最大150万円補助しようというものです」
「共同でということになると負担は軽くなるので、漬物を作って売ることを諦めずに済む1つの手段になるかもしれません」
鈴江アナウンサー
「こういった支援は、まだ全部の自治体で行われているわけではないということですよね?」
近野解説委員
「私たちが見た限りでは実例はまだこれくらいかな、というところです」
鈴江アナウンサー
「こういう漬物作りを通じてやりがいや生きがいを感じていらっしゃる方もいるでしょうし、それを楽しみにしている私たち消費者もいます」
「そういったつながりがルール改正によってなくなってしまうのは寂しいですし、守れるように支援制度も整っていくことが今後広がっていくといいですよね」
近野解説委員
「懐かしい味を買える機会は今後もしかしたら減るかもしれません。一方で、このルールがあるから生産者も消費者も安心して昔ながらの味を楽しめる側面もあります」
「家庭の味が長く受け継がれるよう、作り手もやりがいを感じられるよう、ルールを守る生産者の支援がもっと充実していくことを願うばかりです」
(2024年4月19日午後4時半ごろ放送 news every.「#みんなのギモン」より)
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