離婚後の「共同親権」に賛否 「“温厚な紳士”元夫がDV」「再び支配されるのでは」…不安にどう応える?【#みんなのギモン】
●共同親権でどう変わる?
●DV・虐待 裁判所の対応は
「夫婦が離婚した際に、子どもの親権をどちらか片方が持つのか、共同で持つのかといった大きな問題です。16日の衆議院本会議では、離婚後の共同親権をめぐる民法の改正案が可決され、この後、参議院での審議を経て今の国会で成立する見通しになりました」
小野解説委員
「そもそも親権とは、子どもの世話や教育、住む場所の決定、財産管理などを行う親の権利・義務のことです。離婚した場合、今は父親と母親のどちらか一方しか親権を持つことができません。つまり、単独親権ということになります」
「これを戦後になって初めて、大きく変えようということです。具体的には父親と母親が離婚した時、まず話し合ってもらう。その結果、これまで通りの単独親権にしてもいいし、話し合いで合意すれば、両方が親権を持つ共同親権にしてもいいということになります」
「話し合いで合意できない場合は家庭裁判所が共同親権とするか、父親か母親どちらかを親権者とするかを判断することにします」
鈴江奈々アナウンサー
「これまで認められてこなかった共同親権というものを待ち望んでいた人たちからすると『ようやく』ということだと思いますが、一方で離婚の背景にDVなど暴力があった場合、共同親権に不安を覚えていらっしゃる方も多いでしょうね」
小野解説委員
「そうなんです。この問題は『ぜひ導入を』と前向きな人がいる一方で、さまざまな事情があって心配しているという人もいます」
「年間の離婚の数を見てみます。厚生労働省の人口動態統計によると、2022年は17万9099組の夫婦が離婚しています。そのうち、未成年の子がいる夫婦の離婚は9万4565組に上ります。その8割以上は、母親が子どもの親権を持ち、子育てしているのが現状です」
「ただ、さまざまな問題が起きています。まず、養育費が支払われないというもの。現状では約7割の母親が、父親から全く養育費を得られていない、または過去には得ていたけども今は得られていないといいます」
「そして、子どもと同居していない親が面会交流しづらいという問題もあります。子どももさみしい思いをします」
「そこで政府は、子どもの利益を守るために離婚後も父親と母親の双方が養育に関われるようにしようということで、共同親権の導入を考えたわけです」
桐谷美玲キャスター
「子どもの利益を守るためという通り、子どもの気持ちがとても大事になってくると思います。導入されると、具体的にはどのように変わるんでしょうか?」
小野解説委員
「共同親権を導入する狙いは、離婚後に子どもと疎遠になり、もっと関わりたいと思っている親たちの声に応えて子どもとの面会交流を行いやすくするのが1つです。そして、一方の親が負担を1人で負うことなく、子育てが両方でできるようにするのも狙いです」
「今回の法案では、共同親権の導入と合わせて養育費についても定められています」
「『先取特権』として一定の条件があれば素早く養育費の差し押さえができるようにしたり、離婚時に合意や取り決めがなくても、養育に必要最低限の金額(法定養育費)を計算して相手に請求できたりする制度にしようということです」
森圭介アナウンサー
「母親が8割以上親権を取り、男性が親権を持っていないパターンが多いということです。私の友人にも、養育費は払っていてもなかなか子どもに会えないんだという人もいます」
「離婚後に友好的な関係を保てていればまだいいんでしょうけども、そうじゃないケースも多いですもんね」
小野解説委員
「そうなんです。離婚の原因が夫婦間の関係悪化やトラブルの場合、心配なことがあります。日本テレビの情報提供サイトには、さまざまな声が寄せられています」
「例えば、『常識的な会話ができないから離婚したのに、相手が共同親権を求めたらまた話し合うなんて無理』というものです」
「『裁判所に判断してもらえればいいというけれども、一般の子育て中のシングルマザーが家事・育児・仕事に加えて、調停や裁判に対応するような経済的・精神的・時間的な負担が大きいことを知ってほしい』という訴えもあります」
小野解説委員
「こういう意見もありました。『夫の言葉の暴力がひどくて、子どもを連れて家を出た。離婚調停を経て離婚しました。元夫が共同親権を求めて裁判所が認めたら、元夫から再び支配されるんじゃないかと心配です』」
「もちろんこうしたことも想定されていて、法案では DV や虐待の恐れがある場合、家庭裁判所は単独親権にしなければならないとしています。ただ、それに対して心配の声もあります」
「『元夫からDVを受けていました。その元夫はご近所や職場では温厚な紳士として振る舞う人でした。裁判所がちゃんと判断してくれるのでしょうか?』というものです」
鈴江アナウンサー
「確かに家庭の中は見えづらい、ある意味ブラックボックスに近い状況です。実際にどちらの言い分を家庭裁判所が信じるのか、公正に正しく判断されるのかという不安が拭い去れないのは、すごく理解できますね」
桐谷キャスター
「そういった不安の声も多いようですが、対策はあるんですか?」
小野解説委員
「DVや虐待への裁判所の対応について見てみます。最高裁によると、全国の家庭裁判所が扱った子どもの親権をめぐる調停や審理の件数は年々増えています。2020年は合わせて5098件で、審理期間も長くなる傾向にあり、同年は平均で8か月ほどです」
河出奈都美アナウンサー
「平均なので、8か月よりもっと長い人がいるということだと思いますし、子どものこととなるといろいろと主張もありますし、お互いの譲れないものがぶつかり合って、長くなっていってしまうのかなと思います」
小野解説委員
「それだけ親権はもめる案件なんですよね。離婚後の共同親権が導入されれば、家庭裁判所の負担はさらに増えることが予想されます。衆院法務委員会の審議では『家庭裁判所の体制は不十分で、被害を見逃す恐れがある』という指摘も出ました」
「専門家に聞きました。早稲田大学の棚村政行元教授は『共同親権という選択肢ができるのは大きな改革だ。だが現段階の法案で施行するのであれば、家庭裁判所の体制を充実させていかないといけない』と話しています」
「これについて衆院の審議では、最高裁が『家庭裁判所の処理能力の向上を図ることも検討する』と答弁しています。例えば、裁判官と同じ権限で一部の弁護士が調停にあたる、現在もある『家事調停官』を増やすことを考えているとのことです」
小野解説委員
「法案は19日にも参議院で審議入りし、今の国会で成立する見通しです。成立すれば2026年度頃をめどに新しい制度が始まる見通しです」
森アナウンサー
「過去に離婚して単独親権だったパターンで共同親権に移すことはできるんですか?」
小野解説委員
「今審議している法案でどうするかはまだ決まっていません。ただ、今でも親権をめぐって不満がある場合、申し立てて変更することは可能です。これと同じことで、過去に離婚した人が『共同親権にしてほしい』と申し立てることは可能だと言えます」
鈴江アナウンサー
「それぞれのケースでいろいろな思いも事情もあると思うので、それぞれに寄り添った判断がされる体制がとにかく整うことを望みたいですね」
小野解説委員
「『親と会って話し相手になってほしい』という、子どもたちの気持ちがとても大事です。一方で、弱い立場にある親や子どもたちの不安を招くことのないよう、国会で審議を尽くす必要があります」
(2024年4月17日午後4時半ごろ放送 news every.「#みんなのギモン」より)
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