「人との触れ合いが楽しかったと思い出してほしい」保護犬・保護猫をきれいな姿に…ボランティアトリミングを続ける思い
保護犬・保護猫のボランティア活動に従事している「HugKu-Me」理事長の牛島加代さんには、10年間の活動の中で、一度も止めずに続けてきたことがあります。それは「ボランティアトリミング」です。どのような活動なのでしょうか。千葉県動物愛護センター(千葉県富里市)へ足を運ぶと、そこには“命を救いたい”という多くの人たちの努力がありました。<取材・文=市來玲奈(日本テレビアナウンサー)>
■「無理はさせずに、楽しかったと思い出してほしい」
牛島さんはボランティアトリミングを始めたきっかけをこう話します。
「犬や猫の保護活動がしたくて犬のことをよく知る“プロ”、トリマーになったんです。でも自分に何ができるのか分からずにいたところ、千葉県動物愛護センターでボランティアトリミングをされている方を10年前にSNSで知り、参加したことがきっかけです」
「まずは私たちトリマーが動物愛護センターをきちんと見て、保護犬・保護猫の現実を知ることが大切だと思いました。私たちプロ側の意識が変われば、もっと助けられる命があると思うんです。犬たちの命をつなぐために、今まで10年間継続してボランティアトリミングを実施しています」
施設に収容された保護犬・保護猫の体をきれいで清潔な状態にすることで新しい飼い主さんに引き取ってもらえる可能性が高くなるといいます。また優しく愛情をこめてトリミングすることで、犬の体と心を癒し、人と触れ合うことの楽しさや温かさを感じてもらうことも大切な目的だということです。実際にどのように行っているのでしょうか。千葉県動物愛護センターで行われているボランティアトリミングの現場に伺い、お手伝いをさせていただきました。
今回トリミングをするのは、雌の雑種犬クララちゃん。少し怖がりで大人しい性格です。迷子で収容されましたが飼い主は見つかっていません。クララちゃんのように迷子札やマイクロチップがついておらず、飼い主が分からないまま迎えが来ずにセンターで過ごす保護犬は多いそうです。
トリミングをするにあたり、牛島さんが大切にしていることがあるといいます。
「わんちゃんそれぞれの性格に合わせています。風が苦手だったり、シャワーの音が怖かったり…。難しいかなと思ったら、ブラシや蒸しタオルだけにしています。心のケアも兼ねているので、とにかく無理をさせないことですね」
牛島さんに加えてボランティアのスタッフ2人とともに、まずは体を濡らしてシャンプー・トリートメント、ドライヤー・ブラシ、カットの順できれいにしていきます。クララちゃんは風が苦手なので、ドライヤーの風量や向きを工夫しながら乾かしていきます。1時間ほどのトリミングで、クララちゃんはとてもかわいらしい姿になりました。
「体をきれいにしてあげることで病気の予防にもなりますし、かわいい姿にして譲渡に繋げてあげたいです。何よりも『人との触れ合いがこんなにも温かくて楽しかったんだ』と、わんちゃんたちに思い出してほしいです」
センターによると、うれしいことにクララちゃんに引き取り手が見つかったとのこと。
牛島さんはじめボランティアトリミングのスタッフの皆さんは「これから会えない寂しさはあるけれど、こんなにもうれしいことはないですよね。クララ、良かったね!」と話していました。
■行政とボランティアの協力で…
「ボランティアトリミング活動の存在がとても大きいんです」
そう話すのは、千葉県動物愛護センター次長の飯田直樹さんと愛護管理課の大日方洋一さんです。
現在収容されている多くは飼い主が不明の犬や事故などで負傷した猫だといいます。
「飼い主が迎えに来なければ、感染性が強い、重度の疾患を持っている、交通事故の経験がある、人に対する攻撃性を持っている…など様々な理由で譲渡に移すことが難しいケースもあって、殺処分をゼロにしたくてもできない現状があります」
少しでも譲渡へ繋げようと、千葉県動物愛護センターでは2012年頃からセンターが主導してボランティア団体に働きかけ、ともにトリミングの実施や譲渡会の開催、避妊・去勢手術などに積極的に取り組んでいます。それまでは日々の業務の間にセンターの職員がトリミングをしていたそうです。
牛島さんは「行政がボランティアを受け入れ始めたことが、ボランティアトリミングが広がる一つのきっかけになったと思います」と話します。
「だからこそ行政ができることは行政、ボランティアができることはボランティアといったように協力体制で取り組めると良いですよね。トリマーである私たちのプロの技術で助けられることがあるのであれば、惜しみなく協力したいです」
センターでは、収容されている犬や猫たちが、譲渡が決まるまで健康で安心して過ごせるよう、一頭一頭の体調や性格をリスト化して細かく管理しています。また施設内にあるドッグランや猫の遊び場は職員の手作りだそうです。
飯田さんと大日方さんは「色々な方の協力があって今があるので、これからもご縁を大事にしていきたいです」とボランティアへの感謝を話します。
「わんちゃんの体調や皮膚の状態など、ボランティアの皆さんが情報をすぐに教えてくださるので助かります。ドッグランも職員の手作りですが、工事においてはボランティア方の旦那さんが工事関係のお仕事をしていて手伝ってくださいました」
「やれることは限られているけれど、今いる子たちの性格などを熟知して、お世話をして、一頭でも譲渡に繋げていくことが大切だなと。ここに収容されて3年になるわんちゃんがつい先日、引き取り手が見つかったんです。改めてお世話をしてきて良かったなと思えた瞬間でしたね」
■「安易に人間の都合で飼わないでほしい…」
収容される犬や猫たちの頭数は集計を見ると減ってはいるものの、さらに減らしていくには「高齢化」という大きな課題があると大日方さんは話します。
「(保護され引き取り手がないまま)高齢となった動物たちをどこで受け入れていくのか。まだ次のステップかもしれませんが、終生を看取ることのできる(高齢保護犬猫専用の)施設、人間でいう特別養護老人ホームのようなシェルターが必要だなと感じます。高齢の動物たちを救えるようになれば、より減っていくのではないでしょうか」
だからこそ、大日方さんは伝えたいことがあるといいます。
「安易に人間の都合で飼わないでほしい。動物を迎えるということは、自分が一人の子どもを産んでいることと同じだと思ってほしいです」
「本当に犬や猫を好きな人は自分にお金がなくなっても、動物のために生きると思うんです。それが本当の人間の気持ちだと思うんですよね。そのような人・心が育っていってくれれば、このセンターもいらなくなると思います。そのような時代が来てほしいですね」
◇◇◇
“動物愛護センター”と聞くと、マイナスなイメージを持つ人もいるかもしれません。しかし実際に足を運んで見えてきたのは、今回お話してくださった飯田さん、大日方さんをはじめとした職員の皆さんが寝る間も惜しんで、一頭一頭のわんちゃん・ねこちゃんと丁寧に向き合っている姿でした。まだセンターに来たばかりでおびえている子、少し慣れてきてわずかに尻尾を振っている子…。様々な理由があるかもしれませんが、私たちの人間の都合でこれ以上罪のない、わんちゃん・ねこちゃんを傷つけてしまわないように、動物の命を預かることの責任の重さを今一度考えるべきだと実感しました。(日本テレビアナウンサー・市來玲奈)
コロナ禍で新たに犬や猫などの動物を飼い始める人もいます。ペットは幸せを与えてくれるかけがえのない存在。しかし同時に“命を預かる責任”が伴います。日本テレビ系列のニュース番組『news every.』のコンセプトは「ミンナが、生きやすく」。この連載では、動物とともに生きていくうえでの大切な気づきを取材します。