【約2000人を追跡調査】こどもは本当に困ったとき、SOS出せる? うつ症状悪化で「相談したい」弱まる
大人はこどもに対して「困ったら相談してね」と呼びかけることが多いですが、こどもは、悩みが深刻になり、うつ症状が悪化するほど、人に相談したい気持ちが弱まることが、およそ2000人の10代を6年間追跡した大規模な調査で初めてわかりました。
■思春期のこどもでの研究…“世界初”
これは東京都医学総合研究所による大規模思春期コホート研究でわかったもので、国際的な学術誌「Journal of Adolescent Health」(電子版)に、今月4日、論文が掲載されました。宮下光弘医師らの研究チームによりますと、思春期のこどものおよそ4人に1人がうつ症状を抱えている可能性があるものの、こうしたこどもの多くが心のケアを受けていない実情があるということです。
そこで研究チームは「こどもは本当に困ったとき、SOSを出せるものなのか?」と考え、今回の解析を行いました。
具体的には、2013年から、東京都内のおよそ2000人のこどもについて、10歳~16歳まで、2年おきに心の状態を調べたところ、「何をしても楽しくない」「悲しい気持ちになる」と回答するなど、「うつ症状」が悪化するにつれ、「相談したい気持ち」が弱くなるという結果が初めて明らかになったということです。
この傾向は、「相談したい気持ち」がもともと大きいこどもにも、小さいこどもにも同じように見られたほか、男女の差もなかったということです。
今回の研究は、同じこどもたちを6年間で4回調べたことがポイントで、継続して追跡したことで、うつ症状が先にあり、それによって相談しにくくなるという関係性が明らかになったと説明しています。
そして、大人では、このような関係性の研究はあるが、思春期のこどもでの研究は世界初だということです。
この論文をまとめた精神科の宮下光弘医師は「『悩んだら相談してね』とこどもたちに呼びかけることは大切だ」とした上で、「『本当に困ったときには、相談したい気持ちが弱くなる』ということを知っておいてほしい」と話します。
そして、「『誰かに相談しても、軽くあしらわれることもあるので複数の大人に相談しましょう』という教育指針があるが、今回の結果からみて、現実にはそれは非常に厳しいのではないかと思います」と述べました。
■大人がこどもの変化に気づけるように…
宮下光弘医師
「普段の信頼関係がなくて、困った時だけ相談しに来てねと言っても、“実は……”などと急に打ちあけたりしないですよね。本当に困ったときに、お子さんが相談できるようになるためには、普段から、周囲の大人がこどもとコミュニケーションをよくとって、良い信頼関係を築いていくことが大事ではないか」
「そうしておくと、お子さんも自然に、本当に困ったときにでも相談ができるでしょうし、周囲の大人もそういう関係があれば、お子さんの不調に気付くのではないか」
なぜうつ症状が悪化すると、相談する気持ちが弱まるのか?そのメカニズムは、今回の研究ではわからず、今後、生理学的な研究も行うということですが、宮下医師は「抑うつ状態になれば、気力が失われて、一日中気分が落ち込み、楽しいこと、興味・関心があることもできなくなる。そういった中で、相談だけは可能…とは考えられず、相談する気持ちも落ちるのではないかと推測できる」と話しています。
宮下光弘医師
「そもそも普段から人に相談すること自体、かなり難しいですよね。なおかつ、相当困っている状況、抑うつ状態にあり、かつこどもであることを考えると非常に難しい」
「本当に困ると、人は分厚い殻にこもってしまう。困り弱ったこどもの側に相談という行動を起こすよう指導する形になっていますが、こどもに任せる、こどもからの相談を待つのではなく、大人がこどもの変化に気付けるように意識を変えることが必要ではないか」
■“親、先生、保健室の先生、カウンセラー” 誰かには相談できるような…
さらに宮下医師は「大人とは親だけではなく、学校の先生だけでもないです。保健室の先生やカウンセラーやいろいろな大人が関わって、お子さんが誰かには相談できるような、大人の誰かが不調に気づいてあげられるような、そういう関係を持っておくことが大事です」と話します。
宮下光弘医師
「仮に親との関係が悪くても、先生と関係が良ければ自然に先生に相談に行くでしょうし、その逆のパターンもある。昔は、近所の人に話を聞いてもらえたが、今はそれもなくなっています。でもみんながお子さんを気にかけてあげることがとても大事。孤立させないことですよね」