タクシー車内で「老害が!まじで」──後を絶たない“カスハラ” 東京都が初の条例、難しい線引きは?【#みんなのギモン】
そこで今回の#みんなのギモンでは、「“カスハラ条例” 東京の方針は?」をテーマに、次の2つのポイントを中心に解説します。
●“初”の都条例 どこからカスハラ?
●役所も学校も…カスハラの対象に?
「行き過ぎた客の行為であるカスタマーハラスメント(カスハラ)。東京都が防止条例を全国で初めて制定しようとしています。その具体案の方針が示されました。もう条例で止めなきゃいけない時代なんですね」
「背景には、悪質なカスハラが後を絶たない現状があります。愛知県を中心に展開する『つばめタクシーグループ』から、新たな映像が出てきました」
乗客
「止まんなよ! おまえ素人か! 老害が!まじで。学もねぇ、知識もねぇ、車を転がすしか知識ねぇんだろ? (料金が)高いって言ってんの。さんざんトロトロ走りよってさぁ。ムカつく? ケンカする? 殴る? ケンカ買おうか? 俺も殴りてぇし」
小野解説委員
「中年とみられる男性客が、タクシードライバーに暴言をはく様子です。ドライブレコーダーの映像です。被害は、女性ドライバーにも及んでいます」
乗客
「あんたどこ行こうとしてんの?」
運転手
「すみません、私が聞き間違えました」
乗客
「バカヤロー! おらぁ! 何だその目つきは? なんかある文句?」
運転手
「いや、ないです」
乗客
「言ってみろ! 文句ある目つきだがや! おまえふてぶてしいわ」
小野解説委員
「女性ドライバーは最後、泣いてしまったんです」
鈴江奈々アナウンサー
「必要以上に責め立てられたら、誰でも悲しくなりますよね」
森圭介アナウンサー
「客の自分が立場が上だというふうに思っているんでしょうけどね。今聞いているだけで胸が苦しくなるような言葉ですよね」
小野解説委員
「こういうことがこれまでも繰り返されてきましたからね。つばめタクシーグループは『カスハラ客に対しては乗車を断り、慰謝料の請求をする可能性もあります』としています。強い姿勢で臨むということです」
小野解説委員
「ついに自治体も、カスハラ防止に本腰を入れ始めているんです。東京都のカスハラ条例をめぐっては、制定に向けた方針が 22 日示されました。カスハラとはどんな行為を指すのでしょうか」
「今回の方針ではカスハラを『著しい迷惑行為』と定義していて、2つに分類しています。1つは『違法な行為』で、暴行や脅迫、侮辱や業務妨害など。もともと違法行為ですから絶対に許されません」
「もう1つは『不当な行為』です。これまでの法律だと違法かどうか微妙でしたが、カスハラだとされたものです。具体的には、威圧的な言動、土下座の強要、差別的・性的な言動など」
「こうした行為をカスハラとして、『何人も行ってはならない』と定める方針です。罰則はなく、努力義務になります。こうした方針をもとに条例案を作り、今年秋の都議会で成立を目指すということです」
鈴江アナウンサー
「努力義務が課されているのは私たちということですか?」
小野解説委員
「そうです。顧客・消費者の側がカスハラをしてはいけませんよ、そう努める義務がありますよ、ということなんです」
鈴江アナウンサー
「努力義務であったとしても、こうした一線が引かれることで大きな歯止めにはなるのかなと。それを期待したいなと思います」
小野解説委員
「課題は線引きの難しさです。今回の都の方針では、3000円で購入した子どもの誕生日ケーキで、チョコの上などに書いてもらう名前が間違っていた、というケースで線引きが示されています」
森アナウンサー
「これはショックだな…確かに」
鈴江アナウンサー
「お店で気付けばすぐ言えますけど、持って帰っちゃったらね…」
桐谷美玲キャスター
「家に帰ってきちゃってたら電話して『間違ってるので書き直してもらえませんか』と言いますかね」
小野解説委員
「次の4つのうち、どれがカスハラに該当するでしょうか?」
1、店員の胸ぐらをつかみ、1億円を要求した。
2、丁寧な口調で1億円を要求した。
3、店員の胸ぐらをつかみ、3000 円の返金を要求した。
4、丁寧な口調で返金や交換の希望を申し出た。
桐谷キャスター
「返金というのがどうなのかなと。交換はあるかもしれませんが、食べちゃっていた場合は返金をさらに要求していいのかどうか…」
鈴江アナウンサー
「そこ迷うところですよね」
忽滑谷こころアナウンサー
「申し出るだけだったらハラスメントにはあたらないんじゃないかなと思いますけど…」
小野解説委員
「カスハラに該当するのは1、2、3です。4が難しいんですよね」
小野解説委員
「ポイントは、『行為』と『内容』が著しく不当かどうかです」
「2は行為は丁寧だったとしても、さすがに1億円という内容はやりすぎでしょう。3は3000円の返金という内容には理由があっても、胸ぐらをつかむのはダメです。行為と内容、どちらが不当でもカスハラにあたるというんです」
桐谷キャスター
「ちょっとイラっとしてしまって、丁寧な口調じゃなくて、周りにも聞こえるくらい大きな声で言ってしまった場合はどうなるんですか?」
小野解説委員
「口調は線引きが難しいんですよ。同じ状況でも従業員が怖いと思えばカスハラに該当する可能性があります。グレーゾーンが残ることは間違いないですが、企業側がカスハラを想定したマニュアルを作っておくと、従業員としては安心ということになりますよね」
鈴江アナウンサー
「1つのシチュエーションで見ても、こんなに意見がバラバラです。対応する従業員の皆さんが迷わないように、安心して働けるように一定のルールがあるのは大事なことですね」
小野解説委員
「では、どんな場面がカスハラの対象になるのか。今回、都の方針ではお店と客だけではなく、カスハラが発生しうるさまざまな場面が挙げられています」
「例えば、役所の窓口で利用者が職員に対して。一般の市民が警察官や消防隊員に、地域の住民が学校の先生へ、国会議員や地方議員が自治体の職員へ。こうした幅広い場面でカスハラを想定しているんです」
忽滑谷アナウンサー
「議員というのもカスタマーに分類されるんですか?」
小野解説委員
「議員が立場を利用して行政の職員に不当な要求をするケースがあるかもしれない、ということなんです」
森アナウンサー
「今までで言う、パワハラですよね」
小野解説委員
「学校でも、近隣住民が『運動会がうるさい』と怒鳴り込んできて、度を過ぎればカスハラにあたるかもしれません。都としては、お店とその客だけがカスハラの対象ではなく、さまざまな場面で起こりうると知ってもらい、防止していきたいという考えがあります」
森アナウンサー
「セクハラ、パワハラ、モラハラなどさまざまな言葉がありますが、カスタマーという定義だけではなくて、第三者に理不尽な要求をするということ自体をカスハラだと考える、ということですね」
小野解説委員
「カスハラの実態を研究する東洋大学社会学部の桐生正幸教授に、都が目指す条例の効果について聞きました」
桐生教授
「20年ほど前から悪質なクレームについて各企業が苦労しながら対応してきた。(一方で)役所や学校などさまざまな場面での嫌がらせ行為も、これまであまり見えていなかったが、数多く噴き出してきた」
「そうしたものを1つにくくり、『対人関係での嫌がらせ行為はアウトだ』と明文化して周知できるのは大きな進展だ。自分の行為がカスハラだと今まで気付かなかった人が、この条例などを通して気付くのは大事」
鈴江アナウンサー
「自分は大丈夫。(カスハラは)ない』ではなくて、『これって大丈夫かな?』と一歩踏みとどまるきっかけにしたいですね」
小野解説委員
「誰もが被害者にも加害者にもなりうるのがカスハラです。これからはカスハラが明確に禁止される時代だということを意識する必要がありそうです」
(2024年5月23日午後4時半ごろ放送 news every.「#みんなのギモン」より)
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