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【特集】「魚沼のコメ農家が“絶滅危惧種”に…」平均年齢68.9歳 高齢化と中山間地域の課題 ‟コメ王国”の危機《新潟》

2024年5月31日 20:02
【特集】「魚沼のコメ農家が“絶滅危惧種”に…」平均年齢68.9歳 高齢化と中山間地域の課題 ‟コメ王国”の危機《新潟》
高齢化などの影響で中山間地域を中心として、コメ農家の減少に歯止めがかかりません。
それは、ブランド米の産地・魚沼市でも。
“コメ王国”に深刻な課題を突きつけています。

■体力の限界…コメ農家の平均年齢68.9歳

青々と染まった水田…
これが当たり前の光景ではなくなるのかもしれません。

魚沼市のコメ農家、井口勝士さん82歳です。

2024年、一部の田んぼを手放しました。
水の調整年齢とともに体力の限界を感じるようになりました。
あと何年できるのか……

〈魚沼市のコメ農家 井口 勝士さん〉
「やっぱり年齢で、操作の関係もあるし、体力もだんだん落ちていますし。草刈りは年間5回ぐらい刈る。細い道を刈りながら歩くのが一番大変ですね」
「もう2~3年すれば人に委託するより仕方ないですね。自分でできない分、荒らしていくわけにはいかないから、委託して作ってもらう」

コメのトップブランドとして長く君臨してきた魚沼産コシヒカリ。
しかし今、岐路に立たされています。

個人のコメ農家の平均年齢は全国、県内ともに68.9歳。
(出典:農林水産省「2020年農林業センサス」)

企業や公務員などの定年をはるかに上回る年齢層が私たちの主食・コメの生産を支えているのです。

■ことし辞める決断をした米寿のコメ農家

ずっと守ってきたこの味を食べられるのも残りわずか……

代々続く田んぼでコシヒカリを作り続けてきた桜井弘文さん(88)。
ことし、コメ作りを辞める決断をしました。この田んぼは、市内の別の生産者に引き受けてもらいます。娘夫婦や孫に継いでもらおうとは考えませんでした。

〈魚沼市 桜井 弘文さん〉
「年だて。うちの家内も孫からも『年だからやめて』(と言われた)」
「(トラクターなどいろいろな)機械があったが売っちゃった。業者が買っていった」

Q後継者はいてほしかったですか?

「いや……農家はそれほどだんだん良くなくなってきて。外へ出て勤めた方がいいみたいだ。農業だけじゃだめだね」

見渡す限り田んぼが広がっていた景色は徐々に変わってきました。
時代の流れを感じています。

■続出に大規模農家も限界…辞める田んぼの引き取り

魚沼市で、家族や従業員あわせて8人でコメ作りをする関隆さん(72)。

桜井さんなどコメ作りをあきらめた農家の田んぼを受け継いでいます。
以前から規模の拡大を視野に設備への投資をしてきましたが限界があります。

〈魚沼市のコメ農家 関 隆さん〉
「新たに8軒の農家から田んぼ作ってくれということで仕事がきました。そういうのはあっちこっち。毎年毎年作ってくれ作ってくれという要望が多くて」
「結局、高齢化。それから最近の米価は上がらない。肥料、農薬、燃料、みんな上がっていく。ますますもうけが出ない。もうからない。そして、一番心配しているのが、コメ作りは機械が命。それがものすごく高くなった。4~5年前より1.5倍。機械の更新ができないから、それで辞めていく農家も多くなると思います」

国の調べでは、県内で販売目的でコメを作る個人や法人の数は合わせて4万軒を下回っています。
法人化する農家は増えていると言いますが、過去10年を見ると、5年に1万軒のペースで減り続けているのです。

〈県地域農政推進課 志野 雄一郎 参事〉
「国内でも食料安全保障の声が大きくなっている中で、特にわが県はコメを中心に主食のコメを大規模に作っている県。食料の供給の基地と考えても、生産性は守っていかねばならない。そこの基盤になる農地はしっかりと守っていく必要があるだろう」

魚沼産コシヒカリのブランドを守りコメ王国としてのプライドがある……
しかし、関さんは危機感を抱いています。

〈関 隆さん〉
「魚沼産コシヒカリはありがたいことにブランド品で、うちも相当引き合いが強いです。でも、肝心の魚沼の農家がだんだん今の高齢化とか、担い手が力不足で、だんだんコメ作りから遠ざかっていく。このままじゃ絶対ダメ。何らかの手立てをしていかなければ、魚沼の農家は“絶滅危惧種”になっていくのかなと思うな」

■引き取り手のいない中山間地域の田んぼ

激減するコメ農家……背景には中山間地域特有の課題がありました。

自然に囲まれた静かな山間。

長年、田んぼと向き合い“コメの声”がよく聞こえたと話すのは佐藤正行さん87歳。

丁寧に育ててきた田んぼに生い茂っていたのは水草。
ここは2023年、コメを作るのをやめた田んぼです。

兼業農家として土木工事の仕事にも就いていた佐藤さん。
体力には自信がありました。

〈佐藤 正行さん〉
「自分も声も出なくなったし足も弱くなったし、立っているのがやっとで仕事はできないから……」

長年、守ってきた田んぼですが、後継者はいませんでした。

〈佐藤 正行さん〉
「作ってくれる人がいたら任せようかと思ったけど作ろうかなんて人はいなかった。みんな年とって作る人がいないんだ。なかなか作ってくれる人もいない」

県は中山間地域の農業の在り方について検討を重ねています。
平地との生産性に差が生まれるとして国は中山間地に対し、格差を是正するための支援をしています。
しかし、規模を拡大しやすい平地は年々生産性を向上させているため格差は広がってきているといいます。

〈専門委員〉
「地域の営農者が5年後、10年後見据えた時に、ある集落協定だと3人ぐらいしか(残らない)」

〈県農林水産部 神部淳 技監〉
「新潟県という中山間地域農業と大きくかかわる県としてはベースとなる。中山間地域等直接支払制度の予算をしっかりと確保したうえで生産性向上に資する部分は別途の対策があっても然るべき」

体力の衰えを感じ、田んぼを縮小してきた佐藤さん。
これまで、他人が作ったコメは食べたことがありません。
今後は田んぼ1枚で家族が食べる分だけを作り続けます。

〈佐藤 正行さん〉
「いま頑張っている人たちだって若い人じゃないから。年寄りばっかだから、いつできなくなるかわからない。やっぱりさみしい」

世界に誇るブランド米を守っていきたい……

一方で直面する農家の高齢化や担い手不足。

“コメ王国”に課題を突き付けています。

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