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【特集】給食を食べた児童がアナフィラキシー 現場で積み重なった「思い込み」とは アレルギーに対する緊急時の対応 《新潟・上越市》

2024年3月9日 19:34
【特集】給食を食べた児童がアナフィラキシー 現場で積み重なった「思い込み」とは アレルギーに対する緊急時の対応 《新潟・上越市》

新潟県上越市で、重度の牛乳アレルギーのある児童が給食を食べてアナフィラキシーを起こす事故が発生しました。
給食を作る現場で積み重なっていた「思い込み」とは・・・。
そして子供の緊急時にはどのような対応を取ればよいのか、取材しました。

(取材:TeNYテレビ新潟 報道記者 八木聡子)

■なぜアレルギー物質が児童の口に届いてしまったのか

2023年9月、上越市の小学校で食物アレルギーのある児童が給食でアナフィラキシーを起こし緊急搬送される事故がありました。

なぜアレルギー物質が児童の口に届いてしまったのか。取材をすると、学校現場で「思い込み」や「油断」が積み重なっていたことが分かりました。

じんましんが広がり、赤くなった脚・・・。重度のアレルギー症状である「アナフィラキシー」を発症し救急搬送された児童の様子です。

2023年9月、重度の牛乳アレルギーがある児童が給食で「冷凍クリームコーン」が使われたスープを飲んで発症しました。

■「思い込み」から事前に原材料を確認せず

上越市の小学校で起きた痛ましい事故。

【上越市 市川均 教育部長】
「この度のアレルギー事故については人命にかかわるということで大変重く受け止めております」

上越市教育委員会によると、給食を担当する栄養教諭は「冷凍クリームコーン」に牛乳が使われていないと思い込み、事前に原材料を確認しなかったということです。

これまでに別のメーカーの「冷凍クリームコーン」を使った場合は牛乳が入っていなかったため、“今回も入っていない”と思い込んだといいます。

【上越市 市川均 教育部長】
「途中でメーカーによって成分が変わることもありうるということなんです。そういうことがあるから毎回確認しなければいけない。なぜ確認しなければならないか、おおもとのところが少し抜けたのかなと」

児童は一時入院しましたが一命はとりとめました。それでも児童は給食にトラウマが残り、元の生活には戻っていないといいます。

■給食アレルギー事故はなぜ起きたのか

給食アレルギー事故はなぜ起きたのか。児童の保護者にも会い状況を聞きました。

【八木記者】
「保護者によると、児童は幼少期に重度のアレルギーであることが発覚し、牛乳を摂取しないよう、家庭では細心の注意を払いながら生活していると言います」

■「エピペンの使用まで18分」

学校側も牛乳を使わない献立で注意を重ねてきていたのに、なぜ今回、口にしてしまう事故が起きたのでしょうか。八木記者が解説します。

【八木記者】
「今回、栄養教諭が『冷凍クリームコーン』の配合成分表を取り寄せなかったこと、そして調理員も納品時の原材料の確認を怠ったことで、起きてしまいました。
市の報告書によると、児童は給食を食べて腹痛を訴え一人でトイレに行き10分間こもったといいます。
その後、教室に戻って来た児童を見て担任教諭が異変に気づきました。しかし、症状を緩和する注射薬である『エピペン』の使用をためらい、投与までにかかった時間は8分。トータルではエピペンを打つまでに18分かかったということになります」

Q)この18分という時間は早かったのか、それとも遅かったのでしょうか?

【八木記者】
「東京都調布市では2012年に小学校の給食でアナフィラキシーを起こした児童が死亡するという事故が起きています。事故の報告書によると、このとき児童が発症してから校長がエピペンを打つまでにかかった時間は14分です。
調布市の場合は18分よりも短い時間で打っていますが死亡事故になっているのです。
東京都などでは症状を確認してから5分以内に投与を判断すべきとされています。
新潟県教育委員会は『直ちに』と指導していますが時間については示していません。専門の医師によると投与までに18分かかったのは「判断が遅れた」と指摘しています」

■「ためらわずに投与することが大切」

エピペンについて専門医に聞きました。

【アレルギー専門医 田中泰樹 医師】
「間違って打ってもとんでもないことが起きるわけではない。やらずに手遅れになってしまうというのが困るということです」

アレルギー専門医の田中泰樹医師は「エピペン」をためらわずに投与することが大切だと訴えます。
エピペンは、安全キャップを外してしっかりと握り、太ももの前外側に強く押し込んで数秒待つと投与できます。

事故にあった児童は登校を再開したのですが、保護者によると事故後3か月ほどは学校に行く前に頻繁に腹痛を起こしたほか、給食がトラウマとなり家に戻って昼食をとるという生活が続いたということです。

■「食物アレルギー対策の見直しを」

児童の保護者が寄せたコメントを抜粋しました。

【保護者コメント 抜粋】
「たった一度の給食で恐怖へと変わってしまいました。
限られた時間の中で献立を作成し、安心・安全な給食を作ることは大変なことと承知しています。
栄養教諭や調理員の労働環境を整えることで一人一人に余裕が生まれ、事故防止の第一歩につながるのではないかと考えます。
何か一つ、一品でも自分がみんなと同じものを食べられるだけでアレルギーの子にとって喜びにつながります。県全体で食物アレルギー対策を見直していただきたいのです」


保護者によると、児童はもともと給食の時間が大好きで、もう1度給食を食べられるようになろうと努力し、現在は保護者が付き添い、事故があった教室以外の部屋でなら給食を食べられるようになったということです。

■学校の現場は

命に直結し、心にも大きな傷を残すアレルギー事故を防ぐためにどのような対応がとられているのか、学校現場を取材しました。

待ちに待った給食の時間・・・。新潟市にある新潟小学校の1年生の教室です。
この日の給食は、米粉めんにかしわ汁。そしてやさいたっぷりまめてんと、たくあんあえでした。

クラスには、ゴマにアレルギーのある児童が2人・・・。
そこで、たくあんあえはゴマを取り除いた「除去食」が提供されます。

■給食で提供される「除去食」

「除去食」は初めからほかの給食と分けて皿に盛られていて、どの児童に提供するのかを明記した札がついてきます。
そして、ほかの児童よりも先に配膳するなどして一般の給食と混ざらないよう何重もの管理が行われています。

全校児童476人のうち20人がアレルギーの申請をしていている新潟小学校。
この日のたくあんあえのようにアレルギーを起こす食材を除去した「除去食」のほか除去した食材の代わりに別の食材を加えるなどして作る「代替食」など多くの日でアレルギーに対応した給食を提供していると言います。

【新潟小学校 渡辺恵 栄養教諭】
「職員みんなで共通理解をして確実にその子に除去食が渡るように、例えば給食室は給食室で対応についての確認をし、教室に行ったときには教室でも確認をする」

新潟市のマニュアルに基づきアレルギー対応の給食には赤い色のついた皿を使うほか、保護者に毎月「アレルギー確認書」を渡し、どの献立が除去食や代替食となっているのか詳細に伝えていると言います。

【新潟小学校 渡辺恵 栄養教諭】
「アーモンド(がアレルギー)のお子さんであればアーモンドについて印をつけてこれは除去食にしますよというような形でお知らせをしています。校内でも6人の職員で確認をしておうちの方にこれをお返しして確認をしていただいています」

■教職員の研修

アレルギーのある児童を見守る教員もエピペンをためらわずに打てるように。

上越市では事故を受け2023年、市内30の小中学校から教職員が集まり、田中医師の指導のもと研修会が開かれました。
参加した教職員は緊急時の対応を教わったほかアレルギーがある児童を学校でどう見守るかなども学びました。

【参加した教員】
「実際にはまだ(エピペンを)使ったことないですけど、いざというときに落ち着いて児童のために使えるか不安だったので研修できてよかったと思います」

■調理の管理体制徹底と緊急時の対応

緊急時に子供を守るために。田中医師は学校現場に対し調理の管理体制を徹底することと緊急時の対応を常に練習することの両方を求めたいと話します。

【アレルギー専門医 田中泰樹 医師】
「誤食してしまったときの医学的なフォロー、カバーする対応も学んでおかなければいけない。誤食させないからエピペンの指導はいらないということにはならない。2つの方向で指導していければいい」

■「ちょっとした油断が命に直結する」

今回事故にあった児童の保護者はアレルギーのことを発信し二度と事故を繰り返してほしくないという思いで 取材を受けてくれました。

重度のアレルギー患者にとってはちょっとした油断が命に直結することを学校現場だけでなく広く世間に知ってほしいと話しています。

また、上越市には現在アレルギー当事者のためのコミュニティがないということで、アレルギーがある子供や保護者のコミュニティも広がり、情報交換や悩みを共有する場も増えてほしいと望んでいます。

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