岡慎之助 パリ五輪18演技ノーミス 3冠つかんだ美しい演技と“諦めない気持ち”
■団体決勝:絶望的点差から大逆転
団体決勝では日本は中国との一騎打ちが予想されていましたが、中国の得意とするつり輪や平行棒で点差を離され、最終種目を前に3.267差と大きく水を開けられていました。
それでも日本は最後の鉄棒、1番手の杉野正尭選手、2番手の岡慎之助選手が自分の持つ力を発揮すると、中国の2番手の選手がまさかの2度落下。これにより落下の『2.0』の減点だけでなく、技の価値点『0.9』も認められなくなり、3点以上あった点差が一気に縮まりました。
日本の最後の演技者、橋本大輝選手も難度は落としましたが美しい演技でまとめると、日本の逆転勝利。
キャプテン・萱和磨選手がしきりに「諦めるな」とチームを鼓舞していましたが、まさに諦めなかったことでつかんだ金メダルでした。
■個人総合:当初は橋本&張の一騎打ちと予想
個人総合では東京五輪金メダリストの橋本大輝選手と、2021年世界選手権の金メダリストの張博恒選手の金メダル争いが予想されていました。
しかし張選手が最初のゆかで大きなミスが出ると、橋本選手もあん馬で落下のミス。トップに立ったのは岡慎之助選手でした。
岡選手はそんな状況でも動じず、跳馬ではドリックスの着地をピタリと止め、平行棒でも15点超えの素晴らしい演技を披露。
最後の鉄棒までノーミスで演技し、2人の一騎打ちとみられていた金メダル争いに割って入り、下馬評を覆して金メダルを獲得したのです。
■鉄棒:8人中6人失敗の大波乱
種目別鉄棒では、団体や個人総合の戦いとは異なり、この種目だけにかけている選手も出場する状況。岡選手のDスコア(演技の難しさ)は決して高くなく、台湾の唐嘉鴻選手や、予選1位の張選手など壁が立ちはだかっていました。
それでもトップバッターの唐選手が『カッシーナ』で落下のミス。
2番手の岡選手は流れが悪い中での演技になりました。序盤のアドラー系をまずまずの出来で決めると、『コールマン』は少しバーから体が離れ、やや足を開いてのキャッチとなりました。それでも最後まで演技を通しきり、着地も止めた岡選手。14.533で演技を終えました。
その後に登場したコロンビアのアンヘル・バラハス選手が難度の高い演技をまとめると得点は14.533。タイブレークルールでEスコアの高い岡選手が上に立ちました。
その後演技を行った5選手は全員が落下か着地で転倒する波乱の展開。岡選手は予定Dスコアが最も低かったですが、金メダルを獲得しました。
選手たちはよく「自分の演技をするだけ」と口にします。それは目の前の器具と向き合い、自分と向き合うことが体操の本質で、順位は後からついてくることを分かっているからなのかもしれません。
“オリンピックは何が起こるか分からない”、最初から岡選手の3冠を予想できていた人はそう多くないかもしれません。背伸びすることなく、いつも通りの自分の演技を予選から種目別決勝まで行い、18の演技をノーミスでやってのけた岡慎之助選手が、諦めないことの大切さや、自分の演技をやりきることでつかめる栄光を体現してくれました。