過酷な北京五輪取材 氷点下20℃以下の寒さに加え、標高1600mで袋がパンパン
連日、日本のみならず世界の選手たちの活躍ぶりが、各国のメディアを通じて報じられる中、時折話題になるのが北京五輪の“過酷すぎる現地の環境”です。
「きょうは暖かいですね」と話すのは、日本テレビの北京五輪現地取材チームです。そんな会話をした時の気温は氷点下14℃。寒さに慣れてきたのか、感覚が鈍ってきているのか、“極寒の地”での取材は過酷な状況です。
今回、大会が行われている「北京」は、史上初めて夏季と冬季の五輪を開催する唯一無二の都市。競技が行われる会場は、3つのゾーンに分かれていて、中でもとりわけ寒さが厳しいのが“張家口(ちょうかこう)ゾーン”です。
北京の市内から北西約180kmに位置し、ジャンプやノルディック複合などが行われる会場が4つあります。いわゆる“山エリア”は当然標高が高く、メディアセンターやコンビニエンスストアには、破裂しそうなほどパンパンに膨れ上がった袋菓子やパンが並んでいます。
張家口では、日が差していても気温は氷点下10℃を下回り、日没後には氷点下20℃を下回ることも珍しくありません。
取材ディレクターは極寒の中での取材に備え、インナー2枚、フリース(もしくはニット)、電気ベスト、そして氷点下15℃まで耐えられるとされているダウンジャケットを重ね、上半身だけで計5枚。下半身はタイツの上にズボンを2着、おなかや腰にはカイロを忍ばせます。靴下は2枚重ね履きで、カイロも必須アイテムです。
しかし、手袋にカイロを貼っても、たった2~3分手袋を外しただけで手がしびれて感覚がなくなってしまいます。電気ベストや電気パンツを身に着けていても、「電源が入っているのか?」と疑ってしまうほど効果を感じません。
マスクをつけて話をしていると珍現象もおきます。吐く息の温かさと外気温の寒さの差によって結露が発生してびしょびしょになり、“マスクにつらら”ができるのです。そんな状況下で取材するディレクターのまつ毛も凍り、海外通信社はその様子を激写。「まつげには凍った雪」というタイトルをつけ、全世界にその写真は配信され、スイスの新聞では表紙を飾りました。
“極寒の地”ならではのトラブルもあります。取材中、油性ペンのインクが凍って書けなくなることや、水分補給用にペットボトルを持参しても飲み物はシャーベット状になり、「寒さ」に追い打ちをかけます。スマートフォンやタブレットはフル充電の状態でも、極寒の外に持ち出すと突然電源が落ちたり、充電の減りが早くなるため、カイロを貼ってしのぎます。
これまで、数々の雪山取材や平昌五輪の取材をしてきたディレクターも「経験したことのない寒さ」だと厳しさを口にします。寒さには慣れているはずの選手たちも、口々に「寒すぎる」と話します。
■“酸素が薄い”極寒の競技会場■
こうした過酷な環境の中、ベストを尽くそうと競技に臨むのが、世界のトップアスリートたち。戦うのは他国の選手や、気温だけではありません。
スキージャンプやクロスカントリーなどが行われている張家口の会場付近の標高は約1600m。標高0mでの空気の量を100%とすると、酸素の割合は20.9%となります。これが標高1600mになると、空気中に含まれる酸素の割合は17.2%まで減少。このように高地では酸素が薄いため、呼吸の回数や心拍数が上がりやすく、より体力を消耗してしまいます。
長野五輪が行われた白馬村や平昌五輪が行われた会場の標高は、およそ800m。今大会の会場が、いかに厳しい環境に置かれているかが分かります。ノルディック複合個人ノーマルヒルに出場した渡部暁斗選手も競技後、“エネルギー切れ”を起こしたことを明かしていました。
普段、高地での競技や練習に慣れている選手たちですが、北京の各会場は標高に寒さも加わり、「きつすぎる」と話す選手もいて、今大会の“自然との戦い”はまさに過酷なのです。
■顔にテープ“凍傷予防”■
クロスカントリーとライフル射撃を組み合わせて行うバイアスロンでは、顔にテープのようなものを貼って競技に臨む選手の姿が見られます。
日本バイアスロン連盟の出口弘之会長によると、これは凍傷を予防するためのテープだといいます。長時間、顔を出して行う競技では、鼻や頬などの出っ張った部分が外気にさらされ、寒さや風で凍傷になる恐れがあるため、それを防いでいると説明します。
寒さと標高の高さなど過酷な環境下にある張家口の競技会場では、スキージャンプ男子ラージヒルの予選が11日から始まりました。そして、14日に行われる男子団体で日本は、2014年ソチ五輪以来のメダル獲得を目指します。
ノーマルヒル金メダルの小林陵侑選手率いる“令和の日の丸飛行隊”が、北京の寒さをものともしない熱い戦いを見せるのか注目です。