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恩師・清宮氏が語る五郎丸のラグビー人生

2021年6月25日 15:11
恩師・清宮氏が語る五郎丸のラグビー人生

今季のトップリーグ限りで現役引退を表明し、14日引退会見を行ったラグビー元日本代表の五郎丸歩さん(35)。その五郎丸さんについて、早稲田大学・ヤマハ発動機で指導した恩師・清宮克幸さん(53)がインタビューに答えました。

◆清宮さん五郎丸さんとの出会い 早稲田大学へのスカウト

清宮さんが初めて五郎丸さんを見たのは、高校2年生から3年生になる春の九州大会。佐賀工業高校のフルバックとして試合に出場しているところを、早稲田大学の監督として訪問した際のことだったといいます。

その時の印象を清宮さんは、「姿勢がよくて背が高くて、背筋がピンと伸びていて眼光が鋭かった」と語ります。

一方でプレーの印象については、「ほとんどないですよね。あまり佐賀工業ってチームはキックを蹴らなかったので。ボールを持って走らないし、キックは蹴らない。背が高くて姿勢のいい選手…以上!みたいな感じですね」と意外な答えが返ってきました。

それでも清宮さんは五郎丸さんの将来性に期待し、早稲田大学にスカウトします。「部長推薦という推薦制度があって、その推薦枠の中で早稲田大学に入りたいって子や、その子が早稲田に来たらすごい将来が明るいなみたいな子たちをセレクトして集めていくんです。その中で、彼のような大きなバックスの選手というのは常に欲しかった選手。理想像の1人だった」と語ります。

2004年、五郎丸さんは早稲田大学に入学。すると入学早々、清宮さんの感じた、高校時代の印象を大きく覆したといいます。

「こんなにいい選手だったのかと気づきましたね。とにかく高校時代は蹴ってなかったキックがすごく飛ぶ。体は細いんですけど、やっぱり全体の筋力がある選手なので、フォワードの選手の中に入っても強さが目立つ。当時の早稲田にはいなかった選手だったので、これはもう1年目からすぐに使いものになるなと思いました」

五郎丸さんは1年生からレギュラーに定着。清宮さんは、大学2年生まで五郎丸さんを指導しました。

その中で清宮さんは「五郎丸の個性をいかに生かすか」ということをチーム作りの根底に置いていました。

「彼以外の人間はしっかり形を作るんだけど、やっぱり何人かの選手は自由に動いてもらう、特徴を生かしてもらうっていうのが僕のやり方なので。彼にしかできないことがたくさんあるので、(五郎丸さんは)そういう自由に動いてもいい選手の1人でしたね」

五郎丸さんは、早稲田大学在学中の4年間で3度の大学日本一を達成します。

◆ヤマハでの再会…日本代表へ

そして2008年、ヤマハ発動機に入団した五郎丸さん。

一方、清宮さんは2011年にヤマハ発動機の監督に就任し、五郎丸さんと再会します。当時の五郎丸さんは清宮さんによると、「ラグビーで良い結果が出ずにチームにも良い影響を与えていない影の時代」だったといいます。

「自分のプレーにすごく固執する時と、フォアザチームに徹する時ですごくメンタル状態が左右するんですよね。どっちに振れるかによってチームが彼の影響を受けてしまうという時がたくさんあったので、そういう雰囲気を作っていく上で彼にいろいろな話をしたことがありますね。『お前の言動でチームの色が変わるんだ』とか『空気が変わるんだ』とか。そういう感じです」

そんな五郎丸さんが大きく成長したきっかけの一つが、日本代表への選出でした。

「いろんなことを吸収して帰ってくるんですよね。新しいコーチとの出会いもあるでしょうし、新しい選手との絡みで学んでくることもあるだろうし。日本代表の合宿とかに彼が行って試合に使ってもらって。試合勝ったり負けたりしますけど、また次の合宿で、また試合にレギュラーで選ばれてっていうその過程が彼はすごく楽しそうでしたね。2013年~15年という3年間は本当に充実した3年だったと思いますよ」

◆W杯での活躍…海外挑戦

2015年のW杯では優勝候補の南アフリカを破る大金星あげ、「五郎丸ポーズ」で一躍時の人となった五郎丸さん。清宮さんが高校時代から見てきた中で、一番印象に残るプレーもW杯でキックする姿でした。

「彼の自分の強み。それはもう高校生、大学1年からずっと人より秀でた技術を持っていて、それをあの大舞台でゴールポストを眺めてボールにアプローチする。ああいう姿。もうこれ以上ないじゃないですか。自分の生きてきた証しみたいなものがそこにあると僕は思います」

W杯後海外挑戦する五郎丸さんに対し「ワールドカップで3勝するチームのレギュラーのフルバックなんだから、お前は世界で通用するよ」と後押しの言葉をかけたといいます。

その後、五郎丸さんは南半球最高峰リーグ、スーパーラグビーのレッズ(オーストラリア)に入団。2016年にはフランスの強豪トゥーロンに移籍するなど、海外でもプレーしました。

◆現役引退…今後への期待

去年12月、2020―21シーズンのトップリーグを最後に現役引退を発表した五郎丸さん。

清宮さんは「自分にしかできない道を行け」とアドバイスしたことを明かし、「誰もが通れるようなそういう道じゃなくて。例えば指導者になるか経営者になるかといった時に経営者になれるラグビーの選手ってそうはなかなかいないので、指導者と経営者の道と天秤にかけるとオリジナリティー高いのは経営者の道ですよね。(五郎丸)らしい選択をしたというふうに思います」と五郎丸さんの選択について語りました。

インタビューの最後に清宮さんは、「引退後の進路、五郎丸らしく、五郎丸しかできない、そういう道を選んで活躍してくれると思います。いつまでも応援してます。頑張って」と新たな道を歩みだす五郎丸さんに向けてエールを送りました。

写真:日刊スポーツ/アフロ
※写真は2015年11月14日トップリーグ