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「学校の部活動」から「まちの部活動」へ!ある体育教師の学校の垣根を超えた一大プロジェクト

2025年3月10日 17:00
「学校の部活動」から「まちの部活動」へ!ある体育教師の学校の垣根を超えた一大プロジェクト

学校部活動の在り方や教員の働き方など様々な課題が浮き彫りになる中、スポーツの現場が、今岐路に立たされています。全ての世代が生涯にわたってスポーツを楽しむための新たなカタチ。小さな町で始まった、あるプロジェクトを取材しました。

今、自身が指導する陸上部で学校の垣根を超えた一大プロジェクトに挑んでいる。

体育教師:
「引退のない競技環境ができるとか、インクルーシブなサステナブルな駅伝のまちづくり」

EKIDENのまち“うわ”プロジェクト。学校での部活動の在り方や教員の働き方など様々な課題が浮き彫りになる中、子どもたちにどうスポーツに接してもらうか。

体育教師:
「地域性や競技特性に合わせた形での部活動の在り方を作っていくのが一番理想」

「学校の部活動」から「まちの部活動」へ。地元を愛する教師の地域を巻き込んだ一大プロジェクトに迫る。

宇和高校陸上部で18人の長距離部員を指導する和家哲也先生、53歳。2年前、ある夢を持って母校である宇和高校に赴任しました。

和家哲也先生:
「母校で都大路出場」

以前勤めていた宇和島東高校でマラソン日本記録保持者の鈴木健吾選手を指導したほか、高校陸上界の最高峰ともいえる全国高校駅伝、通称・都大路に2度の出場を果たしました。

しかし…

和家先生:
「当時900人くらいいた生徒が(宇和高校に)赴任した時には200人のスタートで陸上部員も6人しかいない、3年生入れて6人。専門とする長距離部員はゼロ。これどうするかなと」

生涯スポーツとして走ることができる環境整備を

和家先生が目をつけたのは、「駅伝」が盛んな宇和町の環境。高校生に限らず、小学生や中学生、社会人のチームが地元の運動公園で練習を重ね、大会出場を目指していました。

和家哲也先生:
「それぞれのカテゴリーの土壌はあるから、これを一つにする」

様々な世代が一緒に練習することで、子どもたちが生涯スポーツとして走ることができる環境を整え、その結果として競技力の向上につなげようというプロジェクトです。

和家哲也先生:
「中核を担っていく、ここはやっぱり高校。子どもたちの2倍、3倍の熱量をもってやるしかないかなと」

その裏にあったのは、全国的に進められている公立中学校の部活動地域移行。年々、生徒数が減少している宇和町でも避けては通れない課題です。

西予市教育委員会学校教育課 清水太一指導係長:
「クラブをいくつ用意できるか、指導者の確保であるとか、平日の活動はどうするのかというところでかなり解決しないといけない課題が多くある」

西予市はこれまで部活動の地域移行に向け、推進協議会を立ち上げて計画を策定。今年度は国の補助金を活用しながらモデルとなる部活動を指定して、課題などを抽出してきました。そうした中で立ち上がった、和家先生のプロジェクト。

清水太一指導係長:
「小・中・高と長年にわたって専門的な指導を受けられるというところ、お互いに講師は違うが交流ができるというところで地域の活性化という点でも非常にいい取り組み」

寮生活を支える身近なチカラ

プロジェクトの立ち上げから2年。町にも少しずつ、和家先生の熱意が浸透してきました。練習終わりに向かったのは部員たちの寮です。

和家先生:
「これ、ボックス。ここに色々な差し入れをいただいて、こういった感じで書いてもらって」

地域の人がプロジェクトの中核を担う高校生を応援しようと、日々差し入れを届けてくれるといいます。

和家先生:
「出荷できなかった野菜とか道の駅に出して17時になったら回収する捨てるものを入れてもらったり、出荷前のきれいなやつもこの近所の人とか贈ってもらったり、コメも月90キロ~100キロくらい(贈ってもらう)今この高いのに」

取材中にも…

和家先生:
「はーい!」
Q.お米ですか?
河野さん:
「お米を持ってきました。はいどうぞ食べてください!」
和家さん:
「月にだいたい3回くらい」

宇和高校陸上部のOBで、コメ農家の河野昌博さん。この日は、30キロのコメを差し入れとして持ってきました。

河野昌博さん:
「僕も農家として何か生徒のためにできることあるかなと。できることは小さいがコメくらいだったら何とか集めてみようと思って地域の農家に声をかけて」

調理を担当するのは和家先生の妻・景子さんです。

景子さん:
「やっぱり家で食べられないので母親目線で作ってます。好きなものばかり作っています」

部員たちを支える、身近な力…

長距離部員:
Q地域の人のサポートはどう?
「いつも応援してくださってそれが力になって大会とかでも頑張ろうと思う」

長距離部員:
Q地域の人のサポートはどう?
「食べ物とかは目に見えて分かりますし、大会とかに出た時も応援してくれる人が宇和高多いなと感じる」

地域の子どもは地域で育てる。この当たり前にも思える発想がプロジェクトの原点です。

小学生から社会人が参加 走ることで地域をひとつに

厳しい寒さに見舞われた、先月19日。EKIDENのまち“うわ”プロジェクト最大の特徴。毎週水曜に行われる合同練習です。宇和の運動公園には様々な世代のランナーが集まってきました。

こちらは小学生と中学生の指導を行う清家勲さんです。

清家勲さん:
「(小学生の場合は)強くするというよりも運動を好きになってもらうというので練習の所どころで遊びを入れる」

なわとびや玉入れなどの要素を取り入れながら、スポーツの楽しさを伝えます。

清家勲さん:
「地域を元気にするという目標を持って、先進的な取り組みをまず西予(宇和町)からという考えがあって和家先生が私たちにも声をかけてくれた」

保護者:
「自分たちで練習というのは難しいので、地域に指導力のある先生がいっぱいいるというのは 西予市とてもいい環境だなと思う」

保護者:
「本人もとても楽しんでいるのですごくやりがいがあっていいと思う」

6時をすぎると、仕事を終えた社会人ランナーも集まり始めます。

社会人ランナー:
「(西予市)体協だけでしていた時は揃わなかった、揃っても4.5人。少なくて2人とかだったが和家先生来られてこのプロジェクトをするようになって結構集まりが良くなってきた」

最終的に、この日の練習には中学生から社会人までのおよそ40人が参加しました。毎週水曜日のこの時間に幅広い世代が、気軽に集まることができる環境です。

練習を引っ張る社会人ランナー。中高生はそれに食らいつきます。

和家先生:
「幸いにもこの運動公園は無料で使わせていただいているし、指導者的な役割の方というのはいわゆるプレイングコーチ。報酬なんかはいらない、むしろ一緒にやりたいんだというスタンスでやっていただいているので」

ひとりの体育教師が立ち上げた、小さな町の、大きなプロジェクト。

和家先生:
「少なくとも今うちがやっているやり方というのは地域があるからこそできる取り組みなので、走るということを通して繋がっていくまちになったら一番いいかなと思っている」

和家先生のプロジェクトは、愛媛のスポーツの未来を救うヒントになるかもしれません。

最終更新日:2025年3月10日 17:00