「お天気=女性」「スポーツ実況=男性」アナウンサーの男女ステレオタイプをどう乗り越える?“お天気おにいさん”直川アナにきいた
■「個性を出していいものだと勘違いしていた」アナウンサー試験
白川プロデューサー
「アナウンサーを目指した時は今みたいな自分が想像できていましたか?」
直川アナ
「最初日テレを受けた時は、まだアナウンサーが個性を出していいものだと勘違いしていたんですよ。タレントの試験を受けに行くのと勘違いして、あの時はまさに今みたいになりたいと思っていました。だけどアナウンサーの仕事って全然違うじゃないですか」
白川プロデューサー
「一部にスーパー個性的な人がこうやって生まれるし、僕はすっごく応援しているんですけど、まずは職人として、個性がプラスにならないこともある仕事ですよね」
直川アナ
「むしろプラスになることのほうが少ないと私は思っていて、アブノーマルであることがアナウンス試験で頭一つ出るのかなと思っていたんですが、それは職業柄、全然違うんだと気づきました」
白川プロデューサー
「それで就職活動の途中で戦略を変えたんですか?」
直川アナ
「変えましたよ。髪の毛が長かった証明写真から短髪でスポーティーな写真に変えましたし、(エントリーシートの)内容も変えました。今でも家に残っているんですけど、日テレのエントリーシートでは『個性を尊重する放送をしたい』と書いていたんです。だけどそれはやめて、『情報番組で日本の伝統文化を伝えたい』と書きました。それもやりたいことではあったんですけど、2つ目にやりたいことをメインで書くことにしました」
■アナウンサーを志すきっかけとなったマツコ・デラックスの一言
白川プロデューサー
「少し戦略を変えて福島中央テレビのアナウンサーになるわけですが、伝える仕事にどうしても就きたい気持ちがあったから、チャレンジし続けたわけですよね」
直川アナ
「私はマツコ・デラックスさんの一言でアナウンサーになりたいと志したんですけど、多くの皆さんが考える“男性像”から少し逸脱した私を見て、福島県民の誰か一人でもちょっと生きやすさや自己肯定感を上げてもらえるきっかけとして、1人にでも届いていたらいいなと思っているので」
白川プロデューサー
「マツコ・デラックスさんのどういう言葉を聞いたんですか?」
直川アナ
「深夜のバラエティー番組で、マツコさんがニートの方50人に向けて話していました。『なんで働くのか?』という問いかけに対して、マツコさんは『誰かのためになるために仕事をする』とおっしゃったんですよ」
「その言葉から、自分にしかできない“誰かのためになること”を会社員でしたかったんです。リスナーの皆さんも、多くの人が何かの組織だったり、フリーランスでもチームに入ったりして、組織で動くことが多いと思うんですね。そういう組織の中で個性を受け入れられているということを体現したかったんですよね」
■「来世は女性アナウンサーになりたい。男性アナウンサーです。」
白川プロデューサー
「少しずつ自分らしさを出していく過程で『来世は女性アナウンサーになりたい。男性アナウンサーです。』というフレーズが生まれるわけですけれども」
直川アナ
「はい。Xのヘッダーに書いています」
白川プロデューサー
「この言葉はすごいパンチラインだと思いますけど、どういう思いが込められているんですか?」
直川アナ
「アナウンサーになってみると、すごく男性/女性で仕事の役割が違う局面があるんですよ。ナレーションで男声希望、女声希望とか。ロケでもあるんです」
白川プロデューサー
「確かに、アナウンス部に電話して、特にレギュラーじゃない方で何かお仕事をお願いするときに、最初にデスクと話すのは男性ですか?女性ですか?でした」
直川アナ
「それをフラットにしたくて、“やじって”書いたんです」
白川プロデューサー
「直川さんは今『ゴジてれChu!』のお天気を担当されています。お天気担当というのは、女性アナウンサーがやることが多かったわけじゃないですか」
直川アナ
「福島県内でも、男性アナウンサーで天気のキャスターをしているのは私だけなんですよね。気象予報士さんが男性なことはありますけど、気象予報士の資格を持っていない、天気を伝えるキャスターになる人は、私、男性が今思い浮かばないです」
白川プロデューサー
「他に、男女で分かれているアナウンサーの仕事って、どんなものがあるんですか?」
直川アナ
「スポーツ実況。それこそ、日本テレビの郡司さん、あと福島中央テレビでいうと、昔は大野智子アナウンサー、今だと今野花織アナウンサーはスポーツ実況にこれから携わっていこうとしているので、ちょっとずつグラデーションが変わってくる時期なのかなと思っています」
「僕はLGBTQでいうとGのゲイ、男性同性愛者であるということを5年前に公表して仕事をしているんですけれども、直川さんはご自身の性自認や性的指向についてきかれたらどのように答えているんですか」
直川アナ
「私は『答えない』というふうに答えているんですね。白川さんも含めていろんな方が答えてらっしゃるのもいいと思うんですよ。すごく素敵なことだし、周りの人の理解も深まると思うんです。その一方で、組織とか社会の中でそれを答えない、つまりカミングアウトしない人をたたえたかったから、私は答えていないんです」
白川プロデューサー
「僕の場合は男性のパートナーと今暮らしているので、その中で具体的な困りごとを解決するとか、それぞれの両親にどう説明するかというときに、ゲイというアイデンティティーが一番しっくりくるのと説明が早いので、そうしているんです。でも、どういうアイデンティティーだったとしても、それを開示する必要というのは必ずしもないというのは僕も同じ意見です」
直川アナ
「この間ロケに行った先で若い方に聞かれたんですよ。『どっちなんですか?』って」
白川プロデューサー
「何と何の“どっち”なんでしょう…」
直川アナ
「キャラクターもあって、ききやすい存在だと思うんですよ。でも、どれだけ近い存在であっても入り込んじゃいけない領域ってあると思うんです。そんな質問を初対面の私に言う人がいるんだってびっくりしました」
白川プロデューサー
「マイノリティー性がありそうで、なおかつそれをポジティブに表現している人を見ると、『きいていいんでしょ』みたいな感じになりそうですが、『そうじゃないぞ』というメッセージとして答えていないんですね」
■福島県でも“やっと”パートナーシップ制度導入──ふくしまレインボーマーチで「次のステップ」へ
白川プロデューサー
「福島県でも9月からパートナーシップ制度が導入されましたね。直川さんも性的マイノリティー当事者の方を取材したことがあるんですよね」
直川アナ
「4年くらい前ですかね。パートナーシップ制度が福島県にはなく、自治体単位でもなかったんですね。『なので私はパートナーと一緒に隣県に引っ越しを考えています』という方がいらっしゃって、今回制度ができてよかったなと思った半面、『やっとかよ』ともちょっと思ってしまいました」
白川プロデューサー
「ちょうどこの回が配信される週の土曜日、10月5日がふくしまレインボーマーチが開催される週末ということで」
直川アナ
「東京で言うと『東京レインボープライド』の福島バージョンです。セクシャルマイノリティーの運動が東京から大きな都市に、そして地方へと裾野を広げているのを実感しています」
白川プロデューサー
「大都市にだけあるのではなくて、その人たちが普段暮らしている空間にパレードとかイベントがあることってすごく大事です。東京では楽しく弾けていたけど地元に戻ってきたら周りの誰も理解がなくて『LGBTQ?何それ』という状態だと、結局その方の人生ってなかなかうまく前に進まないと思います」
直川アナ
「東京レインボープライドは(警察への届け出上は)デモのはずなのに、見た人も笑顔になったり、レインボーフラッグを振ってくれたりと、みんなで認め合っている雰囲気があって。次は地方にもこういう風潮がきたらいいなと。それが次のステップなのかなと思います」
白川プロデューサー
「実は歩く人たちだけじゃなくて、沿道で応援する人たちが結構大事です。なので、もしふくしまレインボーマーチで『歩くのはまだ勇気が出ない』とか『もしかしたら途中で帰らなきゃいけないかも』という人は、沿道で手を振るだけでも歩いている側にはとってもパワーになるので、そういう参加の仕方もいいかもしれませんね」
日テレ報道局ジェンダー班のメンバーが、ジェンダーに関するニュースを起点に記者やゲストとあれこれ話すPodcastプログラム。MCは、報道一筋35年以上、子育てや健康を専門とする庭野めぐみ解説委員と、カルチャーニュースやnews zeroを担当し、ゲイを公表して働く白川大介プロデューサー。
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