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政権交代2年 今年の経済財政運営課題は?

2015年1月4日 17:54

 2014年、安倍政権はデフレ脱却・経済の好循環実現を優先し、2015年10月に予定されていた消費税率10%への引き上げを1年半延期した。さらに、企業の国際競争力を高めるための法人税先行減税も決めた。しかし、2014年の大きな焦点になった、この2つの財政政策はいずれも足元の景気対策や企業を取り巻く経済環境整備の一つのツールに過ぎない。政権交代から2年、円高是正やそれに伴う輸出関連企業を中心とした収益の改善と株価の上昇、こうした経済指標の改善は、日銀による金融緩和策によるところが大きい。

 一方、安倍政権の2015年以降の経済財政運営の最も重要なテーマは、長期的な視点でどう需要を喚起し、需要けん引型のデフレ脱却と息の長い経済の好循環の実現を果たすかということに尽きる。その後、政府の財政政策の手を離れ、「神の見えざる手」が再び働き、息の長い経済の好循環が起きることを目指さなければならない。好循環実現のため当面の財政運営上の課題は何か?政府は政労使会議などを通じて企業の賃金上昇と可処分所得の拡大、それに伴う需要増を狙う。

 一方で少子高齢化は、マーケットの縮小を招くほか、財政運営に将来的な社会保障関係費の公的支出見直しを突きつけている。政府は去年12月、経済財政諮問会議で2015年度予算編成の基本方針をまとめた。この中では、社会保障関係費の自然増についても聖域なく見直す方針を掲げている。日本の国債発行残高は約780兆円に達し、一般会計税収の16年分に相当する水準となっている。こうした財政事情の中で将来的な日本の社会保障について充実を予見することは難しく、国民一人ひとりのマインドは自分の老後について「自分で責任を持つ」、つまり貯蓄や年金などといった個人資産の拡充傾向を一層強める可能性がある。

 こうしたことを踏まえると、需要創出が先に来ない政府主導の賃金上昇促進策にはおのずと限界がある。また、2014年11月に消費税率10%への引き上げを先送りすると、海外の格付け会社が日本国債の格付けを1段階下げる動きも見られた。日本の国債の信認が低下すれば一気に国債価格が下がる可能性もあり、政府は国債の信認維持のためにも財政健全化政策に力を入れる必要がある。

 安倍首相は2015年夏までに「2020年度までにプライマリーバランスを黒字化する」という財政健全化の目標を新たに示す方針だ。日本の国債は、これまで金融機関を通じて国民の豊富な金融資産が支えてきた。また、国債の大半を国内の銀行など、金融機関が保有している。このことが、巨額の負債にもかかわらず日本国債の信認を支えている。

 日本国民に豊富な金融資産=富をもたらしたのは、自動車や電気に代表される製造業などで、大幅な貿易黒字を生み出してきた。しかし、現在は貿易収支の赤字が続いている。一方、現在の日本の国際収支の黒字を支えているのは第一次所得収支だ。円高の頃に日本企業が海外への積極投資で子会社化した企業からの収益などが日本の国際収支黒字をもたらす構造に変化している。また、国内株高の傾向もあり、国民金融資産は2014年9月時点で約1653兆円と過去最高を更新している。

 日本の収益構造を見ると、現在の円安傾向は輸出関連産業の競争力にはプラスだが、原材料の輸入にはマイナスで一長一短がある。これまで原油高などもあって国内の企業経営にマイナスの影響をもたらしてきたエネルギー価格の上昇は、原油価格の急速な低下で解消する方向にある。こうした日本の交易環境を見たとき、今後の国際収支動向は海外経済の動きに負うところが大きい。仮に国際収支が赤字に転落するようなことがあれば、国内の余剰資金の減少により、日本国債も海外保有比率が高まる可能性があり、注意深く見ていく必要がある。政府は緩やかなインフレによるデフレ脱却を目指しているが、景気が上ぶれたとき、政府が負う国債利払い費も膨らみ、場合によっては成長による税収増を利払い費の負担増が上回る可能性もあり、注意が必要だ。また、金融緩和の結果、日銀による国債買い取り額は既に230兆円に達している。

 デフレ脱却と財政再建を同時に可能にする力強い需要の創出による経済の好循環を同時に実現することは可能なのか。カギを握る政策の一つは、2014年に大きく注目されるようになった人口減少対策と地方創生だ。地方創生も結局、他地域からの転入にとどまらない日本全体としての底上げが迫られる。ここでもやはり地域のマーケットの自体の拡大「需要」創出が大事になる。需要のないところに仕事は生まれず、仕事のないところに人は集まらない。人口が増加傾向にある国では、人々の購買意欲が物の供給を上回りインフレが生まれる。「人口ボーナス」と呼ばれる需要拡大効果が自然発生する。日本の財政運営は今後、欧米諸国の先例のように「移民」を含めた人口動態問題や、消費税率10%引き上げ後のさらなる社会保障改革といった難しい議論にも正面から取り組んでいくことが何より重要だ。