「日本の農業がなくなっちゃう」……目指すは年収1000万円? 未経験の若者集団、埼玉発のスマートな“農業改革”

小島さんが3月に訪ねたのは、埼玉・加須市にある田んぼ。種まき作業をしていたトラクターをよく見てみると、作業している人はハンドルから手を離しています。自動運転ができる農業機具を使っていました。
こうした最新技術を使ったスマート農業で、効率的に広い農地を管理している中森農産。背景には、日本の農業への危機感がありました。
今の農家の平均所得は114.2万円(兼業農家も含む)。働く人の平均年齢は70歳に迫る69.2歳で、毎年東京ドーム約5300個分(約2.5万ha)の農地が減っているといいます。この状況を変えようと、中森農産の皆さんが目指していることがあります。
中森農産の従業員
「年収1000万円を目指していくぞと」
どう成し遂げていこうとしているのでしょうか。
朝のミーティングで気づいたことがあった小島さん。「お若いなと思いますね」。従業員の皆さんに年齢を聞いてみると、「25歳になりました。先週ですね」「僕も先週34歳になりました」と教えてくれました。
社長の中森剛志さんも36歳です。
小島さん
「(従業員と)仲いいですね」
中森社長
「仲良くやらせてもらっているつもりです」
前の職業もバラバラです。「IT企業で働いていた」「元はホテルに勤めていた」。この会社の平均年齢は30歳で、多くが農業未経験者です。みんなでアイデアを出し合いながら農業を変えています。
一例が米作り。一般的には水田に苗を植えて行いますが、中森農産では、一部の田んぼに最新鋭の機具を導入し、作業を1か月ほど短縮する方法で種まきができるようにしています。
さらに、その田んぼはAIアプリで管理しています。田畑は1500か所ほどあります。パソコンで確認すると、画面上に全体が映りきらないほど。小島さんも「めっちゃ広いですね。めっちゃたくさんある」と驚きます。この区画を12人ほどで管理しています。
高齢化や後継者不足で年々増え続ける、使われなくなった農地。中森農産は、こうした土地を地主から直接借りることで農地を拡大しています。土地をアプリに登録していき、従業員誰もが、どこからでも作業状況を把握できるといいます。
スマートフォンの画面では、進捗(しんちょく)も一目で分かるように色分けされています。種まきを終えるとその区画は青く表示され、作業が終わった田んぼが分かるようになっています。これから作業する区画は、オレンジ色になっています。
作業効率を上げることで1日8時間労働、週休2日を実現しています。
小島さん
「イメージ的に農業は1日も休めないみたいな…」
前職が医療機器営業の従業員(25)
「先週誕生日だったので長期休暇をいただいて、オーロラを見たいなと思って誕生日に見に行きました。(長期休暇は)8~9日間くらいですね」
前職がホテル勤務の従業員(34)
「都内勤務の友達と午後6~7時くらいに飲みに行ったり。昼はちゃんと働いて夜は自分で楽しんで」
担い手不足が課題の中、若者がやりたくなる農業を目指す中森さん。今、農業は岐路に立っていると話します。
中森さん
「(減った)農地を使いこなせる、この農地を使ってビジネスを作る会社が出てこない場合、本当に日本の農業がなくなっちゃう。今年から10年の勝負じゃないですかね」
藤井貴彦キャスター
「国も、農業の構造転換を集中的に行うなど、これからの農業政策の方針や目標を盛り込んだ新しい農業基本計画を3月末にも閣議決定する見通しです。日本の農業は待ったなしの状況ですが、取材してみてどうでしたか?」
小島さん
「農業は天候相手の仕事なので、毎年どうなるか分かりません。アメリカでは、国が生産者のコストの一部を保証する制度があると、中森さんは話していました。そういう制度を日本にも、と僕も思います」
「農業界を引っ張っていく中森さんのような存在はもちろん、『ちょっと興味があってやってみたい』と思う方が安心して挑戦できるような仕組みを官民一体で本気で整えていかないと。政府としても食料安全保障の観点からも喫緊の課題なのではと改めて思いました」
(3月20日『news zero』より)