×

プロも予測不能?翻弄される日本経済

2021年8月7日 14:05
プロも予測不能?翻弄される日本経済

経済動向を読む「プロ」たちが、このところ翻弄(ほんろう)され続けている。何が起きるか予測不能だと嘆息する理由とは一体何なのか。またそんな苦境からの脱却に欠かせない「切り札」は今…。

今月16日、ことし4月-6月期のGDP(=国内総生産)が発表される。民間のシンクタンクの多くは2期ぶりのプラス成長を予測している。しかし新型コロナウイルスが流行し始めておよそ1年半。度重なる緊急事態宣言の影響でGDPの半分以上を占める個人消費が低迷したことから成長率は低く、ほぼ横ばいとなる見方が強い。

…と、予測はされているものの、実はGDPをはじめあらゆる経済予測にエコノミストはずっと頭を悩ませているという。一体どうしてなのか。

■毎月変わる「景色」

あるエコノミストはこう語る。「コロナが流行し始めてから、毎月“景色”が変わるので、予測がすごく難しい」この“景色”というのは景気のことだ。

通常、景気は増税の際のいわゆる「駆け込み需要」や天災などが起きない限り、月ごとに細かく上がり下がりをすることは少ないという。基本的には景気は一方向を向いているため、四半期ごとのGDPの成長率の見通しも、ある程度早い段階で予測することができるそうだ。しかし、長引くばかりか、どこまで広がるのか全く読めないコロナ禍が、「予測のプロ」の常識を揺さぶり続けているのだ。

感染状況に応じて緊急事態宣言の発出と解除が繰り返される。宣言によって感染状況が改善すれば需要は高まる。それに伴い宣言が解除されると人々の活動が活発になり、また感染状況は悪化、宣言が発出され需要は落ち込む。これを繰り返すことで国民の“需要”に細かい波が生まれてしまうのだ。

加えて、感染力がより強いデルタ株をはじめ、変異株の感染拡大でこの先の感染状況はさらに見通せなくなった。3か月先の経済予測はもはや「不可能」という嘆きまで聞かれるほどだ。

■頭を悩ます「K字型回復」

エコノミストが頭を悩ますもう一つの原因は経済の「K字型回復」だ。「K字型回復」とは、経済が回復する際に業績を伸ばす業種と落ち込みが大きくなる業種とに二極化する状態をあらわす。

通常、景気動向と企業などの業績の良しあしは一致する。しかしコロナ禍では、観光や外食などいわゆる対面型のサービスは大きな打撃を受け続けている一方、海外経済の回復とともに輸出や生産は好調な動きを取り戻しているほか、巣ごもり需要などで業績を大きく伸ばしている企業もある。そのため経済全体を見たときに、必ずしも景気と企業の業績が連動しておらず、景気全体の良しあしの判断ができないというのだ。これはコロナ禍ならではの経済の特徴だという。

■政府の政策の手詰まり感

あるエコノミストは、このコロナ禍での先の見通しの難しさは、政策決定にも影響しているのではないかと指摘する。

安倍政権での「アベノミクス」。異次元の金融緩和や、大規模な財政出動などで需要喚起を狙ってきた。コロナ禍の今、ますますこの路線に拍車がかかっている状況だが、その実効性を問う声も上がっている。

エコノミストは、その一例が「GoToキャンペーン」だと見る。GoToキャンペーンは1度目の緊急事態宣言で「停滞している日本経済の再始動を図る」ための需要喚起策として、菅総理の肝いりで打ち出された。しかし同時に人の動きが増えたことで感染も広がり、結果的にキャンペーンは中断することになった。

「先が見通せないため、需要の喚起と感染抑制のバランスをうまく取れず、経済活動のブレーキとアクセルを何度も踏みかえる状況になっている」とエコノミストは語る。

新型コロナの感染拡大がなかなか収まる気配のない今、有効な景気回復への道筋は模索が続きそうだ。

■「出口」はどこ?希望の光、ワクチンが突破口にはならず

先の読めないコロナ禍。果たして経済回復への出口はどこにあるのか。ある経済学者は、ワクチンの効果が思ったよりも限定的であることに不安を覚えるという。「“希望の光”とされてきたワクチンだが、思ったほど感染抑制に効果がない。景気回復への“出口”が見えなくなってしまった」

当初、希望する国民の多くが接種を完了するとされている10月~11月ごろには感染状況も落ち着き、経済回復に向けた道筋が見えてくると想定していた。しかし、ワクチン接種は進んでいるものの、感染者数は日に日に増え、連日全国各地で過去最多を記録している状況だ。感染者数が減らないことには、需要喚起もままならず、経済全体の回復は絶望的だという見方も。

度重なる宣言の影響で、昨年はなんとか持ちこたえた企業でも、今後の経営にほころびが出始める可能性がある。いわば「希望の光」とされたワクチンの経済回復効果に疑問符もつきはじめた今、経済回復に向けた次なる道筋とは何なのか。プロすらも「予測不能な経済」からの一日も早い脱却を望む声は、ますます大きくなりそうだ。