「私の悩みは社会課題」国を挙げて解決へ
生理、出産、更年期など、女性が抱える様々な健康上の課題。いままでは「個人の悩み」とされてきましたが、これからは「社会の課題」と考えて、国と企業が一緒に解決を目指します。
■健康と仕事の両立、カギとなるのは「フェムテック」
8月5日、午後1時。経産省が今年度から取り組む、補助金事業のはじまりを記念するオンラインイベントが開かれました。イベントには180人以上が参加。そのキーワードは「フェムテック」です。
「フェムテック」とは、female(=女性)とtechnology(=科学技術)を組み合わせた言葉で、生理や更年期など、女性の健康に関する悩みをテクノロジーで解決するものやサービスのこと。
経産省は、女性が健康と仕事を両立させるために「フェムテック」の普及が重要と考えて、今年度から新たに「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」を設けました。企業、病院などが提供する20の「フェムテック」事業に、最大500万円の補助金を出して応援するというものです。
■九州の女性職員のアイデアが霞が関を動かした
イベントの冒頭、「開催できることを本当に楽しみにしておりました!」と挨拶した春口浩子さん。この事業の発案者です。春口さんは、経産省の地方部局のひとつである九州経済産業局で働いていて、普段は企業向けにSDGsの取り組みを後押しする業務を担当しています。
「フェムテック」に関心を持つきっかけは、自身が約1年間続けた不妊治療の経験でした。40代になってから不妊治療をはじめた春口さん。上司に不妊治療中であることを言い出せず、平日の早朝や土曜日に通院したり、注射を自分で打ったりして、仕事に影響が出ないよう苦心しました。
しかし、ある日の休憩中。女性の同僚に何気なく治療のことを打ちあけると、返ってきたのは「実は私も」という返事でした。春口さんはそのとき、「同じ職場にいる女性同士でも、健康の悩みを全然わかっていなかった」と、気づいたといいます。
転機が訪れたのは、2019年12月のこと。経産省で、所属部署に関係なく多くの人から前向きな政策提案を集めようという「創造予算コンテスト」がはじまったのです。春口さんは、出産や不妊が理由で望まない離職をする女性を減らすために、「フェムテック」の活用を進めるアイデアを提出。80以上の応募の中から、採用されました。
■女性が能力を発揮できる社会は、「全ての人にとって望ましい」
採用後、より良い政策にするために実態調査をする中で、春口さんは新たな課題にも気がつきました。それは、女性の健康課題の多さです。
日本医療政策機構が2018年に行った調査では、約半数の女性が、生理や更年期で仕事のパフォーマンスが半分以下になると答えています。「一時期ではなくて、生涯を通じて健康課題に向き合っている人がいる」と知った春口さん。自身の提案をブラッシュアップし、出産や不妊に限らず、幅広い健康課題を解決する「フェムテック」を応援するものにしました。
実際、今年度の補助金事業に採択された20の事業は、妊娠、出産、不妊、子育て、生理、乳がん、更年期、といった様々な健康課題をテーマにしています。
春口さんの挨拶のしめくくりは、「フェムテック」事業者への期待にあふれていました。「働く個人が何かを犠牲にしたり、諦めたりすることなく、ライフイベントと仕事が両立できる。そんな環境がつくられていくことを期待しています。女性特有の悩みに対処し、いきいきと能力を発揮できる職場や社会は、女性のみならず全ての人にとって望ましい状態です。このような環境をつくっていけるよう、政府もしっかり伴走して参ります」
だれもが少なからず抱えている健康課題。「私の悩み」として我慢するのではなく、「社会課題」と捉えてみんなで解決を目指そうと、国も動き始めています。