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【解説】東京電力 世界最大級の原発で核燃料装填開始 ~柏崎刈羽原発“再稼働”の意味

2024年4月16日 6:00
【解説】東京電力 世界最大級の原発で核燃料装填開始 ~柏崎刈羽原発“再稼働”の意味
東京電力・柏崎刈羽原発(新潟県)7基ある原子炉の総出力は世界最大級を誇る。

東京電力は柏崎刈羽原発7号機に核燃料を装塡(そうてん)する作業を開始した。東日本大震災以降、国内に33基ある原発は一旦全て停止したが、現時点で12基(2024年4月現在)が再稼働した。ただ、この先、柏崎刈羽原発が再稼働することになれば、単に”再稼働が一基増える”だけではない、別の意味がある。(経済部・岩田明彦)

■通称KK、世界最大級の原子力発電所とは

新潟県柏崎市と刈羽村にまたがる東京ドーム約90個分という広大な敷地に立地する、東京電力の柏崎刈羽原子力発電所。7つある原子炉の総出力は821万2千キロワットと、1つの原子力発電所としては世界最大級とされている。

発電される電力は約200キロ離れた東京を主とした首都圏に送電される。電力関係者によると、東日本大震災前までは東京電力管内の1割~2割の電力を賄う、まさに日本経済にとって重要な発電所であったという。しかし、震災後、柏崎刈羽原発の原子炉は1基も再稼働していない。

「KKの再稼働は東京電力の悲願です」(東京電力の関係者)

東京電力では、柏崎刈羽原発を通称KK(ケー・ケー)と呼ぶ。ちなみに福島第一原発は通称1F(イチエフ)。どちらも立地自治体のイニシャルを取ったものだ。2011年の福島での事故後、福島第一原発の6基はもちろん、第二原発の4基も全て廃炉にすることを決定した東電にとって、KKはまさに「虎の子」、再稼働は文字通りに悲願と言える。

ただ、2017年12月に6号機と7号機が新規制基準に合格し、早々にも再稼働するものと思われたが、そこからの紆余(うよ)曲折が長かった。2020年には、東電職員が他人のIDカードを利用して原発の中枢部である中央操作室に不正入室。その他、発電所構内への侵入感知器が複数故障していることを放置するなど、テロ対策上の重大な問題が相次いで明るみとなった。

事態を重く見た原子力規制委員会は事実上の「再稼働禁止命令」を出したが、その後も柏崎刈羽原発では3号機の老朽化対策の審査に他の号機のデータを流用したり、原発の火災防護などが記された書類を車の屋根に置いたまま走らせ紛失するといった不祥事が続いた。

その後、結局、原子力規制委員会は「東電に自律的改善が見込める状態になった」として、年の瀬も迫った去年12月27日に「再稼働禁止命令」を解除した。しかし「(東電に)いつ後ろから頭を殴られるか、疑心暗鬼になっている」と、原子力規制庁の幹部は裏で頭を抱えていた。命令解除はしたものの、今も東電に不信感を抱く関係者が多いのは間違いない。

■”核燃料装荷”も再稼働は視界不明瞭

4月15日、東京電力は7号機で原子炉に核燃料を入れる「燃料装荷」という作業を開始した。今後2週間程度をかけて872体の核燃料を原子炉に入れる見込みだが、これは原子炉を再起動するための法律上の最終工程の一つとなる。残るはプラント全体のチェック後、いよいよ制御棒を引き抜き、原子炉を起動する。いわゆる再稼働だ。

ただ、実際に再稼働できるかどうかは別問題となる。原発の再稼働には地元自治体の同意が必要となるが、地元・新潟県も当然、東京電力に対して強い不信感を抱いている。

それに加えて、元日の能登半島地震も影響している。この地震で、新潟県も被災したわけだが、柏崎刈羽原発の周辺住民が事故時に使用する避難道路となる北陸自動車道は一時通行止めとなり、また国道8号線は避難先手前の上越市で土砂崩れが発生した。さらに津波警報を聞いた市民らが乗用車で避難したことから立地自治体の柏崎市では渋滞も発生した。

「地震で原発事故が起きた場合、本当に避難できるのか」、柏崎刈羽原発の周辺に住む住民からも当然懸念の声は増している。原発から5キロ圏内に住む住民は日本テレビの取材に、「再稼働するにしても(その前に)避難道路を整備してほしい」と、切実な思いを話している。

事実上、再稼働の是非を最終的に判断する新潟県の花角知事は、今ある避難計画をさらに充実させるため、国に避難道路の整備を要望する意向を示している。

■「東京の電気のために、なぜ苦労するのか」

柏崎刈羽原発特有の問題として、「立地エリアと電力が供給されるエリアの矛盾」がある。つまり、柏崎刈羽原発で発電された電気は新潟から遠い首都圏に送られ、東京電力ユーザーのメリットとなる。しかし新潟県は東北電力管内であり、東京電力の原発が再稼働したところで電気料金の値下げのメリットは無い。この立地エリアと供給先エリアの矛盾が生じているのは国内でも柏崎刈羽原発だけで、他の原発は立地と供給エリアは同じとなっている。(補足:東日本大震災以前は、福島第一原発と第二原発も同様の矛盾があった)

「東京の電気のために、万が一の事故の際、避難で苦労するのは理不尽だ」。原発の地元ではこう言った声を耳にする。以前は日本経済を支える一大発電地域としての誇りを持っていたと言うが、今は複雑な心境があるのだ。

新潟県はリスクを負うが、その見返りとなる電力は東京電力から基本的に供給されていないことから、地元住民にとっては再稼働によるメリットは見えにくい。こういった特殊条件も、再稼働の判断に影響すると見られている。

■首都圏の電力不足の解消は?電気料金の値下げは?

一方で、柏崎刈羽原発が仮に再稼働した場合のメリットとはいったいなにか。電力供給量と電気料金を見てみよう。

先にも述べたが、東日本大震災以降、国内にある原発は順次停止し、2013年には全ての原発が停止した。その後、福島第一原発事故の教訓から厳しくなった新規制基準が施行され、現在国内に33基ある原発のうち、安全審査に合格し再稼働した原発は12基となっている。

しかし、この12基は全て西日本に立地する原発であり、東日本(北海道・東北・東京電力管内)で再稼働した原発はゼロ。日本の電力システムは世界にもまれな東西日本で周波数が違うため、電力が比較的余裕のある西日本から電力を融通してもらうことは基本的にできない。ここ数年、東日本では毎年のように夏・冬の電力不足が問題になっているが、これは原発が再稼働していないことも大きな要因となっている。

大停電を避けるため電力の予備率が3%以下となると、国は「電力ひっ迫警報」を発令し企業や家庭に節電を要請する。2022年3月21日には初の警報が発令され、ここ数年、東日本の電力需給は綱渡り状態といえる。電力関係者によると、仮に柏崎刈羽原発の6号機7号機の2基が再稼働すると、東京電力管内ではひっ迫時に5%程度の予備率が上積みできるという。安定供給に万全とは言えないが、ひっ迫のリスクは若干緩和すると見込まれている。

では電気料金はどうだろう。東京電力は、6号機と7号機の再稼働をすでに織り込んで、現行の電気料金を設定していて、再稼働しない場合と比べて標準家庭(月260kWh使用)で100円程度安くなっているとしている。今後、停止中の柏崎刈羽原発の1号機から5号機が再稼働するとなれば、より値下がりする可能性はある。しかし、現時点で東電は判断をしておらず、仮に再稼働するにしても安全審査や対策工事に数年単位の時間が必要となる。

■KK再稼働が象徴的な意味とは

家庭にとっては電気料金の負担軽減はわずかな額にとどまる一方、政府や電力関係者にとっては、柏崎刈羽原発の再稼働は“象徴的な意味”を持つ。それは、柏崎刈羽原発があの「東京電力」の原発であり、そして福島第一原発と同型の「沸騰水型(BWR)」といわれる原子炉であることだ。

実は2011年以降、事故を起こした福島第一原発と同型炉が再稼働した例はない。

原発は大きく分けて「沸騰水型(BWR)」と「加圧水型(PWR)」の2種類が存在する。主たる違いは「発電用タービンを、どこで発生した水蒸気を使って回すか」だ。技術的な話は割愛するが、結果的に原子炉を覆う格納容器がBWRは小さく、PWRは大きくなる。原子力に詳しい専門家によれば、この違いで、PWRではシビアアクシデント時に水素爆発が起きる可能性が低くなると言われている。また、福島での事故時にも実施した、原子炉容器内の放射性物質を含む気体を大気に放出して圧力を下げる作業、いわゆる「ベント」作業を行う可能性も低くなると言う。

この違いから、「沸騰水型(BWR)」の安全審査は厳しくなり、結果的に法律上必要な手続きを終えても、最後の地元の同意を得るハードルが高い要因ともなっていると言う。ちなみに国内の原発(全33基)のうち、BWRは約半数の17基。東日本にある原発は主にBWRだ。

「KKの再稼働は経済産業省の悲願だ」と、国のエネルギー政策を担う関係者は言う。福島第一原発の事故の一端を負う経産省は、いわば東電と一連託生。事故賠償費用などの多くを国債として東京電力に貸し付けている。その意味で、国は柏崎刈羽原発の再稼働により「東京電力」の収益改善を期待している。

政府や電力関係者にとっては、柏崎刈羽原発の再稼働には、この13年間「ご法度」だった「東京電力」の再出発という意味があるほか、福島第一原発と同型である「BWR」原発の再稼働が果たせたという意味を持つ。いわばあの原発事故の「禊ぎ」の位置づけだ。そして、さらに政府がその先に見据える原発を主力に据えた「脱炭素」戦略への環境整備のため、実現したい”悲願”なのではないだろうか。

通称KK。柏崎刈羽原発の再稼働には多くの関係者の思惑が交差する、象徴的な原発なのである。