「営業利益5兆円のトヨタ」と「前年比55%のエステー」…円安で明暗分かれる24年3月期決算──注目は日銀6月の金融政策決定会合
円安を追い風に、増益の発表が相次いだ3月期の決算。しかし、大企業からは「急激な為替の変動は好ましくない」と歴史的円安を歓迎しない声も。この水準の円安がいつまで続くのか、経済部で日銀・金融担当の渡邊翔キャップと、財界・企業担当の城間将太記者が深掘りトークします。
■トヨタの営業利益が「日本企業初の5兆円超」の一方で…明暗わかれる24年3月期決算
経済部 日銀・金融担当 渡邊翔キャップ
「2024年3月期の決算を取材してきましたが、かなり好調な企業が目立った印象です」
経済部 財界・企業担当 城間将太記者
「SMBC日興証券によると、20日時点で東証プライム市場に上場している企業の99.8%の開示が済んで、うち6割以上の企業が経常利益ベースで増益になったということです」
渡邊キャップ
「やっぱり円安の影響というのは大きいと思いますか?」
城間記者
「今回特に好調だったのは、輸出が多い製造業。トヨタに関しては営業利益が日本企業初の5兆円超となり、ホンダだと前年を77%上回る1兆3819億円。それからスズキも4656億円と過去最高でした」
「海外に幅広く事業展開している総合商社も、円安が追い風となりました。三井物産では最終利益が1兆637億円で、2期連続で1兆円超。伊藤忠商事も8018億円で、3年連続で8000億円を超える結果になったんです」
渡邊キャップ
「5大商社はウォーレン・バフェット氏が去年株を買い増してから株価が好調ですし、業績もそこについてきたってことですかね」
城間記者
「円安の影響で『海外旅行高い!』って我々もニュースでやっていますけど、逆に海外から日本に来るインバウンドの需要はかなり高まってきます。そういった影響で例えば航空業界なんかは、コロナ前以上に回復をして、大幅に増益になっているということもあるみたいです」
「一方で、輸入企業は円安による原材料費や輸送費の増加で減益になっている企業が目立ちます。大手日用品メーカーのエステーでは、営業利益が前年の約55%になってしまったんです。ゴム手袋なんかは海外で製品を作り、梱包して輸入しているので、円安の影響を受けました」
「あとは家具大手のニトリホールディングス。こちらも輸入が多くて、円安の影響を大きく受けたということです。ニトリに関しては前期まで36期連続で続いていた増収増益の記録が途切れたというのが、驚きました」
渡邊キャップ
「だから結局、明暗を分けたのは為替という結論になりますかね」
■この水準の円安がいつまで続くのか…業績好調の企業も「急激な為替の変動は好ましくない」
渡邊キャップ
「25年3月期の業績予想も各社出しましたが、私の印象としては、24年3月期にこれだけ業績が好調だったにもかかわらず、結構保守的な見通しを出しているなと思ったんですけど」
城間記者
「企業もさすがにこの歴史的円安がずっとは続かないだろうという印象を持っています。円安の恩恵を受けた自動車メーカーとか総合商社からも『急激な為替の変動は好ましくない』といった声があがっています。というのも、大企業というのは海外との取引額も大きいので、為替が1円動くだけでかなり影響が大きいと。仕入れとか商品開発の見直しなどのリスクも高いんですね。この水準の円安がいつまで続くのかっていうところはありますよね」
渡邊キャップ
「ゴールデンウイークにあった2回の為替介入とみられる動き。実は比較的うまくいったんじゃないかという評価もあるんです」
「4月29日にまず1ドル=160円に到達してしまったところで一回目やりましたと。これで160円というラインを投機筋に意識させたという見方があります。そして日本時間でいうと2日に2度目の介入とみられる動き。この2回で一方的な円安進行に歯止めをかけていたところで、今月15日に発表されたアメリカのCPI=消費者物価指数が前年同月比で3.4%の上昇と、ようやく市場の予想通りになりました。しかも前月比でいうと0.3%の上昇ということで、市場予想を下回ったんです。そこでようやくドル円相場が一時1ドル=153円台まで上昇してきました」
城間記者
「結果的にアメリカの経済指標に救われたところもあるんですかね」
渡邊キャップ
「財務省で為替介入などを統括する神田財務官が、アメリカの経済指標が弱くなってくるタイミングまで織り込みながら介入に踏み切ったと、ある程度戦略的にやったんじゃないかという見方をする人もいます」
■6月の金融政策決定会合に注目 歴史的円安の中で日銀は…
城間記者
「来月もまた日銀の金融政策決定会合がありますけど、円安に何らかの対応を行うんでしょうか」
渡邊キャップ
「日銀はあくまで『物価の番人』といわれていますから、為替を直接コントロールするわけではない。これは植田総裁も折に触れて最近も言っています」
「あくまで結果論として、為替に作用すると考えられる政策手段は主に2つあります。1つは金利を上げる、利上げです。ただ、植田総裁は円安が今後の『基調的な物価上昇率』に与える影響を見極めるという姿勢を示しています。経済指標とか統計が出てから、データに基づいてやらなきゃいけないので、一定の時間がかかるというところはありますよね」
城間記者
「じゃあ円安が物価に影響しているからといってすぐに利上げするのは難しいということですか」
渡邊キャップ
「ただ、植田総裁はもう一つ別のことも言っているんです。それは、『物価上昇率2%目標の達成に向けた確度がさらに高まれば追加利上げを検討する』というような姿勢です。日銀はそもそも3月に『2%物価目標の達成が見通せる状況に至った』と言って、17年ぶりに利上げしました。なので、『今の日銀の見通し通りのペースで基調的な物価が上がっていけば、その途中で随時、状況に合った金利に上げていくよ』と言っているわけです。市場の予想では、一番早くて7月の決定会合で上げるんじゃないかという見方もそれなりにあります」
「もう1つの政策手法は、大規模金融緩和の一環として行っている国債の買い入れ額を減らしていくことです。いわゆる量的引き締め、QTなんて呼ばれるんですけれども」
城間記者
「今月中旬、日銀がデイリーの国債買い入れを減らしているっていうニュースがありましたよね」
渡邊キャップ
「3月に国債の買い入れ量を『これまでとおおむね同程度の金額で継続する』としたんです。この公表した文章に脚注があって、『足元の月間買い入れ額は6兆円程度です』と書いてあったんですね。 だから“概ね同程度=6兆円程度”。 でも、日銀が公表してる買い入れの予定額を見ると、ちょっと幅があるんです。大体4.8兆円ぐらいまでは『おおむね同程度』と言っている範囲内でも減らしていいことになっている 」
城間記者
「1.2兆円がある程度なのかわかんないですけど、“ある程度”は国債の買い入れは減らせる。そして金融政策決定会合でさらに減らすと決めることもできるんですよね?」
渡邊キャップ
「そうですね。ただ日銀のスタンスは、国債の買い入れ減額は、経済・物価情勢と切り離して考えていくと」
城間記者
「円安が進んでいるからといって国債の買い入れを減らして対応することはない?」
渡邊キャップ
「と言っているように聞こえるじゃないですか。ここもまた難しくて、逆に言えば円安とか何とかとは全く関係なく、6月にいきなり『買い入れ額をさらに減らします』と決めて発表してもいいわけです」
城間記者
「なんか予防線を張っているような感じがしちゃいますね」
渡邊キャップ
「来月また金融政策決定会合ありますけど、何が起きてもおかしくないし、逆に何も起きないかもしれない。まだ半月以上ありますんで、これから取材していくと、だんだん感触が見えてくると思います」