泥沼のミャンマー内戦 若者の悲痛な叫び「ウクライナほど関心を持ってくれない」
軍事クーデターが起きたミャンマーで、内戦が泥沼化している。空爆など暴力をエスカレートさせる軍。手製の武器で対抗する民主派。「世界はウクライナほどミャンマーに関心を持ってくれない」。ミャンマーの人たちは、忘れられていくことに危機感を抱いている。
(NNNバンコク支局 杉道生)
■双子の弟を殺害された男性「世界は見て見ぬふりをしている」
2021年に起きたクーデターのあと取材で出会い、いまも連絡を取り合っている20代のミャンマー人男性がいる。男性はいま、母親を最大都市ヤンゴンに残し、父親とともにタイの国境地帯に避難している。民主派勢力に食料や寄付金を届ける活動を続けているという。
男性の双子の弟はクーデターの直後、軍への抗議デモに参加し、治安部隊に射殺された。その2か月後、男性は取材に対し「若者には誰でも夢を持って生きる権利があります。何かが間違っています」と、涙をこらえながら語っていた。あれから1年8か月。自らとミャンマーの現状について、SNSでメッセージを送ってくれた。
「クーデターで日常は完全に変わってしまいました。人々は恐怖と不安におびえながら、軍政下で生き延びようとしています。離ればなれになった母親には無事でいてほしいです。困難を抱えた生活の中では、“生きている”と感じられない時があります」
「いま、ミャンマーで起きているのは、軍と国民の内戦です。軍は自らの権力を維持するために、同胞を殺すことをためらいません。私たちが終わらせない限り、虐殺は今後も続くでしょう」
男性もほかのミャンマー人と同様、軍への抵抗を「革命」と呼ぶ。「ミャンマーの現実を世界は見て見ぬふりをしています。世界はウクライナの問題ほど、ミャンマーで続いている革命に関心を持ってくれません」。忘れられていくことに強い危機感がにじむ。
■増え続ける死者と国内避難民
ミャンマーではいま、内戦が泥沼化している。民主派の武装勢力「国民防衛隊」は、少数民族から軍事訓練を受けてゲリラ戦を展開。一方の軍は、空爆や村の焼き打ちなど無差別攻撃を繰り返し、無抵抗な市民の犠牲者は増え続けている。
現地の人権団体によると、軍の武力弾圧による死者は2600人を超えた。国連機関によると、ミャンマー全土でクーデター以降、110万人以上が住む家を追われ、国内避難民となっている。
現地では何が起きているのか。激しい戦闘が続く北西部ザガイン管区の「国民防衛隊」3人がオンラインで取材に応じ、前線の生々しい状況を証言した。
■手製の武器で応戦する「国民防衛隊」
インターネットが辛うじてつながるというジャングルの小屋で、37歳の大隊長は、1953年製の小銃を手元に置いたまま「戦闘は昼夜を問わず発生する」と話し始めた。
「寝ていた午前2時ごろ、軍の部隊が突然現れて戦闘になることがある。これまでに62人の隊員が犠牲となった。軍の攻撃に(抵抗のサインである)3本指を立てたことで、頭を撃ち抜かれた仲間もいる」
「軍はいま、ロシア製の軍用ヘリコプターで、近くの基地から15分ほどでやってくる。上空から見えるものすべてを撃ってくる。人間を人間と思っていない」
大隊長は手製の武器の写真を見せてくれた。大部分が木製の小銃とビニールテープが巻かれた手りゅう弾。「我々は軍と同じレベルで戦いたいが、武器や弾薬が不足している」
クーデターの前は学生だったという22歳の隊員は、国民防衛隊に入った理由について「市民を拷問する兵士を見て、独裁者を倒さなければならないと思った」と話した。
「死ぬのは怖くない。独裁政権から解放されないことのほうが怖い」と強がる隊員だが、家族は心配していないのかと尋ねた時、はにかみながら「ケガをした時は、無性に家が恋しくなる」と明かした。
クーデターから間もなく2年。国際社会は事態打開の糸口すら見つけられていない。
ミャンマーの独立系メディア「イラワジ」は2022年12月の社説で、軍事政権と関係を深めるロシアや友好関係を維持する中国とインドを名指しし、「この軍政の寿命は短く、付き合うと裏切られると分かっているはずだ。ヒトラーと友達になるようなものだ」と皮肉った。
その一方で、アメリカの議会がミャンマーの民主派勢力に非軍事的な支援を可能にする法案を可決したことを「心強い」と歓迎した。「これまでミャンマーに関わってきた欧米の友人たちは、抑圧されたミャンマー国民を見捨てず、長年の友人として立ち上がり、支援するべきだ」と強調する。
ミャンマーの人たちは国際社会の言動を注視している。ロシアのウクライナ侵攻の陰に潜む、声なき声に耳を傾けてほしいと訴えている。