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【解説】ロシア軍侵攻から10か月以上…“長期化”ウクライナ情勢 戦いはいつまで続く? 2023年の展望は

2023年1月1日 14:00
【解説】ロシア軍侵攻から10か月以上…“長期化”ウクライナ情勢 戦いはいつまで続く? 2023年の展望は

ロシアのウクライナ侵攻からまもなく1年を迎えようとしているが、事態は終結の兆しも見えないままだ。首都キーウ周辺では一時期、平穏な生活を取りもしつつあったが、冬の訪れとともにロシア軍のインフラを狙った激しい攻撃にさらされ、丸2日、電気が使えない時もあるという。長期化するウクライナ情勢だが、2023年、和平に向けた動きは出てくるのだろうか? 今後の展望を解説する。
(NNNロンドン支局長 古谷朋大)

NNN取材団がロシアの侵攻を前にウクライナ入りしたのは、2022年の1月だった。私は雪に覆われた広大なロシアとウクライナの国境を撮影しながら、「この場所にロシア軍が押し寄せるのか?」「今、我々を案内してくれている国境警備隊の兵士は生き延びることができるのか」…と、恐ろしい気持ちになったのを良く覚えている。

そして戦争は現実のものとなった。

それからおよそ10か月後の2022年12月20日、ロシアのプーチン大統領は盟友であるベラルーシのルカシェンコ大統領と共同記者会見を開いていた、その場でルカシェンコ氏はこう述べた、「ご存じのように我々2人とも侵略者であり、この世で一番有害で毒のある人物だ」。冗談めかしたように話しているようにも見えるが、彼の発言の真意はわからない。ただ、侵攻開始以来国土を蹂躙(じゅうりん)されているウクライナ国民にとっては嫌悪感しかないだろう。

■停電“丸2日”…過酷な暮らしに耐える日々

実際、ウクライナ国民は電気も水道も満足に使えない中、堪え忍ぶ生活が続いている。

ガリナ・ゴンチャレンコさん(84)はキーウ市内にある16階建ての集合住宅に住んでいる。ガリナさんには2022年11月にキーウでインタビューをしているが、改めてオンラインで最近の状況を聞いた。取材時はちょうど停電中で、建物の中は真っ暗だった。自宅は4階だが、エレベーターも動かず、帰宅すると懐中電灯やなどを頼りに階段を上がっていくという。高齢の身には一苦労だという。

■丸2日間停電も 水の備蓄も欠かせず

玄関付近には大小、数十本のペットボトルやビンが。ガリナさんに聞くと、「これは飲み水や生活用水です。水が出る時にためておきます」と話した。停電になると水も止まる。電気が使える時でも半日は停電し、丸2日間も停電が続く日もあるという。

停電中は携帯電話が通じにくくなる。家族との連絡や情報収集も滞り、不安な毎日を過ごしている。ウクライナ政府によるとウクライナ全土の半数の発電所が攻撃を受けて使えなくなっているという。ウクライナ政府による復旧作業も進められているものの、ガリナさんは「インフラ施設がまたロシア軍の攻撃を受ければ元に戻ってしまう」と肩を落とす。

こうした中、ウクライナ当局は「不屈の避難所」を全土に設置した。見た目はテントで作られた簡易な施設だが、中では暖を取れるほか、携帯電話の充電もできる。また市民が集まるため、孤立解消や市民同士の交流にも一役かっているようだ。

生活上の不便が解消されるわけではないが、市民はこうした場所も利用しつつ、何とか日々の暮らしを送っているという。

■戦いはいつまで続く?

ウクライナの苦しみはいつまで続くのか。ロシア軍の侵攻開始から10か月が経過したが、停戦の見通しはまったく立っていない。

ウクライナ東部、ドネツク州バフムトなどでは激しい戦闘が続いている。アメリカの戦争研究所はこれについて、プーチン大統領がドネツク州全域の制圧を指示し、それを実行する動きと分析している。

ウクライナのレズニコフ国防相は2022年12月中旬、「ロシアの動員兵によって2023年2月にも新たな攻撃が開始される可能性がある」と指摘した。イギリス国防省もロシアに対するイランの軍事支援は2022年12月以降、拡大する可能性が高いと分析している。

兵力の消耗は激しく、国内世論も和平交渉を求める声が高まりつつあるロシアだが、プーチン大統領が軍事作戦を縮小させる兆候は今のところ見当たらない。一方、ウクライナのゼレンスキー大統領はイギリスのエコノミスト誌のインタビュー(2022年12月15日付)で「1991年の国境までロシア軍が撤退することが、紛争を終わらせる唯一の方法だ」とこれまでの立場を改めて繰り返した。つまり、ロシアが併合を宣言したクリミア半島を奪還するまでは戦いを継続するというものだ。

両者一歩も引く様子を見せないままだが、今後の戦況はどう動くのだろうか。私はロシア政治にも精通するキーウ在住の外交筋に展望を取材した。まず彼は「ウクライナ軍の戦果は報道ベースではわかりにくい」と前置きする。「ウクライナ政府は戦略的に重要な戦いについては優勢であっても情報を表に出さない傾向がある」のだという。その上で、彼の持つ情報によれば、ウクライナ軍はヘルソンなどの南部で攻勢をかけており、春先までにかなりの領土を奪還する可能性があるという。

その上で、どこかの段階で停戦に向けて動き出すとしても驚きではないと分析する。ゼレンスキー大統領の表向きの発言とは裏腹にウクライナも現実的な落としどころを探るかもしれないというのだ。

一方のロシアはどうか。この1年近い戦闘でロシア軍の消耗は激しく、保有していたミサイルをほとんど使い果たしているという。そのため「プーチンも打つ手は無くなってきており、どこかで手打ちをするということを考えているのではないか」と語る。

プーチン大統領の最優先事項は政権の維持だ。ただでさえ国内世論が反戦に向かっている中、戦闘でも劣勢に回れば自らの身が危うくなりかねない。格好のつくうちにウクライナとの停戦交渉に乗り出す可能性は十分あるだろう。

2023年はウクライナにとってもロシアにとっても正念場の年となりそうだ。