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エジプト安定への道? 議会選挙が終了

2015年12月4日 16:48
エジプト安定への道? 議会選挙が終了

 エジプトで2日、2013年の軍事クーデター以降、初めてとなる議会選挙の投票がすべて終了した。シシ政権を支持する勢力がほとんどの議席を獲得する見通しだが、選挙の結果はエジプトの安定につながるのだろうか。天野記者が取材した。


■相次ぐテロの中「シシ大統領だけがリーダー」
 投票は2015年10月から、地域別に2回に分けて行われた。最終結果はまもなく出る見通しだが、軍出身のシシ政権を支持する勢力が全596の議席中、大多数を占めるものとみられる。

 エジプトでは、特に2015年に入ってから、過激派組織「イスラム国」の傘下組織や、政権と対立するイスラム組織「ムスリム同胞団」によるものとみられるテロ事件が頻発。10月には、エジプト東部のシナイ半島でロシア機が墜落し、「イスラム国」が「墜落させた」と主張した。エジプトにとって大切な収入源である観光業にも深刻な打撃を与えている。こうした背景から、治安の安定を求め、一貫して強い指導者像を演出するシシ政権に期待する声が根強い。シシ政権の支持者はこう語る。

 「シシ大統領だけがこの国を率いてくれるリーダーだ!」


■投票率低迷…その理由とは―
 一方、投票率は伸び悩んだ。政変後、初めての議会選挙にも関わらず1回目と2回目の投票とも30%を下回っている。シシ政権の支持者が候補者の多くを占める、いわば“出来レース”に、特に若者の関心は低かったようだ。街では「誰が立候補しているかまったく知らないわ。この選挙で何かが変わるわけではないと思う」「投票所を見てごらんよ、投票に来る人はほぼいない。いるのは軍と警察だけだよ」との声が聞かれた。

 また、投票率が低かった背景には、強権的なシシ政権への反発もある。シシ政権はこれまで、“テロ対策”の名の下に対立する勢力を手当たり次第に拘束。今回の選挙でも、中東の民主化運動“アラブの春”で政権をとった「ムスリム同胞団」の政党は、事実上、排除されていた。


■拘束、拷問…青年が語るシシ政権
 こうした中、私たちは11月、「ムスリム同胞団」を支持しているという青年に話を聞いた。この青年の兄は当局の暴行を受けて死亡。彼自身も拘束され、拷問を受けたと主張する。体には当局に暴行されたという痕が残っていた。

 「爆弾テロなどで政府や、警察・軍の人間が死亡したと聞くと、すごく幸せな気持ちになる。兄弟を殺したやつらだから」

 彼が口にしたのは、政権に対する強い不信感と報復を望む声だった。

 「エジプトに将来はない。選挙で何も変わるはずがない。ただ政治の腐敗が進むだけだ」


■真の安定への道のりは―
 選挙を受け成立する新しい議会は、シシ政権の方針に全面的に従うのは確実だ。シシ政権はますます盤石になり、強権的になるとみられる。しかしその反動としてテロが起きかねないという、まさに“爆弾”を抱えている。今回の選挙でエジプト情勢が大きく変わることはない。対立勢力の弾圧という“対症療法”だけをしていては、真の安定に向けた道のりは長いといえそうだ。