イラン核協議進展 制裁解除とその後は
2015年7月、イランの核開発問題をめぐり、欧米など6か国とイランは歴史的な最終合意に達した。
これは、イランが核兵器に転用可能な濃縮ウランの保有量を大幅に削減することや、遠心分離機の3分の2を撤去することなどにより、核開発を大きく制限する。一方で欧米などは、イランへの制裁を段階的に解除するというものだ。
そもそもイランの核開発は、2002年に表面化した。イランは「平和目的」と主張して開発を加速し、濃縮ウランの製造を始めた。これに対し、アメリカなど国際社会はイランの石油を買わないなど厳しい制裁で対抗し、緊張が高まった。
しかし、2013年に穏健派のロウハニ大統領が就任すると対話の機運が生まれ、度重なる協議の結果、最終合意に到達したのだ。2015年12月にはIAEA(=国際原子力機関)がイランの核兵器開発疑惑について解明を終了することを決めるなど、制裁解除に向けた環境は徐々に整いつつある。
アメリカでは、議会の野党・共和党内の反発は根強く、民主党内にも慎重論があることから、制裁解除への道筋は、まだ完全には見通せていない。
残る任期が約1年となったオバマ大統領としては、イランの核問題の解決を自らの政権の成果である“レガシー”とすべく、早期の解除へ向けて一層力を注いでいくことになる。
一方のイラン政府からは、制裁の早期解除を目指す発言が相次いでいる。イランメディアによると、サレヒ原子力庁長官は2015年12月19日、制裁解除の条件となっている濃縮ウランの国外搬出をめぐり、数日中に9トンをロシアに運び出す考えを明らかにした。また、ザリフ外相はその2日後、2016年1月中に制裁が解除されるとの期待感を示した。
これに対し、アメリカのケリー国務長官は2015年12月28日、低濃縮ウラン約11トンがロシアに向けて船で搬出されたことを明らかにし、「重要な前進だ」と評価する声明を発表した。
イランでは2016年2月26日に、最高指導者を選ぶ権限を持つ専門家会議と議会の選挙が行われる予定で、ロウハニ政権としては、その前に制裁解除につなげ、成果をアピールする狙いがあるとみられる。
イランが最終合意を守っていることが確認されれば、早ければ2016年1月中にも制裁の解除が始まる可能性が現実味を帯びてきている。そこでイランを取り巻く各国の関心は、制裁解除後をにらんだ経済や中東地域の安全保障に移り始めている。
経済面で見ると、イランは天然ガスで世界1位、原油で世界4位の埋蔵量を誇るエネルギー大国であるほか、人口7900万人を抱える魅力的な市場でもある。
ドイツなどヨーロッパや中国などアジア各国などからは、すでに多くの企業がイラン入りし、商談を活発化させている。ギリギリまで警戒感を緩めないアメリカと足並みをそろえている日本は出遅れ感が否めない状況になっている。
一方で、今回の最終合意はイランに一定の核活動を認めた形となっている。イランと敵対関係にあるイスラエルは、最終合意に激しく反発しており、安全保障面で緊張感が増している。
また、サウジアラビアをはじめとするイスラム教スンニ派諸国の中では、イスラム教シーア派の大国であるイランが存在感を増すことに対する警戒感は根強い。
イランには合意を忠実に履行し、国際社会の不安を払しょくする努力が求められる。