“少数民族との和平”スー・チー氏の手腕は
軍事政権が続いたミャンマーで半世紀ぶりに文民政権が誕生し、歴史的な政権交代が行われた。アウン・サン・スー・チー氏が事実上の最高指導者となり政権運営にあたるが、その最優先課題の一つが、半世紀以上にわたり戦闘を続ける少数民族との和平。変化の兆しはあるのか、現地で取材した。
先月30日、事実上の最高指導者になったスー・チー氏。大統領には、これまでの軍出身者に代わって自身の側近が就任し、半世紀ぶりに文民政権が誕生した。
1988年、民主化運動の指導者となったスー・チー氏。のべ15年以上にわたり自宅軟禁になりながらも軍事政権と闘い続け、ノーベル平和賞も受賞した。しかし、政権を担うのは初めてで、政治家としての手腕は未知数。数多くの課題に直面する中、「試金石」として注目されるのが少数民族との和平だ。
スー・チー氏「新政権には、皆さんが望む『永遠の国内和平』を実現する責任がある。皆さんの協力をお願いします」
ミャンマーには武装した少数民族の勢力が約20あるとされ、一部は自治権を求めて半世紀以上にわたり政権側と戦っている。ミャンマーでは依然、国境地帯を中心に10の武装勢力が停戦を拒否。それぞれの地域では政府の支配が及ばず、一部では激しい戦闘が続いている。
2月に武装勢力が集まった会議で、今も軍と戦いを続ける勢力の代表は「軍との戦闘はほぼ毎日起きている」「軍は少数民族との和平など求めていない」と話した。軍への不信が根強く残っているのだ。
取材班は少数民族を取材するため、隣国タイからミャンマーへ向かった。質素な家が続く山あいの集落を越えていき、急な山道を走ること6時間。武装勢力支配地域の中心部に入った。ミャンマー東部のモン州。一見、のどかな風景だが、長年にわたり軍事政権と対立するモン族の武装勢力が、200近い集落を支配している。
広場に行ってみると軍事パレードが行われていた。自動小銃を持って兵士らが次々と行進する。中には女性兵の部隊も。この武装勢力も「軍が信用できない」として停戦を拒否している。観衆の中にはおもちゃの銃を持つ多くの子どもがいた。モン族にとって戦いは身近なものなのだ。
一方で、武装勢力の代表からは、和平を目指すスー・チー氏のリーダーシップに期待する声が聞かれた。
モン族の武装勢力代表「すでに時代は変わった」「選挙に勝ったスー・チー氏から、死に体の軍に対話を持ちかけている」
自らも軍事政権と闘ってきたスー・チー氏なら、半世紀以上続く戦闘に終止符を打てるかもしれないと考えているのだ。
モン族の女性「(スー・チー氏なら)事態を変えてくれると信じている」
国民の期待を受け、初めて政権を握ったスー・チー氏。ただ、少数民族側とどのように直接対話を実現するのか、その道筋は示されておらず、和平への糸口を見つけられるのか、手腕が注目されている。