「イスラム国」“解放地区”再び傷つく住民
過激派組織「イスラム国」のイラクでの最大拠点・モスル。イラク軍などが奪還作戦を続けているが、解放されたはずの地区で住民たちが再び戦闘に巻き込まれるケースが相次いでいる。モスルから約80キロ東にある都市・アルビルでその現状を取材した。
私たちは先月末、イラク北部にあるクルド人自治区の中心都市・アルビルを訪れた。ここには、モスルで戦闘の巻き添えになった負傷者を受け入れている病院がある。処置室には多くの負傷者。中には重傷を負った子どもの姿も見られる。
取材中に運び込まれたイラク軍の兵士に対しても、懸命の処置が続いていた。兵士は「イスラム国」のスナイパーに喉を撃たれたという。
「イスラム国」のイラクでの最大拠点・モスル。イラク軍などが奪還作戦を進め、特殊部隊は既にモスル市内に進軍しているが、「イスラム国」側は住民を「人間の盾」にして徹底抗戦。自爆テロも繰り返し、イラク軍の行く手を阻んでいる。
こうした中、モスルから逃れて来た住民の多くは、モスルとアルビルの間にある避難民キャンプで先の見えない過酷な生活を余儀なくされている。
「一刻も早く自宅に戻りたい」という思いから、イラク軍が一部の地区を「解放した」と発表すると、モスルの自宅へ戻っていく人々も多くいる。しかし、その先ではいまだ、「イスラム国」の反撃が続いている。
アルビルの病院に入院している14歳の少年・アフマドくん。イラク軍が、自宅のあるモスル市内東部の地区から「『イスラム国』を排除した」と発表したため、避難をせずに生活していたところ、「イスラム国」の砲弾が自宅に命中したという。
父親と兄弟3人は即死。無事だった母親とともに、この病院に運び込まれたものの、砲弾が腹部を貫通する重傷を負った。
アフマドくんの母親・カディジャさんは「(町は)1か月ぐらい前に(『イスラム国』から)解放され、とても安全でしたが、きのう突然、砲撃を受けました。ロケット弾の被害者は毎日増えています」と話す。
「イスラム国」の攻撃があったのは、取材の前日。カディジャさんの胸には、まだ血の痕が残っていた。
アルビル市内で出会った7歳のアフマドくんは、「イスラム国」がモスルを制圧した2014年6月、一家でバグダッドへ避難していた。
しかし、先月、自分たちが住んでいた地区がイラク軍によって解放されたという知らせを受け、2年半ぶりにモスルへ戻ったところ、その数日後、戦闘に巻き込まれた。アフマドくんの体には砲弾の破片が貫通。3度の手術を受け、一命をとりとめた。しかし、6つ上の兄・モアイヤドくんは死亡した。
その砲撃直後の様子を偶然、イラクのテレビ局が撮影していた。
「助けて!たくさん出血しているんです」
「神様…神様…『イスラム国』を潰してください。神様」
モアイヤドくんは大量に出血し、イラク軍による救命措置が行われたものの、その後、息を引き取った。
兄を亡くしたアフマドくんは「イスラム国」に対して、「神様に罰を与えてほしい」と話す。
イラク軍が「制圧した」とした地区でも「イスラム国」の反撃によって犠牲者が出続けているという現実。モスルの奪還作戦は長期化の様相を呈している。