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「クルド人は人じゃないですか?」迫害、難民申請却下…在日クルド人の訴え

2022年7月13日 15:04
「クルド人は人じゃないですか?」迫害、難民申請却下…在日クルド人の訴え
埼玉県・川口市に住むハニムさん一家

ロシアの軍事侵攻によるウクライナ避難民への支援が広がる一方で迫害から逃れ日本にきたものの支援を受けられない人々もいます。

「ウクライナ人が日本にきたとき政府は支援したり、会社が仕事をオファーしたり、家を無償でだしたりしている」「ウクライナ人は人ですが、私は人じゃないですか?」

命に関わる判断を、国籍や人種で判断しないでほしい、そう切実に訴えるクルド人家族を取材しました。(6月20日に放送した内容を再構成しています)

■故郷での迫害――

埼玉県・川口市に住むハニムさん一家。クルド人のハニムさんは、日本に住む親族を頼って7年前に2歳の長女をつれてトルコから来日。その後、3人の子供が日本で生まれました。

トルコ、シリア、イラク、イランなどにおよそ2000万人から3000万人が暮らすとされるクルド人は「国を持たない世界最大の民族」と言われています。ハニムさんが暮らすトルコでは、クルド人が自治や独立を求める動きは、テロとみなされ弾圧されてきました。

2015年、トルコ政府がクルド人武装組織に対して行った掃討作戦でおよそ1200人の住民が亡くなり、少なくとも35万人が避難生活を余儀なくされました。

その年、ハニムさんは、来日。ハニムさんは、幼い頃、父や兄が軍に連行され一時的に拘束された他、学校でもクルド人であることでいじめられ、クルド語を話しただけで先生に叩かれることもあったといいます。

■トルコから逮捕状――

トルコでの差別や迫害から逃れるため、日本にきたハニムさん。私たちに見せてくれたのはトルコの裁判所による資料の翻訳文。そこには「ハニム容疑者」と書かれています。

5年前、川口駅でクルド音楽を披露した動画をSNSに投稿したところ、テロのプロパガンダを広めているとしてトルコで逮捕状が出されたのです。

自分に逮捕状が出されていることを知らなかったハニムさんは、書類の手続きでトルコ大使館に出向いた際、国外渡航禁止命令が出ていると告げられパスポートも失効のスタンプが押され、移動の自由も奪われてしまいました。

■認められない難民申請、さらに在留資格まで…

ハニムさんは、2017年に難民申請をしましたが却下され、その後、トルコで出されている逮捕状、トルコ大使館によって無効にされたパスポートなどを迫害の証拠として提出し、不服申し立てを行いました。

この間、労働も可能になる「在留資格」が与えられていてハニムさんもケーキ店で働き生計をたてていました。しかし、去年末、再び難民申請は却下され、在留資格も更新できなくなったのです。

在留資格を失ったことで働くこともできなくなり、ケーキ店での仕事を辞めざるを得なくなりました。収入をたたれ今は親族に借金をして生活しています。

■子供の薬が買えない…

今、ハニムさんが一番心配しているのが重い心臓病をかかえる3歳の息子、アダル君です。埼玉県の病院で生まれたアダル君は、先天性の心臓疾患で5度の手術をうけました。現在もペースメーカーをつけて生活していて毎日、何種類もの薬をのんでいます。

しかし、在留資格を失い、健康保険が使えなくなったことで医療費は全額自己負担になってしまったのです。これまでのように約2ヶ月分の薬を求めたところ渡されたのは約21万円の領収書。11月に予定している次の手術費用についても、健康保険なしでは180万円以上かかると告げられました。薬は分割で払える分だけ買い、それまで毎月の通院しておこなっていた診療も2ヶ月に1回に減らしました。

医師から、アダル君は継続的な治療が必要だといわれていますが、費用をどうすればいいのか――。

■「ウクライナ人は人ですが、私は人じゃないですか?」

先月17日、ハニムさんはアダル君の薬代の領収書、診断書などを持参して入管におもむき、窮状を訴えました。

なんとか在留資格を認めて欲しい。難民認定までは望まなくとも、なんとか息子のために働けるようにしてほしい。しかし、この日も在留資格は認められませんでした。

ハニムさんは――

「ウクライナ人が日本にきたとき政府は支援したり、会社が仕事をオファーしたり、家を無償でだしたりしている」「ウクライナ人は人ですが、私は人じゃないのですか?」

■わずか0.7%の難民認定

日本は世界難民条約に加盟していますが昨年、難民認定されたのはわずか74人。4万人近いドイツや3万人をこえるカナダやフランスに比べ極端に少なく、認定率もわずか0.7%です。

なかでもトルコ国籍のクルド人は、これまで日本でひとりも難民認定されていません。(2022年6月時点)

これまで日本政府がトルコ国籍のクルド人の難民申請を認めていない事について、クルド人難民弁護団・事務局長を務める大橋毅弁護士は――

「日本の受け入れは外交関係に左右されます。日本政府はトルコ政府と友好的な関係を保とうとしているので、クルド人(の難民申請)は受け入れにくい。反対に、ウクライナ情勢をめぐっては日本は対ロシアという立場にあるので、ウクライナ市民は受け入れやすい、ということです。

日本では難民の認定判断を法務省管轄の入管庁がしているのですが、少なくとも外交関係などに影響を受けない独立した第三者的な機関を作り、そこに難民の認定不認定を任せるべきだと思います。

他の先進国では、少なくとも1回目の難民申請で認定されなかった人が不服申し立てをした段階で、ほぼ間違いなく独立性のある機関が判断しています。入管庁が悪いというより、そのような第三者機関が必要なのだと思います。そして現在の難民制度の中で取り残されている国籍の人たちが、いまでも苦しんでいるんです」