中学で必修化した「がん教育」 “未完成マンガ”で学ぶ、空白の吹き出しをどう埋める?「人によって、言われてうれしい言葉が違う」愛知・愛西市 立田中学校
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身近な人が“がん”になったとき、どんな言葉をかけますか?
2021年度より必修化した「がん教育」。その授業では、吹き出しが空白となった“未完成のマンガ”が起用されていました。
相手に“かけられたい言葉”を考える
先月、愛知県愛西市にある『立田中学校』で行われたモデル授業。その内容は、国民の2人に1人がなると言われている病気「がん」について。
実は中学校では、2021年度から保健体育の授業として「がん」教育が必修化。今年度で4年目となります。
しかし、同校の養護教諭・阿部佳子さん曰く、「他の健康課題に対する授業の方が、優先的になってしまう」といいます。中学生にとって、より身近であるSNS問題や睡眠不足などが、保健教育の中心となり、「がん」の扱いは最低限になっていたと言います。
また、身近な病気だからこそ、センシティブな問題も。「身内でがんにかかってるとか、子どもたちの心やつらい状態をえぐってしまうのかとか、そういった心配もあって」と、阿部さんは明かします。
こうした状況を受けて、用意されたのが“マンガ”。ページの頭には、「あなたは、がんになったピアノ講師です」「中学生の教え子にかけられたい言葉は?」と書かれています。
ピアノのレッスン中、「来週のレッスンずらせるかな?がんの治療で病院に行かないといけなくて…」と、教え子に自身の病状を明かすピアノ講師。
次のコマでは、「そっか・・・えっと・・・」と教え子の心情が描かれ、最後の教え子のふきだしは“空白”となっています。
これは、がんの学会が用意した「未完成マンガ」。「がん」になった人物になりきって、相手にかけられたい言葉を考える教材です。
さっそく取り組む生徒たち。しかし、言葉が思い浮かばないのか、あまり手が動きません。
「人によって、言われてうれしいことが違う」
生徒たちはどんな言葉を書いたのでしょうか。ペアになって、それぞれが考えた“セリフ”を発表します。
ピアノ講師役(男子生徒)
「・・・ところで来週のレッスンずらせるかな?」
教え子役(女子生徒)
(そっか・・・えっと・・・)
「全然大丈夫です。一生懸命練習して、上手になった姿を見せられるように頑張ります」
教え子役の生徒が考えた言葉に、「うれしいかも」と笑顔を浮かべる講師役の生徒。考えた言葉を書くだけでなく、実際に相手に反応をもらうことで、言葉の大切さ・重みを感じていました。
用意されたマンガは全部で4つ。他にはこんなパターンも。
「実は先生、健康診断でがんが見つかったんだ」と、教室で生徒たちに明かす先生。授業を終え、移動する先生に生徒が「あっ先生・・・!」と声をかけます。
このマンガでは、この言葉に続く吹き出しが空白となっています。生徒たちはどのような言葉を考えたのでしょうか。授業中、全員の前で発表していきます。
発表では、「がんに負けないでくださいね」という言葉に、拍手が起きることもあれば、「大丈夫?」というシンプルな言葉に笑いが起きる一幕も。
「大丈夫?」という言葉を考えた生徒は、マンガに書かれていた登場人物のプロフィールに注目。先生に声をかける生徒役のプロフィールは、“家族以外で一番身近な大人である先生とは、授業以外でもよく会話する”と書かれていました。
そんな2人の関係性をふまえ、「これは仲が良いしるし。あえて過剰に心配しすぎないのが大事」と、シンプルな言葉に込めた理由を明かしました。
生徒によって言われたい言葉はさまざま。授業後、生徒たちに感想を聞いてみると、「ちょっと難しいなって思ったりもしたけど、励まされたい気持ちが強かったので、そこまで悩まずに書けた」、「人それぞれ、言われてうれしいことが、違うとわかってよかった」など反応が寄せられました。
さらに、この教材には隠された狙いも。4つのマンガの主人公は、健康診断などでがんを早期発見できた設定なのです。
授業のなかで、「早期発見のために自分にできること、自分の大切な人を守るためにできることは何だろう」と問いかけた平野教諭。生徒からは、「生活習慣に気をつけたい」や「家族にも検診を勧めたい」などの声が上がりました。
なかでも平野教諭が注目したのは、“(がんを)言わずに終わるのではなく、ちゃんと言って伝える”という生徒の意見。
「“がんになったことを相手に伝えることが大切”というのは、こどもたちから出ると思わなかったので少し感動しました。最後に『大切な人に伝えたい』とか『声かけをしたい』ということが聞けただけで、この1時間(授業)は意味があった」と、“未完成のマンガ”を用いたがん教育への想いを述べました。