樹齢60〜70年の大黒柱にもなれる丸太が1本3000円...林業の課題に1本丸ごと販売につながる加工の工夫で取り組む団体、東京チェンソーズとは
今回のゲストは東京チェンソーズ代表の青木 亮輔さん。東京で林業に取り組み、新しい木材の価値創出に取り組む活動に“1分間で社会を知る動画”を掲げる「RICE MEDIA」のトムさんが迫りました。
東京で行う林業とは
青木さん「東京チェンソーズでは現在、30ヘクタールの保有林があります。広さで言うと東京ドーム約6個分になります。
大きなテーマとして「森林の価値を最大化」することを掲げています。
大きく4つの事業を行っています。1つは木を切る仕事、そして根っこから枝葉まで1本の価値を高める販売事業、森林を活用した場所を提案したり作ったりする森林サービス事業、町と森林をつなぐコミュニケーション事業の4つとなります。
東京チェンソーズの名前の由来は、東京にも林業があるということ、チェーンソーを使って仕事することがちゃんと伝わる名前にしました。
元々は地元の森林組合で5年ほど働いていました。その後、自由な発想で林業をやってみたい、現場で働く人の待遇をちゃんとしたいと思い、森林組合から独立する形で始めました。
林業全般の仕組みも基本的には、農協と漁協と同じ仕組みで、森林組合が機能しています。
私たちも独立した最初は森林組合から仕事を貰っていました。今も助け合う形で仕事を進めています」
青木さん「課題の話をしたら切りが無くて、一晩飲み明かす程です(笑)。ただその中で絞るとすると、人口だと思います。
日本は半分が人工林と言われていて、そこの管理をする人が減っていくことは1つの課題かなと思います。
また別の課題としては、樹齢60〜70年ほどの大黒柱になるような丸太が、市場に持って行っても1本3000円とかで取引されてしまうんです。
伐採・運搬などの手間をかけても1本当たりが安くなってしまっていることも課題だと思います。
日本の林業は、戦後〜高度経済成長期まではよかったと思います。 結局この高度経済成長の時に、その成長を支えるだけの国内の木がまだ成長してなかったんです。
戦後に植林された木はまだ若くて、 その受け皿になれませんでした。
結果的に海外の木材が自由化され、高度経済成長期以降は外国の木材にシェアを奪われてしまいどんどん衰退してしまいました。
今は日本の木材の自給率は大体4割ほどと言われています。日本に輸入される木は欧米産が中心です。
大量に木材を使う大手の業者では、安定供給が必要になります。
日本では人手が足りない、インフラがない、整備されていないなどの課題から、どうしても安定供給が難しいんです。
そういう意味で安定して使える海外の木材の需要は、まだまだ高い状態になっているんです。1〜2年で改善していくのは難しいなと思っています。
また地形的な課題もあります。
例えば、ヨーロッパは何十年も前から山の中にインフラを整備したり、山の傾斜が日本と比べて緩いなど林業に向いている状態です。
日本はどうしても急傾斜地なので、コストダウンも含めて難しいところがあります。
高度経済成長期を支えた木材が海外産だったため、お金が海外のものになってしまいました。
そこで日本林業が弱くなり、人が離れ他の仕事の方がよいという時代を迎えました。
非常に印象的だった出来事として、20年前に私が林業の世界に入ったときに、地元のおじさんに『大学まで出たのに何で林業をしているんだ?』と言われました。
地元の人からすると、林業は町で働けない人が仕方なくするという捉え方だったんです。
結果的に山側に住んでいる人たちが、山の仕事から離れてしまったので人口が減っていったと思っています」
青木さん「まず初めに一般的に販売するのは、真ん中のまっすぐな木材のみです。
根っこだったり、曲がった木は規格化出来ないということで、山の中に捨てられていました。
ただそういった捨てられていた木の一部を、例えば鍋敷きなどに加工すると、1枚約2000円で売れるようになります。
そういった個性を活かす売り方をしていくことで、1本の木を余すことなく使い切り、価値を高めていくということに今チャレンジしているところです。
基本的には素材の皮をむくところから始めます。
不揃いな素材を加工することに関して業界的には、こういった手間がかかる加工はやらないという方が多いんです。
私は逆にこの手間こそ、地域にとっては雇用を生むために大切だと考えています」
トムさん「こういった加工された商品は、ecサイトなどで購入できるのでしょうか?」
青木さん「根っこみたいな素材はさすがにecでの取り扱いはおこなっていません(笑)。こういった素材は市場に出回っていません。安定的に供給できる体制があんまりないためです。
こういった素材は主に、建築関係・設計関係・デザイン関係の人がちょっと面白い素材ということで気に入っていただきご利用いただきます。
根っこを加工する商品としては、根っこに穴を開けてその中に芋虫のおもちゃを入れて、マグネットに反応して芋虫が出てくるという仕組みのおもちゃを制作したりしています。
それとは別に枝や細い丸太の部分は、室内の壁に貼って丸太が見えるような空間を演出することに使ったり、キャンドルホルダーやマグネットに加工したりしています。
そういったものを“山男のガチャ”という名前のカプセルトイで販売しています(笑)。
その他にも檜原村の美術館・商業施設とかイベント会場に出かけていって物販を行う森デリバリーという取り組み・オンラインショップなどから購入可能です」
トムさん「人気商品はありますか?」
青木さん「圧倒的に人気なのは、バードコールですね(笑)。一般の方が鳥の鳴き声を奏でるために使われます。
どんな商品に需要があるのかというリサーチなどは、最初は自力で行っていました。
市場にある物で木で出来る物がないかなと作製し、森デリバリーで実際に値段や使用感を地道に調整していきました。
それで軌道に乗ってきたため、別の会社で商品開発や製品管理をしていたメンバーに入ってもらい、その方に管理をお願いして安定して供給が出来るようになってきました。
購入者の方は、自然に対してポジティブというか自然が好きな方がまずいます。その他にやはり都心部にお住まいで普段木に触れる機会のない方が圧倒的に反応がいいです。
また東京でやっている強みとして、建築関係の方々が素材をすぐに確認することが出来る、山に生えている木のストーリーを確認できるということも私たちの強みに繋がると思います」
青木さん「林業を行う組織は、小規模零細が圧倒的に多いです。私たちは正社員が21名ほど、アルバイトを含めると30名ほどで比較的大きい組織です。
ただ林業には一般的に4〜5名の小規模な事業者が多いです。そういった組織は、量を切るというよりは小さくて強い林業に着手出来た方がよいと思っています。
そういった意味では、広まっていく可能性は十分にあると思います。
林業が持っている経済性と社会性があると思っています。経済性というのは素材の価値ということだと思います。
社会性というのが、社会的な公益的な機能を高めるというような役割のことです。
山で働く人がどんどん減ってしまうと、山の手入れが行き届かなくなってしまって、 その社会性が下がってしまいます。
そうすると、例えば大雨が降ったら土砂崩れが起きたり、洪水が起きてしまう可能性があります。
そうならないように、国が補助金をこの業界に投入して、木材価格が安くても補助金で山の仕事を続けられるような環境を作ってきました。
そういういい面もありつつ、逆に言うと補助金をもらうことが目的になってしまって、補助金をもらうためのレールの上でしか、走れなくなってしまうという見方もあると考えています。
要は、自分たちで多様な価値観でオリジナリティーを持って林業に取り組むことができないことになってしまったっていうのが1つ大きな課題だと思っています。
そう考えると今後は林業事業体それぞれが持っているキャラを立てて、多様な盛り上がりになっていくとよいなと思います」
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本記事は、日テレNEWS NNN YouTubeチャンネルメンバーシップ開設記念番組「the SOCIAL season1」の発言をもとに作成されています。