アートだけだと遠すぎる...パターンやフォントまで落とし込み、障害のある人の文字や絵をパブリックデータとしてデザインするシブヤフォントの魅力
今回のゲストは、シブヤフォントのアートディレクターであるライラ・カセムさん。シブヤフォントが取り組む障害のある人の文字や絵を、パターンやフォントなどのパブリックデータに整えて企業などに販売するという取り組みを“1分間で社会を知る動画”を掲げる「RICE MEDIA」のトムさんが迫りました。
障害のある人が描いた絵や文字がデザインの力でアートに
ライラさん「障害福祉の分野で描かれる何気ないイラストや文字がすごく素敵だと感じ、どうやったらこういったものが社会でさらに身近につながるかという活動をしています。
シブヤフォントでは、渋谷区で働いたり住んでいたりする人たちと、デザインを学ぶ学生が共同で一緒にアートワークを作り、パターンやフォントといったいろいろな人が使いやすいパブリックデータに落とし込んで、企業や一般の方々に使って貰えるような状態にしています。
障害のある方々を社会とつなげることや、新たな収入を獲得するきっかけになることを目指しています。
障害を持っていることが強みになり、アートの個性に繋がっています。
例えば、手がすごく震えてしまうことがコンプレックスという方がいたんです。
でもその方が描いた絵は、学生さん達から『ビルが生えているみたいでカッコイイ! 渋谷っぽい』とすごく評判でした」
シブヤフォントでは、障害のある方が描いた絵やフォントをライラさんのようなアートディレクターがデザイン的な観点で工夫し、“パターン”まで仕上げるといいます。
ライラさん「そうしたらその方は今すごく自信がついて提案が止まらないんです(笑)。
毎回私が行くたびにスケッチブックを見せてアイデアを教えてくれます。学生さんとのコラボで積極的になって、自信をつけてもらえたんです。
1つ1つのパターンに制作のストーリーがあることもシブヤフォントの魅力だと思っています。
また、Tシャツなどでシブヤフォントのフォントとパターンをつかっているのですが、実際にデザインを行うクリエイターさんに『色の変更や、パターンの切り取りも可能です』と伝えるようにしています。
編集できることが強みだと考えていて、いろんな風に使って貰うことで、私たちと一緒に活動しているアーティストも『こんなふうに使われるんだ』と彼らのインスピレーションになるためです。
『次はこんな物を作ろう』と、どんどん前進していけることもシブヤフォントの特徴だと思います」
障害のある人の新たな収入となる可能性は? 事業性について
ライラさん「シブヤフォントのお客さんは、(業種として)アパレルがすごく多いです。
具体的には再生生地が使われている子供服ブランドにシブヤフォントが採用されました。
シブヤフォントは現在11の施設と一緒に活動しています。
障害福祉作業所は全国に5000ほどあると言われているので、アートで注目されているところはまだ一握りというのが現状です。
就労継続支援B型事業所の非雇用形態では平均収入が月に2000〜5000円、生活介護だと1000円弱になっているのが現状だと思います。
シブヤフォントでは、2023年度の売り上げが4000万円ほどになりました。そのうちの500万円を11の施設に還元することができました。
本当にまだまだこれからなんですけど、徐々に徐々に売り上げをあげていっています。 また、シブヤフォントのオフィスで利用者様向けに掃除などの内容で短期雇用の創出のお手伝いをしています。
いろんな形でみなさんが働く機会とともに、賃金を受け取る 機会を作っています」
ライラさん「2016年に『渋谷ならではのお土産』を作りたいという動きが渋谷区でありました。
その時に現・シブヤフォント代表の磯村が学生さん達と一緒にアイデアを考えていたんです。
1人の学生から『みんなが書く文字がおもしろいから、文字をフォント化していろいろなお土産に使うことができたらおもしろいんじゃないか』という案が出ました。
その提案が実際に渋谷区で採択されたのが最初のきっかけです。
その後、文字を書くことはできないけど、絵を描くことならできるという方も居るとわかってきたので、フォントだけでなくイラストを使ったパターンも展開するようになりました。
障害のある方のアートを活用した活動は、20〜30年ほど前からある動きだったのですが、あくまでアートとしての展開で間口が広くはない状態だったと思います。
人は感覚でものを買うこともあれば、ストーリーを大切にして買う場合もあると考えています。
なのでシブヤフォントではどちらでも購入出来るように、かっこよくてストーリー性のあるものを作れるようにしています」
ライラさん「夢は尽きないんですけど(笑)。やはりエンタメ・音楽とかとコラボしたいとずっと思っているんです。
ミュージシャンの衣装や、プロジェクションマッピングのショーでシブヤフォントが使われるみたいなエンタメとすごく相性がいいと思っています。
こういった部門でもっとシブヤフォントを活用してほしいなと思っています。
あとはシブヤフォントは海外でも『インクルーシブなプロジェクトをやりたいから、手伝ってほしい』と声がけされるようになってきました。
なので、8年間みんなで培った知識を海外にも伝えたいなと考えています。
最近では2023年に台湾で、2024年にはドイツのデザインショーでシブヤフォントが賞をいただきました。
世界のみなさんにも『福祉ってこんなにも面白いんだよ、福祉とコラボすればこんなこともできるよ!』ということをどんどん世界に伝えていきたいです。
海外でワークショップとかプロジェクトができたらなといつも妄想してます」
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本記事は、日テレNEWS NNN YouTubeチャンネルメンバーシップ開設記念番組「the SOCIAL season1」の発言をもとに作成されています。