“誰一人取り残さない”デジタル実現するか
発足から4か月がたったデジタル庁。“誰一人取り残さないデジタル化”の実現性、新たな人材育成など、2022年デジタル庁を巡る課題を探る。
■デジタル庁発足から4か月
21年9月1日、菅政権の看板政策のひとつとして発足したデジタル庁。
20年、全国民への10万円一律給付の際の支給の遅れなど、コロナ禍で日本のデジタル化の遅れが浮き彫りになったことが、デジタル庁発足の決め手となった。
デジタル庁は、これまでの霞が関にはなかった、公務員と民間出身の職員が官民一体で働く組織だ。
菅首相(当時)は発足式で、「立場を超えた自由な発想で、スピード感を持ちながら、行政のみならず、我が国全体を作り変えるくらいの気持ちで、知恵を絞ってほしい」と職員を激励した。
マイナンバーカードが保険証として利用できるようになり、新型コロナウイルスのワクチン接種証明書がアプリから取得できるようになるなど、着実に成果を出し始めたデジタル庁。発足から4か月、課題を探った。
■新しいデジタル人材育成を探る1年になるか
1つ目の課題は「デジタル人材の確保」だ。デジタル庁は、菅政権では、省庁の縦割り打破と、国と地方でバラバラな情報システムの統一が大きなミッションだった。
岸田政権となり、地方からデジタル化で変革の波を起こそうという「デジタル田園都市国家構想」が加わるなど、デジタル庁の業務量が増大した。
デジタル庁は、民間職員約200人のうち9割がほかの企業と兼業している。業務量が増えたことで本来は週2日デジタル庁勤務の民間職員が、出勤日以外も勤務するという事態となっている。「持っているリソースに対して寄せられる期待が大きすぎる」(デジタル庁関係者)との声が漏れる。
さらに、国会対応や国会議員へのレクチャーも増えたが、これまで通り官僚が担っていて、官民共に負担が重くなっている。
民間職員の採用期間は基本的に1年と、業務に慣れた頃に契約満期を迎えることになることから、22年は、デジタル人材の確保のため「デジタル庁専任で働く人を増やす」という採用方針を検討しているという。
■「誰一人取り残さない」は実現可能か
2つ目の課題は「デジタル格差」へのアプローチだ。デジタル庁が満を持して掲げたミッションは、「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」。
“スマホ1台ですべての行政手続きを60秒以内に完結させる”ことがうたい文句だが、実現への道のりは遠い。高齢者のスマホ利用が進んでいないことが大きな障壁となっている。
総務省が発表した「令和3年版 情報通信白書」によると、スマホの利用状況で、「よく利用している」「時々利用している」と答えた人は、18~29歳が98.7%なのに対し、60~69歳は73.4%、70歳以上に至っては40.8%にとどまっている。利用しない理由については「自分の生活には必要ないと思っている」や「どのように使えばよいかわからない」との回答が上位を占めた。
デジタル庁関係者は「スマホの利用拡大に向け、自治体や民間ともっと連携していく余地がある」と語る。実際に、民間でスマホ教室を開き高齢者に使い方を教える、ソフトバンクのスマホアドバイザー推進部の会田修庸さんに聞いてみた。
会田さんも、解決の糸口は「官民の連携」だと言う。スマホ教室に来て、初めてマイナポータルサイトの存在を知り、「こんな便利なものがあるとは知らなかった」と驚く高齢者を見て、行政サービスの情報発信の場として活用できることを確信した。
しかし、現実は、「一企業がスマホ教室を呼び掛けてもなかなか利用者が集まらず、スマホショップで待っていることしかできない。どうやったら教室に来てもらえるかということを考えている」(ソフトバンクのスマホアドバイザー推進部の会田さん)
高齢者の利用者が多い、いわゆる「ガラケー」に対応している3G停波が、KDDIでは22年3月などから順次始まる。「期限が迫ってると思うと、“誰一人取り残さない”を実現しないといけない」(会田さん)という中で、いかに自治体や民間と連携していくのか。デジタル庁のリーダーシップが問われることになる。
■2022年の展望は
22年、デジタル庁は、規制緩和によるデジタル活用の推進に取り組む。岸田首相は21年12月21日の会見で、デジタル化の妨げとなっている、書面提出や対面を義務付ける法律など4万件を点検することを表明した。
具体例として、目視が必要な道路などのインフラ点検や自動車の定期点検の規制の見直しや、介護士施設の人材配置規制の合理化を挙げた。介護施設では、センサーやロボットを活用することで、最小限必要な職員の数の規制を緩和する考えだ。
デジタル化、規制改革と行政改革を一体的に進めるため、岸田首相が設置した「デジタル臨時行政調査会」で、今春にも一括的な規制の見直しプランをまとめる方針だ。
立ち上がったばかりのデジタル庁。組織作りを進めるとともに、岸田政権の看板政策として、成果をあげる難しいかじ取りが求められる。