防衛費財源“増税”1週間で決着…その裏側は
防衛費増額のための増税をめぐり、自民党の税制調査会は15日、財源となる3つの税目を組み合わせる案を了承し、対応を税調会長に一任することを決めた。岸田首相が増税の指示を検討してわずか1週間で決着するまでに何があったのか。その裏側を解説する。
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■「乱暴」「税金で決意を示すべき」…賛否両論が白熱
15日午後3時から行われた自民党・税制調査会の会議は、予定時間を越えて2時間近くとなった。
税調幹部から、防衛費増額のための増税財源として、「法人税、たばこ税、復興特別所得税」の3つの税の具体的な増税の税率や、実施時期が初めて示されたのだが、出席した議員からは「議論がちゃんとできていない!突然言われて1週間で結論を出すのはおかしい」など、時に怒号が飛び、時には机や椅子をたたく音も聞こえたという。
【反対意見】
「増税そのものが国民の感覚とかけ離れている、被災地の感覚とかけ離れてるということで明確に反対を申し上げた」(自民党・和田政宗議員)
「ちゃんと説明をして理解して頂かなければ。スピード感が大事だとはいえ、いくらなんでも乱暴だ」(自民党・高鳥修一議員)
【賛成意見】
「まず税金での決意を示すべきではないでしょうか」(自民党・猪口邦子議員)
「責任ある防衛、責任ある政治のためにも、4兆円のうちの1兆円、税を国民の皆さんにしっかりお願いをして」(自民党・稲田朋美議員)
最終的には、3つの税目を組み合わせる案を了承、今後の対応を宮沢洋一税調会長に一任することが決まった。
■強気の岸田首相…そのワケは“安倍元首相の遺志”
増税検討の指示をしてからわずか1週間での決着。背景にあるのは、岸田首相の強い意志だ。首相は周辺に「将来世代に責任ある形で税目、中身、時期を示す事が大事だ」と力説する。政府関係者は“強気のワケ”をこう解説していた。
「理由は2つ。1つ目は、着実に防衛費増額を実行するには安定財源が必要で、防衛費増額を望む保守層は賛成してくれる。もう1つは、安倍元首相が生前話していたことを実行しようとしているから、安倍派の面々も矛をおさめるだろうと考えていた」(政府関係者)
しかし、その思惑に冷や水を浴びせたのが高市早苗経済安保相だ。
「賃上げマインドを冷やす発言をこのタイミングで発信された総理の真意が理解できません」とツイッターに投稿。さらに、西村経産相も会見で「今は賃上げ、投資、これに集中し成長軌道に乗せて税収の上振れにつなげるべきであるという観点から、このタイミングでの増税については慎重になるべきだと」と発言した。
さらに、増税検討の指示が出た翌9日に開かれた自民党の会議では、「防衛を考えると増税を避けるべきではない」などと理解を示す声も出る一方、「年末までに1兆円の増税を決めるのは拙速だ」などと、岸田首相の方針を公然と批判する声が相次いだ。
■自民党幹部が“助け船”「党内の反発は抑える」
そんな状況を心配した、ある自民党幹部が動いた。岸田首相に対して「今年は増税する税目と方式だけ決めて、実施時期は来年の税調で決めるという落としどころになれば、党内の反発は抑えられる」という案を提案したという。
党幹部は、「実施時期を決めないことで、歳出改革や決算剰余金を今言われている1兆円よりも多く生み出せば、1兆円増税しなくて済むことだって可能だ」と話す。
こうした声もあってか、最終的には増税反対派に配慮して、増税を始める時期を「再来年の2024年以降の適切な時期」とすることで決着。来年の税制調査会で再び議論が行われることになったため、増税反対派にしてみれば「増税をなしにできる可能性が残った」との解釈ができる余地を残した形だ。
自民党税調幹部は「増税の開始時期は明確には書き込まず、法人税の税率も配慮して対象も絞った。被災地にも配慮した。やれることはやった」と振り返る。
一方の岸田首相は、周辺にこう語る。
「再来年以降からやると決めているわけで、先送りではない。来年の経済状況を見て再来年からやるかどうか最終的に決めるというのは、当たり前といえば当たり前の話だ」
■残された課題…“実質的な所得税増” 岸田首相の説明は
岸田首相は10日の記者会見で「個人の所得税を負担が増加するような措置はとらない」と改めて強調した。
しかし、3つの税目のうちの1つ、「復興特別所得税」については、現在の税率2.1%を1.1%に引き下げた上で、2037年までとなっている課税期間を14年延長する。
課税期間が延長された2038年以降は、事実上の所得税“増税”となる。この事実上の“所得税増税”について、どのように国民に説明し、国民の理解を得られるか、岸田首相の手腕が問われる。