「北方領土交渉」進展はあるか? 記者解説
今週金曜日、安倍首相は今年2度目となるロシア・プーチン大統領との首脳会談を行う。焦点はロシアが実効支配する北方領土の問題で進展があるかどうかだ。先月、「ビザなし交流」の一員として島を訪問した日本テレビ政治部・矢岡亮一郎記者が解説する。
――今週はロシアで首脳会談。年内にはプーチン大統領の日本訪問も調整されていて、交渉の進展も期待してしまうが、実際に島を訪れてみてどうだったか。
北方4島、島ごとにロシア側の開発の力の入れ方に違いを感じた。最大の島・択捉島は、豪華な文化スポーツセンターの建設、そして温泉リゾートの計画など、ロシア側が最も開発に力を入れている。
一方で、今回、ビザなし訪問で見てきた国後島は、島の中心部だけの開発だった。同行した専門家は「見せかけの開発」とも表現していた。
そして、色丹島は人影もまばらで活気がなく、「開発は止まっている」という印象を受けた。
――こういった島ごとの違いから、ロシア側の意図をくみ取ることはできるか?
北方領土に何度も足を運んでいる専門家は、択捉島を「返したくない島」、国後島は「交渉次第で動かせる島」、面積の小さい色丹島や歯舞群島は「返還を想定した島」ではないかと指摘している。
――となると、交渉によっては、進展があるということか?
現実にはそう簡単ではなさそうだ。ある交渉担当者は「ロシア側の態度はかなり固い。楽観材料は一つもない」と話している。
交渉の厳しさは、安全保障の観点から見ると、よく分かる。ロシア極東地域の地図を見ると、北方領土の北にはオホーツク海がある。このオホーツク海には、ロシア海軍の潜水艦が展開しており、アメリカ本土を射程に収める核ミサイルも搭載可能だ。
ある防衛省の幹部は、このオホーツク海を「ロシアにとって安全保障の聖域」だと指摘している。北方領土、とりわけ択捉島と国後島が日本の手に渡れば、ロシアにとっては聖域に穴が開くことになるので、到底認められないというわけになる。
――一方で先週は、ビザなし訪問団の通訳の日本人男性が国後島で拘束されたというニュースも伝えたが、これは交渉に影響はありそうか?
この男性は、私が参加した先月の訪問団でも通訳を務めていて、実は私ずっと相部屋で寝泊まりしていた。すでに解放され、政府間交渉への影響はかなり限定的とみられる。
ただ、今回の一件が示したのは、ロシアが管轄権を行使しようと思えばいつでもできる、実効支配の現実。一筋縄にはいかないロシアとの外交交渉をどう切り開くのか、安倍首相の手腕が問われそうだ。