出産費用の保険適用化…結局自己負担高くなる?安くなる?
政府が3月31日に発表した“異次元の少子化対策のたたき台” その中には出産費用の保険適用について、将来的に検討を進める旨が盛り込まれた。では、出産費用が保険適用となった場合に、出産の際の自己負担は軽減されるのだろうか?
■「ウルトラCなやり方」出産費用の保険適用ナゼ目指す?
3月31日に発表された「異次元の少子化対策のたたき台」。
小倉少子化担当相は、会見で「出産に関して、4月からの出産育児一時金の50万円の大幅な引き上げにとどまらず、来年4月から出産費用の見える化、そしてそれらを踏まえ、出産費用の保険適用も含めたあり方の検討を進めていく」と述べた。
将来的な出産費用の保険適用も含めて検討することを示した形だが、この項目を並々ならぬこだわりを持って発信し始めたのが菅前首相だ。
「(妊婦の事前健診を含む)出産費用そのものを保険適用にさせていただき、個人負担分を支援をしていく」(3月20日、菅前首相)
現行の制度では、「妊娠・出産は病気ではない」として、妊娠・出産にかかる費用は、帝王切開などを除き、保険適用の対象外となっている。その負担を和らげるための「出産育児一時金」は、現状42万円だったものが、4月1日から50万円に増額された。
厚生労働省によると、2020年度の出産費用の全国平均額は46万7千円で、公的病院での出産費用は、一番高い東京都で55万3千円、一番安い佐賀県で35万1千円と、かなり地域差があるのが現状だ。
特に都市部では、一時金が50万円になっても足りない現状があり、代わりに保険適用とすることで、出産費用を「診療報酬」として全国一律で定め、子どもを産む負担感を少しでも和らげようという狙いがあるという。
今回の決定について、少子化対策を進めるある政府関係者は「出産は保険適用外だという今までの役所の理屈を覆してでも、出産費用の負担を減らそうとしているウルトラCなやり方。それだけ岸田首相の本気度があらわれている」と解説する。
政府がまとめたたたき台では「出産費用(正常分娩)の保険適用の導入を含め出産に関する支援等の在り方について検討を行う」という文言が入った。
では、出産費用を保険適用にした場合、何が変わるのか。
ある厚労省幹部は「保険適用にすれば患者の3割負担が発生するので、地域によってはこれまでよりも負担が増えるのでは」と指摘する。
つまり、現状は出産費用に対し出産育児一時金が出ていて、一時金を超える金額については自己負担となるが、出産費用を保険適用にし3割負担、一時金が廃止となると、これまでよりも負担額が増える場合があるのではないかという。
これについて、例えば菅前首相は「出産費用そのものを保険適用とし、負担分を支援をしていくことを実現をする方が現実的ではないか」と提案している。
自民党の幹部は「出産育児一時金を値上げするだけだと病院が出産費用を便乗値上げしてしまうので、それを防ぐためにも絶対に保険適用にすべきだ」と強調する。
岸田首相の側近は「まずは出産費用に何が幾らかかっているかわからない“ブラックボックス”の状態を見える化した上での判断となる」と指摘している。
つまり、現時点では出産費用を保険適用することで実際に出産をする女性の負担が減るかどうかはわかっていない。
9か月の女児を育てる母親からは「結果的に自己負担が少ない方がいい」といった声もあがるが、ある政権幹部は「高級産婦人科から地元の助産師さんまでいる中で、保険適用すると『今まではあそこで産めたのに、基準ができたから産めなくなった』という状況が生まれて逆に不便になることもあるのではないかと指摘する。
少子化対策のたたき台に盛り込まれた出産費用の保険適用の検討。果たして、ブラックボックス化した出産時の費用を明確にする突破口になるのか、出産費用を抑えた上で出産の"質"も保ち、少子化対策につなげられるのか、今後の調整が重要となる。